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第四章
ありがとう
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「いつからなんてはっきりとは覚えてないけど、出会った時からずっと可愛い子だなって思ってた。俺の授業の時の真剣な目も、図書室で窓の外見つめてる横顔も。全部可愛くて、綺麗で。よく考えればずっと視線で追ってたなって思う。
俺にとってあの図書室での時間は、仕事の疲れも忘れさせてくれる、すごく大切なものだった。でも、それはみゃーこがいたからだった」
「……」
「それに気が付いたのはあの卒業式の時だよ。馬鹿みたいだろ。それまで気が付かなかったんだ。いや、気付かないふりをしてただけかも。
だからこそ、四ノ宮先生には本当に感謝してる。四ノ宮先生がいなかったら、みゃーこは今ここにいなかったかもしれないし、俺もみゃーこと一緒にいられなかったから」
「……そうだったんだね。私も晴美姉ちゃんには感謝してるけど、今まで以上にもっと感謝しないとね」
修斗さんの話で両親が亡くなった時のことを思い出して、私の胸は締め付けられるように痛む。
「……あの時はごめんね。私、自分のことで精一杯で、周りが見えてなくって」
「それが普通。むしろみゃーこは一人で頑張りすぎてたくらいなんだから」
「……私、両親のことがあってから、ずっと自分を責めてて。
私があの日の旅行をプレゼントしなければ、とか。国内の旅行にしておけば、とか。いろいろ考えてるうちに目の前も頭の中も真っ暗になっちゃって」
「うん」
「皆の前でも、一人になっても、全然泣けなくて。体が震えるだけでね。寂しくて、苦しくて。どうしたらいいかわかんなかった」
両親が亡くなってから修斗さんと再会するまで、一度たりとも泣いたことがなかった。
人間、どんなにつらくても泣けない時だってあるのだと、痛感させられた。
目指していた大学も、一瞬で興味が無くなってしまうくらいには絶望していた。
それは嘘じゃなかった。本当に、興味が一切無くなってしまったのだ。
あの時、どうしてあの大学を目指していたのかすら、忘れてしまったくらいに。
「……ねぇ、修斗さん」
「ん?」
「私、なんであの大学目指してたんだっけ」
確か、修斗さんに相談しているうちにアドバイスされて、選んだような。
「忘れちゃった?」
「うん。なんか両親のことがあってから、高校の頃の記憶がごちゃ混ぜになってて。いろいろ忘れちゃったことが多いんだよね」
修斗さんとの出会い然り、大学についても然り。
ぽっかりと記憶から抜け落ちている部分がいくつかあった。
その抜け落ちた部分を脳が勝手に前後の記憶で雑に繋ぎ合わせようとするものだから、さらに曖昧になっていくのだ。
「図書室でさ、俺と二人で進路相談みたいなことしたの、覚えてる?」
「……え?」
そう言えば、前にそんな夢を見たような……見ていないような。
「その時に、みゃーこに将来の夢聞いたんだけど、覚えてない?」
「将来の夢……」
───そうだ。図書室で、そんな話をした。
「みゃーこに将来の夢を聞いたらさ、"教師に興味がある"って言ってたんだよ」
「……教師……」
「そう。俺を見てそう思ったって、言ってくれて嬉しかったなあ」
自分のことなのに、どこか他人事のような気持ちになるのは、多分自分に教師なんて向いてないって、今の私にはわかっているからだと思う。
多分、幼いながらに修斗さんの姿に憧れていたのだろう。
優しくて、頼れて、授業もわかりやすい。
修斗さんみたいに、悩んでいる生徒の相談に乗ってあげられるような、そんな教師に、興味があったのだろうか。
自分のことなのに、全然わからないや。
「……でもそれなら私、教師にならなくて良かった。反対を押し切って東京行って良かった」
「え?」
「教師になったり、東京行かないでこの町で皆に支えられて生きてたら、多分今こうやって修斗さんと一緒にいなかったと思うから」
周りの人の温かさも、そばに誰かがいてくれる喜びも、愛する人と一緒にいられる幸せも。
周りに恵まれていることにすら全部気が付かないまま、知らないまま、どうしようもなく自堕落な生活をしていたことだろう。
「確かに。俺もみゃーこが東京行かなかったら、自分の気持ちに気付いてなかったかも」
確かに苦しかったし、しんどかったけれど。
向こうでの生活も、無駄ではなかったということだ。
「ありがとう修斗さん。私を見捨てないでくれて」
「見捨てるわけないだろ?俺にとっては、みゃーこが一番大切なんだから。むしろこっちがありがとうだよ。俺を選んでくれて、ありがとう」
どちらからともなく重なる唇。
触れるだけのキスから、徐々に深く、濃密になっていく。
ぬるりと入り込んできた舌が、私の口内を味わうように動いていた。
ほんの少し身体を離して、数秒見つめ合う。
「……いい?」
コクリと頷くと、手を引かれて私の寝室へ向かう。
部屋に入ると同時にドアに押し付けられるように抑えられ、もう一度濃密なキスが降ってくる。
「んっ……はぁっ、あ……」
それは荒々しいものではなくて、いつにも増してゆっくりと私を味わいつつ甘く刺激する。
キスをしながら誘導されるように移動してベッドに押し倒されて、耳や首、鎖骨にうなじなど、目に見えるところは全て唇が優しく這う。
首筋を舌でペロリと舐められた時には、思わず
「ひゃっ……!?」
甲高い声が漏れてしまった。
「今日は、いつも以上に優しくしてあげるね」
「ま、って……あぁっ……」
「もう俺無しじゃいられないくらいに、愛してあげるから」
その言葉と溢れ出る色気に、頭がクラクラしてしまう。
もう、私はすでに修斗さん無しじゃいられないのに。これ以上、私を堕としてどうするのだろう。
いつのまにか服も脱がされてしまい下着姿になり、露わになった肌にも丁寧に一つ一つキスを落としていく。言葉通り、いつも以上に優しく、いつも以上に時間をかけて、ゆっくりと愛撫されていく。
なんだか、そのキスだけで全身がとろけてしまいそうだ。
「……ここ好き?全部教えて?」
私の感じるポイントを焦らしながら敢えて脇腹を摩るように撫でたり、内腿に指を這わせたり。
一番触れて欲しいところには触れてくれないのに、それだけで呼吸は乱れ身体は捩れ、全身が熱く火照る。
私を見下ろすその目が。私の名前を呼ぶその声が。私を刺激するその手が、指が。これでもかというほどに、溢れるほどの愛を伝えてくれる。
その愛に私はすでにどっぷりと溺れてしまい、もう抜け出すことは不可能だ。
修斗さんの全てが私を翻弄し、その滾る視線に負けないくらい私を欲情させることに、彼は気付いていないのかもしれない。
早く触って欲しくて、早く愛して欲しくて、必死にその身体を求めた。
「しゅ……と、さんっ」
我慢ができなくて、自分で下着を取る。
そして縋るように見つめると、その視線はどんどん熱く変わっていく。
「ひぁっ……あぁっ!」
ようやくその長い指が、一番敏感なところに触れた時。待ち侘びていた快感に、その手が離れないように自分で押さえる。
もっと触って欲しくて、何度も身体が仰反るように跳ねた。
「も、だめ……ちょうだい」
「っ、……可愛いけどまだダメ。もうちょっと」
修斗さんは、こういう時にちょっと意地悪になる。
でも、それが嫌いかって言われると、それには頷けないから悔しい。
だって、意地悪してても私が本気で嫌がることは絶対にしない。
私の気持ちを一番に考えてくれているのがよくわかるから。
だから、そんな意地悪な修斗さんでも、好きなのだ。
これが惚れた弱みというやつか。
「……お願いっ、も……、早くっ」
「そう、もっと俺を求めて。もっと縋って」
その言葉にもう我慢できなくて、無意識のうちにベルトに手を掛ける。
「お願いっ……ちょうだいっ」
「……っ、本当、可愛すぎっ……俺の理性が持たねぇわ」
顔を抑えて笑ったかと思うと、とろけるような甘いキスに酔いしれる。それと共に、部屋中に私の嬌声が響き渡った。
翌朝は、アラームをかけ忘れてしまったために寝坊してしまい、二人揃って慌てて出勤の準備をした。
お弁当を作る時間も無く、修斗さんには申し訳ないけれど食堂で食べてもらうように伝えると「気にしないで。俺が無理させたのが悪い」とにこやかに笑ってくれて。
「昨日のみゃーこ、マジで可愛かった。大好き。愛してる」
甘い言葉と共に、お互いを求めるような激しいキス。
腰が抜けかけた私を軽々と抱えて、愛おしそうに見つめる。
「行ってきます」
「……行ってらっしゃい」
昨夜の情事が一気に思い出されて、出勤してからもしばらく顔の赤みがおさまらなかった。
───そして、それから数ヶ月の月日が流れた。
俺にとってあの図書室での時間は、仕事の疲れも忘れさせてくれる、すごく大切なものだった。でも、それはみゃーこがいたからだった」
「……」
「それに気が付いたのはあの卒業式の時だよ。馬鹿みたいだろ。それまで気が付かなかったんだ。いや、気付かないふりをしてただけかも。
だからこそ、四ノ宮先生には本当に感謝してる。四ノ宮先生がいなかったら、みゃーこは今ここにいなかったかもしれないし、俺もみゃーこと一緒にいられなかったから」
「……そうだったんだね。私も晴美姉ちゃんには感謝してるけど、今まで以上にもっと感謝しないとね」
修斗さんの話で両親が亡くなった時のことを思い出して、私の胸は締め付けられるように痛む。
「……あの時はごめんね。私、自分のことで精一杯で、周りが見えてなくって」
「それが普通。むしろみゃーこは一人で頑張りすぎてたくらいなんだから」
「……私、両親のことがあってから、ずっと自分を責めてて。
私があの日の旅行をプレゼントしなければ、とか。国内の旅行にしておけば、とか。いろいろ考えてるうちに目の前も頭の中も真っ暗になっちゃって」
「うん」
「皆の前でも、一人になっても、全然泣けなくて。体が震えるだけでね。寂しくて、苦しくて。どうしたらいいかわかんなかった」
両親が亡くなってから修斗さんと再会するまで、一度たりとも泣いたことがなかった。
人間、どんなにつらくても泣けない時だってあるのだと、痛感させられた。
目指していた大学も、一瞬で興味が無くなってしまうくらいには絶望していた。
それは嘘じゃなかった。本当に、興味が一切無くなってしまったのだ。
あの時、どうしてあの大学を目指していたのかすら、忘れてしまったくらいに。
「……ねぇ、修斗さん」
「ん?」
「私、なんであの大学目指してたんだっけ」
確か、修斗さんに相談しているうちにアドバイスされて、選んだような。
「忘れちゃった?」
「うん。なんか両親のことがあってから、高校の頃の記憶がごちゃ混ぜになってて。いろいろ忘れちゃったことが多いんだよね」
修斗さんとの出会い然り、大学についても然り。
ぽっかりと記憶から抜け落ちている部分がいくつかあった。
その抜け落ちた部分を脳が勝手に前後の記憶で雑に繋ぎ合わせようとするものだから、さらに曖昧になっていくのだ。
「図書室でさ、俺と二人で進路相談みたいなことしたの、覚えてる?」
「……え?」
そう言えば、前にそんな夢を見たような……見ていないような。
「その時に、みゃーこに将来の夢聞いたんだけど、覚えてない?」
「将来の夢……」
───そうだ。図書室で、そんな話をした。
「みゃーこに将来の夢を聞いたらさ、"教師に興味がある"って言ってたんだよ」
「……教師……」
「そう。俺を見てそう思ったって、言ってくれて嬉しかったなあ」
自分のことなのに、どこか他人事のような気持ちになるのは、多分自分に教師なんて向いてないって、今の私にはわかっているからだと思う。
多分、幼いながらに修斗さんの姿に憧れていたのだろう。
優しくて、頼れて、授業もわかりやすい。
修斗さんみたいに、悩んでいる生徒の相談に乗ってあげられるような、そんな教師に、興味があったのだろうか。
自分のことなのに、全然わからないや。
「……でもそれなら私、教師にならなくて良かった。反対を押し切って東京行って良かった」
「え?」
「教師になったり、東京行かないでこの町で皆に支えられて生きてたら、多分今こうやって修斗さんと一緒にいなかったと思うから」
周りの人の温かさも、そばに誰かがいてくれる喜びも、愛する人と一緒にいられる幸せも。
周りに恵まれていることにすら全部気が付かないまま、知らないまま、どうしようもなく自堕落な生活をしていたことだろう。
「確かに。俺もみゃーこが東京行かなかったら、自分の気持ちに気付いてなかったかも」
確かに苦しかったし、しんどかったけれど。
向こうでの生活も、無駄ではなかったということだ。
「ありがとう修斗さん。私を見捨てないでくれて」
「見捨てるわけないだろ?俺にとっては、みゃーこが一番大切なんだから。むしろこっちがありがとうだよ。俺を選んでくれて、ありがとう」
どちらからともなく重なる唇。
触れるだけのキスから、徐々に深く、濃密になっていく。
ぬるりと入り込んできた舌が、私の口内を味わうように動いていた。
ほんの少し身体を離して、数秒見つめ合う。
「……いい?」
コクリと頷くと、手を引かれて私の寝室へ向かう。
部屋に入ると同時にドアに押し付けられるように抑えられ、もう一度濃密なキスが降ってくる。
「んっ……はぁっ、あ……」
それは荒々しいものではなくて、いつにも増してゆっくりと私を味わいつつ甘く刺激する。
キスをしながら誘導されるように移動してベッドに押し倒されて、耳や首、鎖骨にうなじなど、目に見えるところは全て唇が優しく這う。
首筋を舌でペロリと舐められた時には、思わず
「ひゃっ……!?」
甲高い声が漏れてしまった。
「今日は、いつも以上に優しくしてあげるね」
「ま、って……あぁっ……」
「もう俺無しじゃいられないくらいに、愛してあげるから」
その言葉と溢れ出る色気に、頭がクラクラしてしまう。
もう、私はすでに修斗さん無しじゃいられないのに。これ以上、私を堕としてどうするのだろう。
いつのまにか服も脱がされてしまい下着姿になり、露わになった肌にも丁寧に一つ一つキスを落としていく。言葉通り、いつも以上に優しく、いつも以上に時間をかけて、ゆっくりと愛撫されていく。
なんだか、そのキスだけで全身がとろけてしまいそうだ。
「……ここ好き?全部教えて?」
私の感じるポイントを焦らしながら敢えて脇腹を摩るように撫でたり、内腿に指を這わせたり。
一番触れて欲しいところには触れてくれないのに、それだけで呼吸は乱れ身体は捩れ、全身が熱く火照る。
私を見下ろすその目が。私の名前を呼ぶその声が。私を刺激するその手が、指が。これでもかというほどに、溢れるほどの愛を伝えてくれる。
その愛に私はすでにどっぷりと溺れてしまい、もう抜け出すことは不可能だ。
修斗さんの全てが私を翻弄し、その滾る視線に負けないくらい私を欲情させることに、彼は気付いていないのかもしれない。
早く触って欲しくて、早く愛して欲しくて、必死にその身体を求めた。
「しゅ……と、さんっ」
我慢ができなくて、自分で下着を取る。
そして縋るように見つめると、その視線はどんどん熱く変わっていく。
「ひぁっ……あぁっ!」
ようやくその長い指が、一番敏感なところに触れた時。待ち侘びていた快感に、その手が離れないように自分で押さえる。
もっと触って欲しくて、何度も身体が仰反るように跳ねた。
「も、だめ……ちょうだい」
「っ、……可愛いけどまだダメ。もうちょっと」
修斗さんは、こういう時にちょっと意地悪になる。
でも、それが嫌いかって言われると、それには頷けないから悔しい。
だって、意地悪してても私が本気で嫌がることは絶対にしない。
私の気持ちを一番に考えてくれているのがよくわかるから。
だから、そんな意地悪な修斗さんでも、好きなのだ。
これが惚れた弱みというやつか。
「……お願いっ、も……、早くっ」
「そう、もっと俺を求めて。もっと縋って」
その言葉にもう我慢できなくて、無意識のうちにベルトに手を掛ける。
「お願いっ……ちょうだいっ」
「……っ、本当、可愛すぎっ……俺の理性が持たねぇわ」
顔を抑えて笑ったかと思うと、とろけるような甘いキスに酔いしれる。それと共に、部屋中に私の嬌声が響き渡った。
翌朝は、アラームをかけ忘れてしまったために寝坊してしまい、二人揃って慌てて出勤の準備をした。
お弁当を作る時間も無く、修斗さんには申し訳ないけれど食堂で食べてもらうように伝えると「気にしないで。俺が無理させたのが悪い」とにこやかに笑ってくれて。
「昨日のみゃーこ、マジで可愛かった。大好き。愛してる」
甘い言葉と共に、お互いを求めるような激しいキス。
腰が抜けかけた私を軽々と抱えて、愛おしそうに見つめる。
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「……行ってらっしゃい」
昨夜の情事が一気に思い出されて、出勤してからもしばらく顔の赤みがおさまらなかった。
───そして、それから数ヶ月の月日が流れた。
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