〜遠恋〜離れていても、好きな人

鱗。

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離れていても、好きな人

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「こっちは桜も見頃だっていうのに、夜になると寒いねぇ。身体が冷えない内に、早く家に帰ろうかな」


『なら、駅から家まで歩いて帰る?』


「うーん……こういうときはさ、やっぱりお風呂かな。久しぶりに、バスソルト使ってさ。追い焚きだし、今日」


『湯釜が痛むから、嫌だって言ってたのに、変わったんだ』


「いやさ、価値観も、寒さには勝てないよね。あと、やっぱり歳かなぁ」


『そんな事言わないでよ、まだ早いよ、その話題』


「ふふ……なんかね、お酒飲んでも、体温が上がるより先に、眠くなったりして。最近は、周りに迷惑掛かるから、三回に一回は断る様にしてるんだ」


『俺としては心配だし、その方が安心かな。酔っ払って眠くなったりすると、貴方、くにゃっとして、誰彼構わず甘えん坊になって、気が気じゃないんだもの』


「本当さぁ、良くないよね。お前にも心配掛けるし、周りには気を遣わせてると思うから、絶対。子供がいてもおかしくない歳にもなって」


『だから、歳の話題は止めようよ。変なループ入ってるよ……てか、結局歩いて帰るパターンでしょう。いいよ、付き合うよ、何処までも』


「ふふ、優しい。みんな、俺の周りにいる人、ぜんぶ」


『知ってる。だけど、誰よりも優しいのは、気遣いが過ぎるのは、貴方の方なんだっていうの、分かってよね』


「……飲んで帰ろうかな、たまには」


『さっき一軒目終わった人の台詞じゃないよね?……ねぇ、相当酔ってるでしょう、実際。いいから、早く帰って、風呂とか明日でいいから、水だけ飲んで早く寝て。明日も仕事なんだから』


「あーでも、駄目だ、良くない、あの店は、今日は良くない。シフト入ってるって、持田が言ってたし」


『余計駄目じゃない』


「あはは、あいつさ、言うに事欠いて、一緒に住もうだって。介護のつもりかなぁ。同い年なんだけど、僕。お前、どう思う、かける


『……離れてるからね、どうしようもなく。だから、自分がどうしたいかは、自分で決めなよ』


「拗ねる?」


『知ってる癖に』


「あー、言わせたいな、嫌だって、そんなの許すわけないでしょって」


『趣味悪いよ』


「ねぇ。とびっきりの笑顔より、拗ねた顔みたいの、何でかな。笑顔も好きだけど、拗ねてるところも、好きなんだよなぁ。僕、酷いやつだよね」


『自覚あるのに治さないところが、貴方らしいよね』


「あのさぁ、お前、こんな最低な奴の、何処が好きなの」


『やっぱり、相当酔っ払ってる』


「えへへ、僕はねぇ」


『あぁ、そういうのいいから。だから、真っ直ぐに帰って、本当、そこだけしっかりして』


「……全部、かなぁ」





泣きたいくらいに、遠い距離を。早々に埋めてしまいたいと。自分自身のいる場所に引き摺り込んでしまいたいと。どうしようもなく願わせてしまう貴方を。





「ねぇ」


『なぁに』


「何でいないの」


『知ってる癖に』


「会いたい」


『知ってる。だけど、その先は言ったらだめだよ』


「……会いたい、のに」


『うん。ごめんね……ごめん、しおり


「ばか」


『次に逢える時まで、恨み言、溜めておいて』


「人でなし」


『ふふ……うん、確かに』


「……今日は、お前のパジャマで寝るから」


『鼻水だらけにしないでよ』


「鼻水つけてやる」


『言った側から』


「それで、自分が棺桶に入る時に、これ見よがしに着てやる」


『サイズ違い過ぎでしょ』


「そしたらお前は、貴方何してんですかって、呆れるかな」


『今からもう、呆れてる』


「そもそも、お前、僕の事迎えに来る気持ちある?」




当たり前でしょう。この俺が、貴方を迷子にするわけないんだから。


独りぼっちにする筈が、ないんだから。




「……ふふ、なんて、もう側にいたりして」


『うん』


「だったらいいな。それで、さっさと化て出たらいい」


『栞、あのね』


「それで、僕を、ここから」


『好きだよ』


「今度こそ、連れて行って」




守るよ、そんな、貴方の意志から、貴方を。
貴方は、だから、いつも笑っていて。



他の誰かの所為でもいい。
ただただ、幸せでいて。



俺も知らない、ありふれた愛に、包まれていて。




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感想 5

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みんなの感想(5件)

ひより
2022.08.11 ひより

二人の会話だけで、二人のこれまでが想像できました…素敵な作品を、ありがとうございました。

解除
のーちゃん
2022.08.11 のーちゃん

最初から最後まで優しい世界観で、胸が熱くなりました。

解除
かみたま
2022.08.11 かみたま

一瞬で泣きそうになりました……

解除

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