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第三章
17 大雅side
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『もう、毎朝大雅に会いに行くのはやめるから。付き纏ったりしないから。本当に今までごめんなさい。
もう大雅には会わない。だから、安心してね。彼女さんとお幸せにね。……言いたいことはそれだけ。じゃあ、時間をくれてありがとう。さよなら』
俺には彼女なんていないとか、言いたいことだけ言って勝手に帰るとかなんなんだとか、謝るくらいなら最初からこんなことするなとか、そんなことは全部どうでも良くて。
……いいじゃないか。これでもう、あいつが俺につきまとってくることはないんだから。
もう俺に会わないって言っていたんだ。日常が戻ってくるだけじゃないか。そう思うのに。
何故かあの女の言葉と悲痛な表情が、何度まばたきしてもずっと目に焼き付いていた。
あいつが公園を出て行ってからもずっとモヤモヤしていて、俺はその場から動くことができなかった。
その日から、本当にあいつは朝俺の元へくることが無くなった。
それを待ち望んでいたはずなのに。やっと落ち着くはずなのに。
どうしてか、学校帰りの俺の足は毎日あの公園に向かっていた。
あたりまえだけど、あいつはここにいない。
でも、数日前にここで言われたことが頭から離れない。
どれくらい時間が経っただろうか。来た時にはまだ明るかった空が、いつのまにか夕焼けで綺麗なオレンジ色に輝いていた。
「……兄ちゃん?」
聞き慣れた声に振り向くと、公園の入口で弟の龍雅が驚いたように俺を見つめていた。
「……龍雅」
「そんなところで突っ立って何してんの?」
「……ちょっと、な」
「ふーん?まぁいいや。今日の晩メシ何か母さんから聞いてる?俺さっきまで友達とバスケしててめちゃくちゃ腹減ってんだよね」
「朝からあげかハンバーグどっちがいいって聞かれたから、からあげって答えた」
「お、さすが兄ちゃん!大盛りにしてもらってがっつり食おうっと」
俺が言葉を濁したことなど気にする素振りも見せず、食べ物のことしか考えていない龍雅。
……こいつは、全部知ってるんだよな。
確か、俺が二年前に目を覚ましたときに誰よりもあの女のことを必死に教えようとしてきたのは龍雅だった。
次第に逃げるように耳を塞いで怒鳴り散らす俺に一度は諦めたようだったけど、しばらく何か物言いたげな表情をしていたと思う。
普段は二年前と変わらずに"兄貴"として慕ってくれているように見えるけれど、今実際に龍雅がどう思っているのかはわからない。
「……なぁ、龍雅」
「ん?どうした?」
この二年間、俺からこの話題に触れることはなかった。
だけど、どうしても胸騒ぎが止まらないんだ。
モヤモヤして、胸の中がざわつくんだ。
まるで、"これが最後のチャンスだ"って言われてるみたいに。
今、ちゃんと向き合わないと一生後悔する気がするんだ。
まだ頭は痛い。だけど、これくらいなら我慢できる。
「……俺は、一体何を忘れてるんだ?」
なぁ龍雅。俺はもう逃げないから、全部教えてくれないか?
あの事故のことも、あの女のことも、俺が忘れてる、"全部"を。
俺の言葉に目を見開いた龍雅は、俺の元へゆっくりと歩いてきて。
「今なんて言った?」
聞いたことのないような低い声が、俺の胸を貫く。
「……俺が忘れてることを、教えて欲しいんだ」
そして、
「……ふっざけんな!」
そう叫んで、俺の頬を思い切り殴ってきた。
もう大雅には会わない。だから、安心してね。彼女さんとお幸せにね。……言いたいことはそれだけ。じゃあ、時間をくれてありがとう。さよなら』
俺には彼女なんていないとか、言いたいことだけ言って勝手に帰るとかなんなんだとか、謝るくらいなら最初からこんなことするなとか、そんなことは全部どうでも良くて。
……いいじゃないか。これでもう、あいつが俺につきまとってくることはないんだから。
もう俺に会わないって言っていたんだ。日常が戻ってくるだけじゃないか。そう思うのに。
何故かあの女の言葉と悲痛な表情が、何度まばたきしてもずっと目に焼き付いていた。
あいつが公園を出て行ってからもずっとモヤモヤしていて、俺はその場から動くことができなかった。
その日から、本当にあいつは朝俺の元へくることが無くなった。
それを待ち望んでいたはずなのに。やっと落ち着くはずなのに。
どうしてか、学校帰りの俺の足は毎日あの公園に向かっていた。
あたりまえだけど、あいつはここにいない。
でも、数日前にここで言われたことが頭から離れない。
どれくらい時間が経っただろうか。来た時にはまだ明るかった空が、いつのまにか夕焼けで綺麗なオレンジ色に輝いていた。
「……兄ちゃん?」
聞き慣れた声に振り向くと、公園の入口で弟の龍雅が驚いたように俺を見つめていた。
「……龍雅」
「そんなところで突っ立って何してんの?」
「……ちょっと、な」
「ふーん?まぁいいや。今日の晩メシ何か母さんから聞いてる?俺さっきまで友達とバスケしててめちゃくちゃ腹減ってんだよね」
「朝からあげかハンバーグどっちがいいって聞かれたから、からあげって答えた」
「お、さすが兄ちゃん!大盛りにしてもらってがっつり食おうっと」
俺が言葉を濁したことなど気にする素振りも見せず、食べ物のことしか考えていない龍雅。
……こいつは、全部知ってるんだよな。
確か、俺が二年前に目を覚ましたときに誰よりもあの女のことを必死に教えようとしてきたのは龍雅だった。
次第に逃げるように耳を塞いで怒鳴り散らす俺に一度は諦めたようだったけど、しばらく何か物言いたげな表情をしていたと思う。
普段は二年前と変わらずに"兄貴"として慕ってくれているように見えるけれど、今実際に龍雅がどう思っているのかはわからない。
「……なぁ、龍雅」
「ん?どうした?」
この二年間、俺からこの話題に触れることはなかった。
だけど、どうしても胸騒ぎが止まらないんだ。
モヤモヤして、胸の中がざわつくんだ。
まるで、"これが最後のチャンスだ"って言われてるみたいに。
今、ちゃんと向き合わないと一生後悔する気がするんだ。
まだ頭は痛い。だけど、これくらいなら我慢できる。
「……俺は、一体何を忘れてるんだ?」
なぁ龍雅。俺はもう逃げないから、全部教えてくれないか?
あの事故のことも、あの女のことも、俺が忘れてる、"全部"を。
俺の言葉に目を見開いた龍雅は、俺の元へゆっくりと歩いてきて。
「今なんて言った?」
聞いたことのないような低い声が、俺の胸を貫く。
「……俺が忘れてることを、教えて欲しいんだ」
そして、
「……ふっざけんな!」
そう叫んで、俺の頬を思い切り殴ってきた。
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