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第6話
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政略結婚のはずのスチュワートとミルドレッドが寄り添う姿が微笑ましくて、美男美女のお似合いのふたりにはいつまでも幸せで居て欲しいと思っていた。
叔父のアダムス子爵は、ミルドレッド本人の意志の確認もせずに請願書を出したのに違いない。
夫も子供も失ってしまったミルドレッド・アダムスの尊厳が無視されているように思えた。
だから、偶然に公園で会った彼女に話してしまった。
……だが、その普通なら許されない情報漏えいは。
アダムス子爵から話を聞かされたミルドレッドから、夫がそれに協力したと思われたくないという……
自己保身の気持ちが大きく占めていたのを、レイラ本人も気付かずにいた。
◇◇◇
叔父のリチャード・アダムス子爵の思惑を知り、レイラ・シールズへの挨拶もそこそこに、ミルドレッドはアダムス邸へと戻った。
本当はもう戻りたくなかった。
一瞬、このまま隣領ウィンガムの実家まで馬車を走らせようかと思った。
だが、それを押し止めたのは。
付き添ってくれているユリアナが、レイウッド領内の男爵家の娘だと言うこと。
乗って来たのがレイウッドの馬車で、馭者が素直に実家まで届けてくれると思えなかったこと。
そして何より大きな理由は、ユリアナだけを帰し馬車を流しの辻馬車に乗り換えてまでして、自分の体力が隣領まで続くのか自信がなかったことだ。
さっきまでは、もう死にたいとまで思っていたミルドレッドだったのに。
リチャード・アダムスがゆっくり休めと優しかったのは、わたしに知られることなく、この話を進める為だった。
スチュワートの子供が流れても責めなかったのは、レナードとの間に子供が出来た時、継承争いが起きなくて済むからだ。
今の彼女の中にはリチャードに対する怒りがこみ上げてきて、不思議なほど力が湧いてくる。
絶対にレナードとの再婚など受け入れないと、ウィンガムに帰るのだ。
それは決して、こんな形で逃げ帰るのではなく。
わたしは堂々と、皆に見送られてあの家を出る。
前レイウッド伯爵スチュワートの未亡人として。
執事が馬車を出迎えて、降りるミルドレッドに手を差し出した。
その助けを借りながら、彼に「レナード様はいらっしゃるか」と尋ねた。
彼が頷いたので、後ろから続いて降りてきたユリアナに「レナード様にお会いしたいたいからと、ご都合を聞いてきて」と頼んだ。
今朝ブレックファストルームで会った時には、レナードはいつもと変わりなく見えた。
夫と子供を失った義姉を気遣い、食欲のない彼女に無理強いすることもなく、食べられそうなものを追加で給仕に命じていた。
つまり、知り合った頃から変わらない、優しく頼りになる義弟だ。
愛する女性も居て、結婚も決まっている彼が、自分との再婚など受け入れるはずがない。
あの様子なら、まだレナードもこの話を聞いてはいない。
彼とふたりで、リチャードからふざけた話を聞かされる前に。
彼とふたりで、本人達の希望ではないとシールズ査察官に直訴して。
どうにか中央へ取りなしていただけるよう働きかけよう。
そう思って……
いくらリチャードに怒りは持っていても、まだミルドレッドは彼に対して恐れを持っていた。
自分ひとりが彼に対抗しても、ひっくり返せるとは思えなかった。
いつものように、大声で押し切ろうとしてくるだろう。
だったら、リチャードに気付かれる前に。
次期伯爵のレナードと組んで、彼の企みを潰してしまえばいい。
私室のドアがノックされて、レナードからの返事を携えたユリアナだろうと、ミルドレッドは返事をした。
ところが、驚いたことにドアを開けて入ってきたのはレナード本人だった。
驚きのあまり言葉もなく自分を見つめている義姉に、彼は笑顔を見せた。
「久々の外出はどうだった?
出掛けるなら、俺に声を掛けてくれたらお供したのに。
途中で倒れたりしないか心配していたんだ」
そう言いながら、ドアを閉める。
レナードのこんな振る舞いは初めてだった。
叔父のアダムス子爵は、ミルドレッド本人の意志の確認もせずに請願書を出したのに違いない。
夫も子供も失ってしまったミルドレッド・アダムスの尊厳が無視されているように思えた。
だから、偶然に公園で会った彼女に話してしまった。
……だが、その普通なら許されない情報漏えいは。
アダムス子爵から話を聞かされたミルドレッドから、夫がそれに協力したと思われたくないという……
自己保身の気持ちが大きく占めていたのを、レイラ本人も気付かずにいた。
◇◇◇
叔父のリチャード・アダムス子爵の思惑を知り、レイラ・シールズへの挨拶もそこそこに、ミルドレッドはアダムス邸へと戻った。
本当はもう戻りたくなかった。
一瞬、このまま隣領ウィンガムの実家まで馬車を走らせようかと思った。
だが、それを押し止めたのは。
付き添ってくれているユリアナが、レイウッド領内の男爵家の娘だと言うこと。
乗って来たのがレイウッドの馬車で、馭者が素直に実家まで届けてくれると思えなかったこと。
そして何より大きな理由は、ユリアナだけを帰し馬車を流しの辻馬車に乗り換えてまでして、自分の体力が隣領まで続くのか自信がなかったことだ。
さっきまでは、もう死にたいとまで思っていたミルドレッドだったのに。
リチャード・アダムスがゆっくり休めと優しかったのは、わたしに知られることなく、この話を進める為だった。
スチュワートの子供が流れても責めなかったのは、レナードとの間に子供が出来た時、継承争いが起きなくて済むからだ。
今の彼女の中にはリチャードに対する怒りがこみ上げてきて、不思議なほど力が湧いてくる。
絶対にレナードとの再婚など受け入れないと、ウィンガムに帰るのだ。
それは決して、こんな形で逃げ帰るのではなく。
わたしは堂々と、皆に見送られてあの家を出る。
前レイウッド伯爵スチュワートの未亡人として。
執事が馬車を出迎えて、降りるミルドレッドに手を差し出した。
その助けを借りながら、彼に「レナード様はいらっしゃるか」と尋ねた。
彼が頷いたので、後ろから続いて降りてきたユリアナに「レナード様にお会いしたいたいからと、ご都合を聞いてきて」と頼んだ。
今朝ブレックファストルームで会った時には、レナードはいつもと変わりなく見えた。
夫と子供を失った義姉を気遣い、食欲のない彼女に無理強いすることもなく、食べられそうなものを追加で給仕に命じていた。
つまり、知り合った頃から変わらない、優しく頼りになる義弟だ。
愛する女性も居て、結婚も決まっている彼が、自分との再婚など受け入れるはずがない。
あの様子なら、まだレナードもこの話を聞いてはいない。
彼とふたりで、リチャードからふざけた話を聞かされる前に。
彼とふたりで、本人達の希望ではないとシールズ査察官に直訴して。
どうにか中央へ取りなしていただけるよう働きかけよう。
そう思って……
いくらリチャードに怒りは持っていても、まだミルドレッドは彼に対して恐れを持っていた。
自分ひとりが彼に対抗しても、ひっくり返せるとは思えなかった。
いつものように、大声で押し切ろうとしてくるだろう。
だったら、リチャードに気付かれる前に。
次期伯爵のレナードと組んで、彼の企みを潰してしまえばいい。
私室のドアがノックされて、レナードからの返事を携えたユリアナだろうと、ミルドレッドは返事をした。
ところが、驚いたことにドアを開けて入ってきたのはレナード本人だった。
驚きのあまり言葉もなく自分を見つめている義姉に、彼は笑顔を見せた。
「久々の外出はどうだった?
出掛けるなら、俺に声を掛けてくれたらお供したのに。
途中で倒れたりしないか心配していたんだ」
そう言いながら、ドアを閉める。
レナードのこんな振る舞いは初めてだった。
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