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第一章
序章
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二十歳の誕生日、僕は自分の父に呼び出された。田舎という事もあり、先祖代々引き継がれてきたので、土地だけには昔から不便がなく、父は、その広大な土地の所有者に相応しい、自分だけの書斎を持っていた。壁にぎっしりと収納された古びた蔵書達は、歴代の頭首達が燻らせてきたパイプの煙を浴びてしっとりとした飴色を帯びている。窓からは同じく先祖代々守り続けてきた山と、その周囲に蔓延る森林が望めるが、蔵書の傷むという理由から、ぴったりと深紅のカーテンが引かれていた。薄ぼんやりとした灯りを紡ぐ橙色の間接照明に、後頭部を斜め上から照らされながら、父は僕に、来年にはこの家を出なさい、と静かに告げてきた。
この家の長兄として、次にこの場所を引き継ぐのは僕なんだろうという意識を持ってして生きてきたから、父からの突然の申し出に、最初は何を言われたのか分からなかった。僕は高校を卒業してから地元の大学に進み、その合間を縫って父の造園業の手伝いをしていた。だから、大学も環境デザイン学科を専攻していて、卒業後は本格的に父の仕事を引き継ぐつもりでいたし、特別な相談なんてせずとも、父もそのつもりでいるのだろうと自然に考えていた。なのに何故、父は、今更になって僕を突き放すのだろう。
書斎の入り口付近で呆然と立ち尽くしている僕を、父は老眼鏡を外してから笑った。そして、何も今すぐにとは言わないよ、と前置きをしてから、パイプを一つ燻らせた。間接照明に照らされた父の口元の皺が、笑みと共にまた一段と深くなったのを見て、歳を取ったな、と胸が唐突に感想を漏らした。
そして、父は説明を始めた。僕の家系の成人した男子にのみ現れる体質について。
過去・現在・未来と、時間軸を超越したタイムスリップ体質。そして、そのタイムスリップするタイミングとタイムスリップ先の時と場所は、任意で選べないという事を。
意識のみが切り替わる為に、その時間、その場所にいる自分がその時間軸から弾き出される心配はない。しかし、その力が男子に受け継がれると、その子供の成長と共に、父親は徐々にその力を失っていく。だからこそ、その力が発動して本人が混乱しない為に、力の発動を引き起こす成人した男児には父親からの説明をする義務が生じるのだという。言われてすぐに、はいそうなんですね、と納得しろというのは無理がある。だから、昼間から酒でも飲んでいるのか、事業の先行きに暗い影でも生じたのかと次第に心配になっていったのだけど、お父さん、今日はもう早く寝た方が良いよ、と苦笑混じりに書斎の扉を開けてそこから出た瞬間に、僕は父が本当の事しか言っていないのだと理解した。
麦わら帽子を被った僕は、虫籠に入った戦利品のカブトムシを、全身汗と泥にまみれた格好のまま、書斎の椅子に座っていた父に手渡した。そして、まだ老眼鏡を掛けていない、口元の皺すら無い父に、嘘じゃ無かったって信じるよ、と静かに告げた。すると、父は微かに目を見開き、驚きを顔全体で表現した後、誕生日おめでとう、と僕の頭をくしゃりと撫でたんだ。
この家の長兄として、次にこの場所を引き継ぐのは僕なんだろうという意識を持ってして生きてきたから、父からの突然の申し出に、最初は何を言われたのか分からなかった。僕は高校を卒業してから地元の大学に進み、その合間を縫って父の造園業の手伝いをしていた。だから、大学も環境デザイン学科を専攻していて、卒業後は本格的に父の仕事を引き継ぐつもりでいたし、特別な相談なんてせずとも、父もそのつもりでいるのだろうと自然に考えていた。なのに何故、父は、今更になって僕を突き放すのだろう。
書斎の入り口付近で呆然と立ち尽くしている僕を、父は老眼鏡を外してから笑った。そして、何も今すぐにとは言わないよ、と前置きをしてから、パイプを一つ燻らせた。間接照明に照らされた父の口元の皺が、笑みと共にまた一段と深くなったのを見て、歳を取ったな、と胸が唐突に感想を漏らした。
そして、父は説明を始めた。僕の家系の成人した男子にのみ現れる体質について。
過去・現在・未来と、時間軸を超越したタイムスリップ体質。そして、そのタイムスリップするタイミングとタイムスリップ先の時と場所は、任意で選べないという事を。
意識のみが切り替わる為に、その時間、その場所にいる自分がその時間軸から弾き出される心配はない。しかし、その力が男子に受け継がれると、その子供の成長と共に、父親は徐々にその力を失っていく。だからこそ、その力が発動して本人が混乱しない為に、力の発動を引き起こす成人した男児には父親からの説明をする義務が生じるのだという。言われてすぐに、はいそうなんですね、と納得しろというのは無理がある。だから、昼間から酒でも飲んでいるのか、事業の先行きに暗い影でも生じたのかと次第に心配になっていったのだけど、お父さん、今日はもう早く寝た方が良いよ、と苦笑混じりに書斎の扉を開けてそこから出た瞬間に、僕は父が本当の事しか言っていないのだと理解した。
麦わら帽子を被った僕は、虫籠に入った戦利品のカブトムシを、全身汗と泥にまみれた格好のまま、書斎の椅子に座っていた父に手渡した。そして、まだ老眼鏡を掛けていない、口元の皺すら無い父に、嘘じゃ無かったって信じるよ、と静かに告げた。すると、父は微かに目を見開き、驚きを顔全体で表現した後、誕生日おめでとう、と僕の頭をくしゃりと撫でたんだ。
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