サイバースペース

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4話 若い女性の贈り物

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サイバースペースの中へ入ってきた私は、まずは早速、サマーを探し始めた。
最初にサマーと出会ったところを探し回ったが、彼女の姿は見えない。
私のことはもう忘れたのかなと、思いながらメニュー画面のフレンドのパネルを覗いてみた。サマーはちゃんといた。フレンドには登録されるとログイン中にはどこにいるのかが、地図でわかるらしい。
私は早速地図の示す場所へサマーに会いに行く。その場所はギルドセンターだった。
私はギルドセンターへ入って、サマーを探す。すると、サマーはマリモンがいる受付から少し離れたのカウンターにいた。そこは、クエストリストが並べてあるクエストカウンターというところだ。
サマーは何やら若い女性と話しながら怪訝そうな顔をしていた。私はどうしたの?とサマーに話しかけた。サマーは私の姿に気づいたのか私の方へ振り向いた。
「あ、スプリー?」
サマーはお届け物をするクエストを頼まれていたところだった。依頼人はツイートタウンのお姉さんだ。ツイートタウンとは、今私がいる町のことを指している。
内容はヒーター村で暮らす母親が誕生日なのでプレゼントを届けて欲しいということだった。
ヒーター村へ向かうには現在地から少し離れた場所の橋を渡る必要があるのだが、その橋は今、復旧工事の真っ最中なので渡ることができない。サマーはそれで困っていたのだ。
私は、
「他に行けそうな場所はないの?」
と言う。
「だから、それで困ってるのよ。」
依頼人の若い女性は
「そこを何とかお願いします。街で働いてから、母に何もしてやれなかったのです。」
「そう言ってもねえ、私、1か月くらい前にプレイしたばかりだから…」
すると、その時。
「それなら遠回りになるとは思うが、スタンド洞窟へ行けばいい。」
と、近くから青年が私たちに話しかけてきた。青年は厚い本を持っており、黒いローブを纏っている。顔つきは無表情だが少々落ち着いている。
「スタンド洞窟って、モンスターのいるダンジョンでしょ?」
と、サマーは尋ねる。
「あそこは、コウモリやネズミのモンスターが多いが、レベルがかなり低いお前たちなら行けそうだ。」
「そ、そうなんですか?安心しました。」
と言うのに続き、
「…っていうか、あなたは誰ですか?」
「済まない、突然、人の話に割り込んでしまって。僕はオータム、黒魔道士だ。」
黒魔道士。明らかにジョブだが、私がジョブ登録をしていた時には、そんなものは書かれてはいなかった。サマーも知らないという。
「知らなくて当然だ。黒魔道士は魔法使いの中級職だから。」
私は一応メニュー画面からヘルプを読んでみた。そこには、サイバースペースの遊び方など色々書かれていた。ジョブについてのヘルプを黙読すると、確かに中級職などと書かれてあった。
私とサマーが今、所属しているジョブは初級職。もしこれがレベル20に達すると、中級職へ転職できるのだ。更に、読み続けるとレベル60に達すれば上級職、レベル100に達すると最強職へ転職できる。プレイヤーのレベルは大体1000までが限界とされる。
私はサイバースペースのレベルや転職のことを知り愕然とした。上には上があるものだともしかしたら自分よりもかなり強いやつにも会うかもしれない。そうなれば、やられるどうなるかだ。
「それよりも、クエストはもういいのかい。」
と、オータムは言う。
すっかり話が逸れてしまった。でも、私はさすがに迷う時間はないので、洞窟を通り抜けることにした。
「そうね。ここで考えてもラチがあかないわ。」
サマーは頷く。
「私、また、サマーと一緒に行けるなんて嬉しいです。」
と、喜ぶ私に対して、サマーも笑顔で返した。
すると、オータムは
「済まないが私も付いていきたい。」
と言う。
「オータムも、ヒーター村へ用事ですか?」
私が言うと、オータムは頷く。
「僕の後輩と向こうで会う約束をしていたから。」
「待ち合わせだったの!」
サマーは答える。
「そうゆうことならオータムも一緒に行きましょう。」
「ありがとう、助かる。」
オータムは少しだが、笑った。
「それでは、母のところへ必ず送って下さい。」
依頼人の女性は荷物を私たちに渡し、深く頭を下げた。荷物はアイテムパネルの『大事なもの』に保管した。
「あの、オータム。よろしくお願いします。」
「こちらこそ。」
私たちは、オータムという黒魔道士をこうして仲間に加え、スタンド洞窟の探索を行うことになった。

continued…
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