【完結】この悲しみも。……きっといつかは消える

Mimi

文字の大きさ
24 / 58

第23話

しおりを挟む
 ジャーヴィスはミルドレッドから渡されたメモに目を通し、キャサリンに回した。
 それを読んで、母が目元にナプキンを当てるのを見た。


「彼が生まれてくる子供の為に考えてくれていた名前です。
 男児の5つの候補の中には、アダムスが長男に付けることが多いのに、最近居ないウィラードの名前はありません。
 これは兄様が仰っていた本家のスチュワートの子供の為に取っていた、は違っていたのです。
 それに女の子の名前の候補は、ジュリア様や名鑑に載っていた先祖代々の女性の名前は無くて、全てわたしが好きな花の名前でした。
 ……彼は自分の母親の名前を、娘に付けるひとではなかったような気がするんです。
 それだけで、あの子をメラニーと名付けたのはスチュワートではないと信じたいわたしは、愚かでしょうか?」

「……」

「いいえ!いいえ!」


 ジャーヴィスが答えるよりも早く、声をあげたのはキャサリンだ。


「スチュワートは女の子なら、ミリーが好きな花の名前を付けたいと言って……
 ウィロー以外は、わたしが彼に教えたの」


 そのメモに書かれていた名前は。
 右側はメイナード、ブランドン、ウォーレン、エベレッド、ワイアット。
 全て先祖に居た名前だ。

 そして左側にはヘザー、ヴァイオラ、デイジー、アリッサ、アイビー、そしてウィロー。


「アイビーはともかく、女の子にウィロー?
 柳なんて、木の名前をアダムス子爵が許すはずがないのに?」


 今朝帰ってきた時、憔悴していた妹は。
 そう話しながら、今は可笑しそうに笑っていた。

 ミリーは風に靡く柳の木が好きだ。
 母が教えなかったのにリストに入っていたのは、ミリー本人がそれをスチュワートに話したのかもしれない。



「貴女と同じ緑色の瞳なら、ミドルネームに女の子らしい名前を入れればいいから、ウィローが第一候補ですねと彼は笑っていたわ。
 初めての子供だと、それはそれは楽しみに……」


 
 そこからは本格的に母と妹が泣き出したので、ジャーヴィスは何も言わなかった。
 彼の喉の辺りにも、熱い塊が込み上げてきたからだった。




 
 翌日、再びジャーヴィスの執務室にミルドレッドが現れて、仕事を手伝いたいと言ってきた。


「王都へ行く前に、お仕事を出来るだけ片付けて行きましょう」

「行きましょう?もしかして……」

「はい、わたしもご一緒します」

「ミリーはここで待っていた方がいいんじゃないかな?」


 彼は貴族名鑑を眺め続ける午後を過ごして推察された、きな臭いアダムス家の歴史を、ミルドレッドに教えたくはなかった。



「ヴィス兄様は、わたしを傷付ける結果になるなら、全部を話されないでしょう?
 スチュワートがわたしに黙っていたことは隠し子だけじゃなくて、きっと他にも何かあるのです。
 それがあるからローラ・フェルドンを援助したことを、わたしには言えなかった。
 彼が隠していたことを全て、妻であるわたしは知りたい」


 そうすっきりとした表情で話すミルドレッドをジャーヴィスは見た。


「その気持ちはわかるけれど……」

「ギャレット様と一緒に動かれるのでしょう?
 足手まといにならないように努力しますし、そうだと判断されたら、わたしを置いていってください。
 王都邸でいい子にして、お留守番しています」

「……」

「レイウッドの当主夫人は止めましたが、スチュワートの妻は止めないと決めました」



     ◇◇◇



 わたしも一緒に行くわと言い続ける母を、宥めるだけでも一苦労したジャーヴィスだった。
 母が王都入りするとなると荷物や伴う使用人の人数も増え、馬車を2台以上連なって走らせることになり、旅程は最初の予定より2倍近くかかる。
 当事者であるミルドレッドは仕方なく同行させることにしたが、本当はウィンガムで待っていて欲しかった。


 取り敢えず、母には諦めさせた。
 お陰で馬車の中は、兄妹と各々の従者と侍女の4人で済んでいる。
 しかし、ややこしい話はここでは出来ないので、王都に着いてからになる。

 その辺りはミルドレッドも承知しているのだろう。
 従者や侍女の前では、下手な話はしない。



「兄様が貸してくだった貴族名鑑は勉強になりました。
 今までは毎年購入しても、それ程役に立たないと思っていたのですけれど」

「私も若い頃はそうだったよ。
 大して代わり映えのしない内容なのに、と。
 だが、その重要性を教えてくれたのがギャレットなんだ」


 貴族名鑑は、過去も現在も網羅している情報の宝庫だと教えてくれたのは、2学年下の生意気なイアン・ギャレットだった。
 普通なら役所に問い合わせても教えて貰えない、他家の事情が考察出来るからと。



「名前以外なら、どこに注目すればいいですか?」

「名鑑なんて遡ればきりがない。
 今回の元は、3代前のエルネスト伯だ。
 彼と彼の兄のウィラードに絞って、一門の男達の生年と享年を見てごらん」



 先にイアンが調べてくれているだろう事実と、自分の立てた仮説とが、どこまで合っているのか。


 それを知るのは楽しみでもあったが、スチュワートがミルドレッドには隠しておきたかったアダムスの過去を掘り返すようで、心苦しくもあるジャーヴィスだった。



しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

壊れた心はそのままで ~騙したのは貴方?それとも私?~

志波 連
恋愛
バージル王国の公爵令嬢として、優しい両親と兄に慈しまれ美しい淑女に育ったリリア・サザーランドは、貴族女子学園を卒業してすぐに、ジェラルド・パーシモン侯爵令息と結婚した。 政略結婚ではあったものの、二人はお互いを信頼し愛を深めていった。 社交界でも仲睦まじい夫婦として有名だった二人は、マーガレットという娘も授かり、順風満帆な生活を送っていた。 ある日、学生時代の友人と旅行に行った先でリリアは夫が自分でない女性と、夫にそっくりな男の子、そして娘のマーガレットと仲よく食事をしている場面に遭遇する。 ショックを受けて立ち去るリリアと、追いすがるジェラルド。 一緒にいた子供は確かにジェラルドの子供だったが、これには深い事情があるようで……。 リリアの心をなんとか取り戻そうと友人に相談していた時、リリアがバルコニーから転落したという知らせが飛び込んだ。 ジェラルドとマーガレットは、リリアの心を取り戻す決心をする。 そして関係者が頭を寄せ合って、ある破天荒な計画を遂行するのだった。 王家までも巻き込んだその作戦とは……。 他サイトでも掲載中です。 コメントありがとうございます。 タグのコメディに反対意見が多かったので修正しました。 必ず完結させますので、よろしくお願いします。

【完結】他の人が好きな人を好きになる姉に愛する夫を奪われてしまいました。

山葵
恋愛
私の愛する旦那様。私は貴方と結婚して幸せでした。 姉は「協力するよ!」と言いながら友達や私の好きな人に近づき「彼、私の事を好きだって!私も話しているうちに好きになっちゃったかも♡」と言うのです。 そんな姉が離縁され実家に戻ってきました。

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

あなたを愛する心は珠の中

れもんぴーる
恋愛
侯爵令嬢のアリエルは仲の良い婚約者セドリックと、両親と幸せに暮らしていたが、父の事故死をきっかけに次々と不幸に見舞われる。 母は行方不明、侯爵家は叔父が継承し、セドリックまで留学生と仲良くし、学院の中でも四面楚歌。 アリエルの味方は侍従兼護衛のクロウだけになってしまった。 傷ついた心を癒すために、神秘の国ドラゴナ神国に行くが、そこでアリエルはシャルルという王族に出会い、衝撃の事実を知る。 ドラゴナ神国王家の一族と判明したアリエルだったが、ある事件がきっかけでアリエルのセドリックを想う気持ちは、珠の中に封じ込められた。 記憶を失ったアリエルに縋りつくセドリックだが、アリエルは婚約解消を望む。 アリエルを襲った様々な不幸は偶然なのか?アリエルを大切に思うシャルルとクロウが動き出す。 アリエルは珠に封じられた恋心を忘れたまま新しい恋に向かうのか。それとも恋心を取り戻すのか。 *なろう様、カクヨム様にも投稿を予定しております

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...