異世界転生したけど、生きるのが無理ゲーなのでフラグ折ります。

千宮寺みるく

文字の大きさ
32 / 42

ピヨ

しおりを挟む

 翌朝。
 部屋の片隅に置かれた小さな籠の中で、ひよこがピヨピヨ鳴いている。
 昨日祖父から送られてきた「将来の食卓を支える立派な鶏候補」である。

「……なぁ、ユース。名前つけてやろうと思うんだ」
「そうですか」
 ユースはいつも通り無表情で返事をする。俺は椅子に腰掛け、腕を組みながら言った。

「“トリ男”とかどうだ」
「却下です」
「即答!? いいじゃん、分かりやすいし」
「この子は雌かもしれません」
「あ、そっか……じゃあ“トリ子”」
「もっと却下です」

 そこへ侍女のミーナが朝食のワゴンを押して入ってきた。
 籠を見つけるなり、目を輝かせる。
「まぁ!かわいい!……名前は決まりましたか?」
「まだだ。俺がいい案を出してもユースが全部却下する」
「……“ピヨ美”とかどうでしょう」
「お前も方向性似てるな!?」
 ユースはすかさずため息をついた。

「もっと品位のある名前をつけましょう」
「じゃあユースが決めてみろよ」
 しばし考えたあと、ユースは静かに答えた。
「“セレスティア”」
「急に高貴!!」
 俺は頭を抱えた。
「呼びにくいだろ! “セレスティア、おやつだぞ”とか絶対噛む!」

 そんなやりとりを横で聞いていたミーナが、何やらメモを取っている。
「……ミーナ、お前それ何書いてんだ」
「いえ、“神官様と引きこもり貴族がひよこを挟んで仲良く口論する話”を……」
「またか!!」
 ユースの声が低くなる。
「それは処分します」
「えぇぇ! 今回はほのぼの系ですよ!」
「却下です」
 紙をひょいと奪われ、ミーナは肩を落とした。

「……で、結局名前はどうするんだ?」
「“ピヨ”でいいんじゃないですか」
「急にシンプルだな」
「呼びやすく、覚えやすい。それで十分です」
「……まぁ、いいか」
 こうしてひよこの名前は、あまりにも普通に「ピヨ」に決まったのだった。



 夜。
 静まり返った寝室に、時計の針の音だけが小さく響く。
 その中で、俺は薄く目を開けた。

(……やば。トイレ行きたい)

 ユースが神殿に泊まり込みで不在の今夜、部屋には自分とひよこしかいない。
 備え付けの小さなトイレスペースは、ベッドからわずか数歩先――
 それでも、体力の落ちた俺には、ちょっとした大仕事だ。

「……ピヨ、ちょっとトイレ行く」

 籠で丸まっていたひよこが、パチリと目を開ける。
 ピヨ、と返事をして、当然のように後をついてくる。

 ゆっくり布団をめくり、足を床に降ろす。
 冷たさに足先がびくっと震える。
 片手で壁を支えながら、慎重に歩く。
 トコトコと横で小さな足音が並ぶのが、妙に心強い。

「ほら、もう着く」
「ピヨ」

 やっとのことでドアを開けると、中はほんのり冷えていた。
 急いで用を足し、手を洗って戻る。

 途中、廊下の窓から差し込む月明かりが、ひよこの羽を銀色に縁取って見えた。
 何だかそれだけで、少し安心したような気分になる。

 ベッドに戻ると、ひよこは籠ではなく、アディルの枕元にちょこんと座った。
「……護衛のつもり?」
「ピヨ」

 どうやら、ユースの代わりに見張る気らしい。
 俺は苦笑しながら布団をかぶり直し、目を閉じた。

 ――こういう夜も、悪くない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。

とうふ
BL
題名そのままです。 クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。

ひみつのモデルくん

おにぎり
BL
有名モデルであることを隠して、平凡に目立たず学校生活を送りたい男の子のお話。 高校一年生、この春からお金持ち高校、白玖龍学園に奨学生として入学することになった雨貝 翠。そんな彼にはある秘密があった。彼の正体は、今をときめく有名モデルの『シェル』。なんとか秘密がバレないように、黒髪ウィッグとカラコン、マスクで奮闘するが、学園にはくせもの揃いで⁉︎ 主人公総受け、総愛され予定です。 思いつきで始めた物語なので展開も一切決まっておりません。感想でお好きなキャラを書いてくれたらそことの絡みが増えるかも…?作者は執筆初心者です。 後から編集することがあるかと思います。ご承知おきください。

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

転生したら乙女ゲームのモブキャラだったのでモブハーレム作ろうとしたら…BLな方向になるのだが

松林 松茸
BL
私は「南 明日香」という平凡な会社員だった。 ありふれた生活と隠していたオタク趣味。それだけで満足な生活だった。 あの日までは。 気が付くと大好きだった乙女ゲーム“ときめき魔法学院”のモブキャラ「レナンジェス=ハックマン子爵家長男」に転生していた。 (無いものがある!これは…モブキャラハーレムを作らなくては!!) その野望を実現すべく計画を練るが…アーな方向へ向かってしまう。 元日本人女性の異世界生活は如何に? ※カクヨム様、小説家になろう様で同時連載しております。 5月23日から毎日、昼12時更新します。

僕はただの妖精だから執着しないで

ふわりんしず。
BL
BLゲームの世界に迷い込んだ桜 役割は…ストーリーにもあまり出てこないただの妖精。主人公、攻略対象者の恋をこっそり応援するはずが…気付いたら皆に執着されてました。 お願いそっとしてて下さい。 ♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎ 多分短編予定

ヴァレンツィア家だけ、形勢が逆転している

狼蝶
BL
美醜逆転世界で”悪食伯爵”と呼ばれる男の話。

従者は知らない間に外堀を埋められていた

SEKISUI
BL
新作ゲーム胸にルンルン気分で家に帰る途中事故にあってそのゲームの中転生してしまったOL 転生先は悪役令息の従者でした でも内容は宣伝で流れたプロモーション程度しか知りません だから知らんけど精神で人生歩みます

美女のおっさんと護衛騎士

琉斗六
BL
◎あらすじ  佐藤英里緒、37歳。中小企業のIT部門の係長。独身。だが、実は彼には前世の記憶がある。  完容姿端麗、才色兼備。完璧な令嬢と呼ばれたエリザベートだった記憶である。  そしてエリザベートはずっと考えていた「コルセットのない生活がしてみたいですわ」。  現在の英里緒は、休みの日はトレパンでダラダラしながら、昼間からビールを嗜む生活に満足していた。  だが、ある日。  中途採用で部に配属された若い男は、英里緒に言った。  「あの晩、バルコニーで僕に抱かれたあなたの、愛に蕩けた心も体も、全て僕は覚えてます!」  田中玲央、22歳。彼もまた、前世の記憶を持っていた。 ◎その他  この物語は、複数のサイトに投稿されています。

処理中です...