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空の誕生日―②"みたい"じゃないよ

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 ふぅ~。
 化粧とかセリフとかドレスとか最初は恥ずかしかったけれど、空に楽しい思い出を一つでも多くあげたかったから頑張った。

 これは俺が健介君たちにサプライズの相談をした時に、部屋を別世界のような異空間にしてみてはどうかと圭一郎君が提案してくれた。

 それから少し話していくうちに、空は蒼の漫画が好きだという話になり、それなら漫画の世界観がイイねとなった。またまた話を進めていくうちに、どうせなら漫画をそのまま再現したらいいんじゃない?っていう流れになり、周りを巻き込み寸劇を披露する事になったんだ。細川さんも珀斗さんも恥ずかしがりながらも快く受けてくれた。

 結局のところ、みんな空の事が好きなのだ。そしてお祭好きなのだ。

 今日協力してくれた皆にも感謝の気持ちを込めて、最高の料理を用意した。


「空。お誕生日おめでとう!どうだった?ビックリした?」

「最初、細川さんがへんちくりんな格好で立ってた時は戸惑ったけど、途中でこれは俺のためかなって気付いて、更にこのパロディが愛斗の漫画だって気付いた。メチャクチャ楽しかったよ。ありがとう。」

「空のお気に入りの作品から選んだからね!本当、サプライズって大変だね。準備から何から全部内緒で進めないといけないし。」

「・・・っその事だけど。愛斗が微妙に隠しきれてなかったから、俺は愛斗の浮気を疑ってた。」

「えっ??そうなの??え?完璧に隠せてると思ってた。ゴメン!!」

「じゃあ、聞くけど・・・携帯をコソコソ持ち歩いてたのは?」

「小道具の手配とか、打合せの連絡が入るから・・・」

「たまに化粧の匂いがしてたのは?」

「・・・化粧の練習を健介君の家でしてた。」

「シャツに口紅が付いてた。」

「化粧とか口紅とか慣れないから、無意識で顔を触っちゃううんだ。」

「部屋の前を通った時、『愛してる』って聞こえた。」

「・・・最後の・・・セリフの練習・・・かな。」


 そこまで問い詰めていた空は堪えきれなくなったのか噴出した。


「ぷっ!ごめんっ愛斗。分かってる。さっきの劇で理解してた。」

「本当ゴメン。嫌な思いをさせちゃってたんだね。」

「落ち込んだのは本当だけど、それ以上に今日は最高の思い出をくれたからいいよ。」


 やっぱりサプライズって難しい。空を愉しませたくて計画したのに、逆にそれが空に嫌な思いをさせてしまってたなんて。俺にはサプライズは向いてないのかもしれない。

 少し考え込んでしまった俺の頭を、空が優しく撫でてくれる。

 俺はこのヨシヨシが大好きだ。


「そうだ!空、ちょっと来て!」


 圭直コンビの所に空を連れていき、新しくできた友達を紹介した。

 圭直コンビは、まさか俺の彼氏が俳優の海だとは思っていなかったらしく、空が玄関から入ってきた時には驚きでセリフがぶっ飛んだと言って笑った。


「え?じゃあ・・・あの報道って・・・本当だったの?」

「うん。二人だから言うけど、本当。俺の会見がフェイク。内緒ね。」

「うんうん!ぜっっったいに言わない。だって愛斗君と友達辞めたくないし。」


 この会話を聞いた空は「良い友達が出来たな」とまた頭を撫でてくれる。二人を紹介してくれた健介君にも感謝だ。


「愛斗君さ、最後のセリフはプロポーズみたいだったね!?」

「"みたい"じゃないよ。そうだよ。」

「「「え?」」」

「は?何で空まで驚いてるんだよ!」

「いや、プロポーズみたいだなって嬉しく思ったけど・・・。」

「男同士は本当に結婚する事は出来ないだろ?だから、ずっと一緒に居たいっていう意思だけは伝えようと思ってさ。へへ。」


 照れ隠しに頭を掻く。

 最後のセリフは俺が考えることになっていた。漫画の通りにしても良いけど、それじゃ面白くないって思って色々考えたのだ。俺の精一杯の気持ちを伝える事にした。

 恥ずかしかったけど!本当に恥ずかしかったけども!!

 でも、誕生日は一年でも特別な日だから。


 それからも暫く誕生日パーティーは続き、空が珀斗さんの演技にダメ出をして皆で大爆笑したり、秋好の魔女っ子姿を写真にとって朋子ちゃんにメールで送ったのがバレて怒られたり、なんだかんだで細川さんが一番張り切っていたり、とても賑やかなパーティーになった。

 空もずっと楽しそうに笑ってる。

 空にはずっと笑っていて欲しい。一緒に二人で笑って生きていきたい。空がピンチの時には何度でも助けるよ。だからお願い、ずっと一緒にいてね。


 最後は特大ケーキを食べてお開きとなった。

 細川さんからはリラックス効果のあるアロマセット、健介君と珀斗さんからは夫婦茶碗、圭直コンビからはお揃いのスリッパをプレゼントされた空は、とても嬉しそうに微笑み少し涙ぐんでいた。


―――この思い出が空の宝物になりますように


 皆を見送り時計を見れば、時刻は既に午前零時を回っていた。



 お金という権力を振りかざし、掃除は明日ハウスキーパーを依頼しているので借りている衣裳と小道具のみを片付け、早々に愛の巣へ戻る。

 
 お風呂も入り、これからは二人の時間だ。

 空は一緒にお風呂に入りたがったが、如何せん化粧を落とさないといけないからと別々に入った。


「愛斗今日は本当にありがとう。嬉しかった。特に愛斗の言葉が。」

「うん。スムーズに言えるように何回も練習したんだ。ちゃんと伝わって良かった。」

「しっかり伝わったよ。」

「それでね、空にもう一つ俺からのプレゼントがあるんだ。はいコレ。」


 そう言って手渡したのは一枚の紙きれ。

 『一日我儘言っちゃおう券』


「これはね、俺が一日何でも空の言う事を聞く券ね。例えば『掃除しろ!』でも『ご飯作れ!』でも『マッサージしろ!』でもいいよ。」


 詳細を聞いた空がニヤリと笑う。


「それは、大人のマッサージでもいいのか?」


 ま、またっ!空は直ぐにエロい事を考えるんだ!やっぱり誕生日を迎えたってエロエロ大魔神は変わっていないのだ!

・・・まぁ、でも


「・・・・いいよ。」


 ゆっくりと空の顔が近づき唇が重なる・・・そしてそのまま押し倒された。



「まって、まって!!空、今その券使うの?」

「いや、使わない。愛斗に今日のお礼をしようと思って。」


 お礼!!!


 熱の籠った瞳で見つめられ、あぁ今日は寝れないなと悟った。


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