22 / 33
第三章
22 大雅side
しおりを挟む
「……事故の後、兄ちゃんが目を覚ました時、まず芽衣の話題が出なかったから不思議だった。兄ちゃんなら、真っ先に芽衣の心配をするはずだと思った」
俺が少し落ち着きを取り戻した頃、母さんは病院と父さんに連絡するからと一度自分の部屋に戻ることにした。
ドアを閉めて少ししてから、一緒に部屋にきた龍雅がぽつりと話し始めたのは、俺が記憶を無くした後の話だった。
「でも兄ちゃんは芽衣の話どころか事故のこともうろ覚えで。まぁ、あの事故は目撃者が多かったから事故の状況はすぐ知れたんだけどさ」
「目撃者……」
そこまで大きな道路じゃなくても、花火大会で賑わっていた周辺。
いくらでも目撃情報はあったのだろう。
「最初は芽衣に合わせる顔がなくて避けてるのかと思ってた。でも、それなら尚更芽衣の話を何もしないのが気になったんだ。いつもの兄ちゃんなら、まず間違いなく芽衣の怪我の具合とかを心配するはずだと思った。だから色々声かけてみたんだけど全部はぐらかされたりスルーされたりして。やっぱおかしいなって思った。だから、兄ちゃんが芽衣のことを忘れてるって知った時は、俺はショックと同時に腑に落ちたって言うか……少し納得しちゃったんだ」
そうでもなきゃ、俺が芽衣の心配をしないわけがない。
龍雅はそう思ったのだろう。
俺だってそう思う。
「芽衣は、当たり前だけど兄ちゃんに忘れられてるのはショックだって言ってた。だけど、絶対に思い出してもらうから大丈夫って笑ってた。自分の身体の方が大変なのに、それでも笑ってたんだ」
龍雅は、つらそうに拳を握る。
そして、俺の方を向いた。
「芽衣は、もう会わないって言ったんだよな?」
「……あぁ」
「……あんなに諦めないって言ってたのに、芽衣は、どうして急にそんなこと…… 」
「わからない。だけどあいつ、言ってたんだ。"彼女さんとお幸せに"って」
「え?兄ちゃん、彼女いたわけ?」
「いや、いない」
「それって……」
「……あぁ。もしかしたら、勘違いしてるのかもしれない」
俺と奈子が付き合っているらしいという噂が回っているのは知っていた。
だけど、俺は奈子に断っているし噂なんてすぐ消えるだろうからどうでもいいと思って否定も肯定もしていなかった。
勘違いされて困るような相手もいなかったし、そんな嘘を広めて、それで気が済むなら勝手にすればいいって。
もしその結果、芽衣が本当に俺と奈子が付き合ってるって誤解してたとしたら?
それで、芽衣が俺と奈子を引き裂くわけにはいかないと、自ら身を引こうと思っていたとしたら?
そう考えれば、全てがつながる気がした。
「だとしたら、早く誤解を解かないといけないんじゃ……」
「……だけど、今さら俺にそんな資格ねぇよ」
芽衣を傷付けた俺には、そんな資格は無い。
むしろ、もしかしたらこのまま俺のことなんて忘れてしまった方が芽衣のためなのかもしれない。
俺のことなんて気にせずに、芽衣は自分の人生を生きていってもらいたい。
それが、俺が芽衣にできる唯一のことなのではないだろうか。
「……それは、本心?兄ちゃんは、それでいいの?」
「……」
「それでいいのかって聞いてんだよッ!」
「いいわけねぇだろッ!」
「っ」
「いいわけ……ねぇだろ。……でも、こうするしかねぇんだよ。今さらどんな顔して芽衣に会えばいい?芽衣に会って誤解を解いて、それで本当に芽衣は救われるのか?俺のことなんてもう、忘れちまった方が芽衣のためになるん──」
「ふっざけんなよ!?」
再び、龍雅が俺の胸ぐらを掴む。
その手は大きく震えていて、その目には大粒の涙が溜まっていて。
……俺はまた、何か間違っているのだろうか。
もう、何が正解なのかわからない。
「兄ちゃんがそんなこと言っちまったら……芽衣はどうなる?今までの芽衣の気持ちは?兄ちゃんを助けた芽衣の想いは?今度は芽衣がそれを全部忘れてこれから生きていけって言うのか?」
「……だって、じゃあどうすればいいんだよ」
今全てを思い出したばかりの俺には、それ以外の方法なんて思い浮かばないんだ。
しかし、
「またそうやって逃げんのか」
そう言われて、俺はハッとして龍雅を見つめた。
「現実と向き合うんじゃなかったのかよ。芽衣と向き合うんじゃなかったのかよ。もう逃げないって言ったのは嘘だったのか?思い出したらつらすぎて逃げたくなりましたってか?……ハッ……見損なったよ。芽衣に対する兄ちゃんの気持ちって、その程度だったんだな。それなら、芽衣は俺がもらうから」
龍雅は呆れたようにそう言って、俺から手を離して部屋を出ていった。
玄関のドアが開いて、閉まる音がした。
俺は、その日呆然としたまま一日を過ごした。
仕事から帰ってきた父さんの話もろくに聞かずに、部屋に閉じこもることしかできなかった。
俺が少し落ち着きを取り戻した頃、母さんは病院と父さんに連絡するからと一度自分の部屋に戻ることにした。
ドアを閉めて少ししてから、一緒に部屋にきた龍雅がぽつりと話し始めたのは、俺が記憶を無くした後の話だった。
「でも兄ちゃんは芽衣の話どころか事故のこともうろ覚えで。まぁ、あの事故は目撃者が多かったから事故の状況はすぐ知れたんだけどさ」
「目撃者……」
そこまで大きな道路じゃなくても、花火大会で賑わっていた周辺。
いくらでも目撃情報はあったのだろう。
「最初は芽衣に合わせる顔がなくて避けてるのかと思ってた。でも、それなら尚更芽衣の話を何もしないのが気になったんだ。いつもの兄ちゃんなら、まず間違いなく芽衣の怪我の具合とかを心配するはずだと思った。だから色々声かけてみたんだけど全部はぐらかされたりスルーされたりして。やっぱおかしいなって思った。だから、兄ちゃんが芽衣のことを忘れてるって知った時は、俺はショックと同時に腑に落ちたって言うか……少し納得しちゃったんだ」
そうでもなきゃ、俺が芽衣の心配をしないわけがない。
龍雅はそう思ったのだろう。
俺だってそう思う。
「芽衣は、当たり前だけど兄ちゃんに忘れられてるのはショックだって言ってた。だけど、絶対に思い出してもらうから大丈夫って笑ってた。自分の身体の方が大変なのに、それでも笑ってたんだ」
龍雅は、つらそうに拳を握る。
そして、俺の方を向いた。
「芽衣は、もう会わないって言ったんだよな?」
「……あぁ」
「……あんなに諦めないって言ってたのに、芽衣は、どうして急にそんなこと…… 」
「わからない。だけどあいつ、言ってたんだ。"彼女さんとお幸せに"って」
「え?兄ちゃん、彼女いたわけ?」
「いや、いない」
「それって……」
「……あぁ。もしかしたら、勘違いしてるのかもしれない」
俺と奈子が付き合っているらしいという噂が回っているのは知っていた。
だけど、俺は奈子に断っているし噂なんてすぐ消えるだろうからどうでもいいと思って否定も肯定もしていなかった。
勘違いされて困るような相手もいなかったし、そんな嘘を広めて、それで気が済むなら勝手にすればいいって。
もしその結果、芽衣が本当に俺と奈子が付き合ってるって誤解してたとしたら?
それで、芽衣が俺と奈子を引き裂くわけにはいかないと、自ら身を引こうと思っていたとしたら?
そう考えれば、全てがつながる気がした。
「だとしたら、早く誤解を解かないといけないんじゃ……」
「……だけど、今さら俺にそんな資格ねぇよ」
芽衣を傷付けた俺には、そんな資格は無い。
むしろ、もしかしたらこのまま俺のことなんて忘れてしまった方が芽衣のためなのかもしれない。
俺のことなんて気にせずに、芽衣は自分の人生を生きていってもらいたい。
それが、俺が芽衣にできる唯一のことなのではないだろうか。
「……それは、本心?兄ちゃんは、それでいいの?」
「……」
「それでいいのかって聞いてんだよッ!」
「いいわけねぇだろッ!」
「っ」
「いいわけ……ねぇだろ。……でも、こうするしかねぇんだよ。今さらどんな顔して芽衣に会えばいい?芽衣に会って誤解を解いて、それで本当に芽衣は救われるのか?俺のことなんてもう、忘れちまった方が芽衣のためになるん──」
「ふっざけんなよ!?」
再び、龍雅が俺の胸ぐらを掴む。
その手は大きく震えていて、その目には大粒の涙が溜まっていて。
……俺はまた、何か間違っているのだろうか。
もう、何が正解なのかわからない。
「兄ちゃんがそんなこと言っちまったら……芽衣はどうなる?今までの芽衣の気持ちは?兄ちゃんを助けた芽衣の想いは?今度は芽衣がそれを全部忘れてこれから生きていけって言うのか?」
「……だって、じゃあどうすればいいんだよ」
今全てを思い出したばかりの俺には、それ以外の方法なんて思い浮かばないんだ。
しかし、
「またそうやって逃げんのか」
そう言われて、俺はハッとして龍雅を見つめた。
「現実と向き合うんじゃなかったのかよ。芽衣と向き合うんじゃなかったのかよ。もう逃げないって言ったのは嘘だったのか?思い出したらつらすぎて逃げたくなりましたってか?……ハッ……見損なったよ。芽衣に対する兄ちゃんの気持ちって、その程度だったんだな。それなら、芽衣は俺がもらうから」
龍雅は呆れたようにそう言って、俺から手を離して部屋を出ていった。
玄関のドアが開いて、閉まる音がした。
俺は、その日呆然としたまま一日を過ごした。
仕事から帰ってきた父さんの話もろくに聞かずに、部屋に閉じこもることしかできなかった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
10年引きこもりの私が外に出たら、御曹司の妻になりました
専業プウタ
恋愛
25歳の桜田未来は中学生から10年以上引きこもりだったが、2人暮らしの母親の死により外に出なくてはならなくなる。城ヶ崎冬馬は女遊びの激しい大手アパレルブランドの副社長。彼をストーカーから身を張って助けた事で未来は一時的に記憶喪失に陥る。冬馬はちょっとした興味から、未来は自分の恋人だったと偽る。冬馬は未来の純粋さと直向きさに惹かれていき、嘘が明らかになる日を恐れながらも未来の為に自分を変えていく。そして、未来は恐れもなくし、愛する人の胸に飛び込み夢を叶える扉を自ら開くのだった。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
7歳の侯爵夫人
凛江
恋愛
ある日7歳の公爵令嬢コンスタンスが目覚めると、世界は全く変わっていたー。
自分は現在19歳の侯爵夫人で、23歳の夫がいるというのだ。
どうやら彼女は事故に遭って12年分の記憶を失っているらしい。
目覚める前日、たしかに自分は王太子と婚約したはずだった。
王太子妃になるはずだった自分が何故侯爵夫人になっているのかー?
見知らぬ夫に戸惑う妻(中身は幼女)と、突然幼女になってしまった妻に戸惑う夫。
23歳の夫と7歳の妻の奇妙な関係が始まるー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる