【完結】原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

Mimi

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【本編】 原作者の私ですが婚約者は譲っても推しのお義兄様は渡しません!

第38話

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 焼きリンゴの露店を覗いている時、不意にオスカーがより身体を密着させて来たので、ロザリンドは驚いた。

 (ま、待って!まだ人前よ、急にその気になっちゃったの?)


 とうとう!と戸惑いながらも、オスカーもその気になっているなら。
 と応えようとしたロザリンドに、オスカーは小さな声で囁いた。


「この裏に路地が見えるだろ?
 あそこへ入るから、いいね?」


 初めてを外で? あんな路地で?
 大好きなオスカーだが、そんな趣味はない、とちゃんと言わないと……
 そう思った瞬間、握られた右手はほどかれて、肩を軽く押し出された。


「ロージーはこのまま、先に行って。
 広場のスワンの泉に後で行くから。
 待たせるかも知れないけど、絶対に他の人が沢山居るところから離れないで待ってるんだよ」

「オスカー、何?」

「絶対に迎えに行くから!」


 何がなんだかわからなかったが、オスカーが自分から離れてひとりで路地に入ろうとしているのは分かった。
 そして何かから引き離そうとするように、先にひとりで行くように、と自分の肩を押した事も。


 オスカーと、離れるのが嫌で。
 オスカーを、失いそうで怖くて。
 ロザリンドは身を翻して、オスカーが消えた路地に自分も飛び込んだ。



 建物と建物の間の細い路地に入ると、そこを抜けた先に少し広くなった建物の裏手に出た。
 そこでロザリンドが目にしたのは、向かい合って立つふたりの男。


 それはオスカーと。
 彼の兄ダンカン。
 チカ先生が描いたダンカンとは雰囲気が違うが、彼としか思えなかった。
 だから、オスカーは私をダンカンから引き離そうとして……


 今夜オスカーと会うはずのダンカンが何故昼間にこんな場所に現れたのか、全くわからなかったが。 
 確かなのはロザリンドの大切なオスカーを、ダンカンが傷付けようとしていることだ。


 ロザリンドは手近に落ちていた枝を拾い上げた。 
 細くて薪にもならないから捨てられた枝だろうけれど、素手よりは武器になる。
 幸い、ダンカンはオスカーの方を向いて何事か話していて、背後から近付いている自分には気付いていない。


 人を後から襲ったことなどないけれど、オスカーを守る為なら出来る!
 私は出来る!


 枝を握りしめて振りかぶろうとした時、ロザリンドに気が付いたオスカーが叫んだ。


「やめろ! ロージー!」


 ◇◇◇


 ウェズリーの背中を嫌な冷たい汗が流れた。
 オスカー達の方へ行き、後に怪しい男が居ることを伝えなくては、と足を早めるが。
 祭りの人波でなかなか前へ進めなかった。
 ミシェルが少し遅れて付いてきているが、彼女の足に合わせることは出来ない。


 何か悪いことが起きそうだ、頼むから俺を通してくれ!
 追い抜きざま何人かとぶつかり舌打ちをされたが、それに構うことなくウェズリーは進んだ。


 さっきまでふたりが覗いていた焼きリンゴの露店前までどうにか出られたが、既にコルテス兄妹の姿はなかった。
 慌てて周りを見回すと、露店と露店の間に路地があった。


 馬鹿者と思われ続けたウェズリーだったが、今日の彼は冴えていた。
 狭い路地に駆け込むと、そこには背後にロザリンドを庇って、付けてきた男と対峙しているオスカーが居た。


 学苑では大人びたオスカーが、背丈は同じでも身体の幅や厚みで一回り違う男と向き合っている様は、彼を17歳相応の華奢な少年に見せた。


「オスカー!警備隊呼んでくるから!」

 ウェズリーの叫びに男が振り向いた。
 オスカーとウェズリーの2人がかりで立ち向かっても、男には勝てない気がしたので、警備隊の名前を出した。
 これで男が逃げてくれたらいいのに、と。


 ウェズリーの後からは、ようやく追い付いたミシェルも顔を出したので、人数だけでなら、4対1になった。 
 だが男は動じることなく、ゆっくりと再びオスカーとロザリンドの方へ振り返った。


「俺がその、警備隊だけどな?
 オスカー、どういう事なんだ?
 どんどん人が集まってくるじゃねぇか」 


 冷たい眼差しをしたこの男が警備隊?
 よく見ると、男は左腕上腕部に警備隊の腕章を付けている。
 オスカーが巻き込んですまない、と言いたげな表情をしていた。


「いいんだ、ウェズリー……
 この男は俺の兄のダンカンなんだ……」
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