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遠征通知
しおりを挟む朝、神殿からの書状を手に戻ってきたユースは、珍しく難しい顔をしていた。
机の上に置かれた銀の封蝋には、レフェリア大神殿の紋章。
それを見ただけで、俺は嫌な予感を覚える。
「……また神官交代の話か?」
「いえ。今回は違います」
ユースは封を切り、中身を一読すると、静かに告げた。
「大神殿より、神殿騎士団の魔獣討伐遠征に同行せよとの通達です」
「……は? 魔獣討伐?」
「神殿騎士団の治癒要員として帯同します」
俺は毛布の上から上半身を起こし、じっとユースを見た。
「遠征って……どのくらい?」
「道程と討伐予定日を含め、三週間ほどです」
「さん……しゅうかん?」
思わず声が裏返った。
ほぼ一月だ。
つまり、その間ユースはこの部屋に来ない。
「いや無理だろ。俺、誰が世話すんの」
「代わりの神官が派遣されます」
「代わり? 名前は?」
「まだ未定です」
俺はすぐさま布団に潜り込み、丸くなった。
「未定とか不安しかない。変なの来たらどうすんだ」
「変な人は来ません」
「そういう問題じゃない。俺の塩焼き鳥事情を理解してくれるやつじゃないと」
ユースは小さく笑い、「それが最優先ですか」と呟いた。
「もちろんだ。俺の生命線だぞ」
午前の光がカーテン越しに差し込む中、ユースは机に引き継ぎ用メモを並べ始めた。
俺はベッドの中から、その背中をじっと見ている。
「なあ、ユース」
「はい」
「魔獣ってどんなやつ?」
「今回の討伐対象は『赤牙狼(せきがろう)』という大型魔獣です。
牙に麻痺毒を持ち、俊敏で……」
「やめろ、詳細に語るな。怖くなるだろ」
毒持ちの獣なんて聞いただけで背筋が寒くなる。
「ユース、怪我したらどうすんの」
「治癒は得意分野です」
「自分で自分を治せるって限界あるだろ」
「仲間もいます」
そうは言っても、神殿騎士と行動を共にするというのは、戦場に近い場所に行くということだ。
笑みを浮かべるユースの目が妙に穏やかで、逆に不安を煽る。
昼過ぎ、ユースは神殿に戻って遠征準備の説明会に出た。
部屋に残された俺は、枕元のひよこをじっと見つめる。
「……ピヨ。俺どうすりゃいいんだ」
「ピヨ」
「そうだよな。塩焼き鳥は俺がなんとかするしかない」
夕方、ユースが戻ってきた。
手には包みを抱えている。
「置き土産です」
中から出てきたのは、香草を練り込んだローストビーフと小瓶入りのソース。
「……なんだ、これ」
「三週間分は無理ですが、二、三日は楽しめます」
「……やめろよ、そんな死亡フラグみたいなこと」
ユースは微笑む。
「無事に戻ります。アディル様が心配しすぎて痩せたら困りますから」
脇腹を軽くつまむと、まだ柔らかい。
――この柔らかさを守るためにも、早く帰ってきてもらわねばならない。
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