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第一章[超天才の生き様]
第十五話、メーン博士と別れ、レイチェルと別れ
しおりを挟む「うわぁぁ! “踵落とし”!」
『マテェェ! “シマシマパンツ”ゥゥ!』
おたふく風邪を拗らせ、博士に追われながら、しりとりをして逃げ回る。
「つ……つ……“綱”!」
『“ナツヨウパンツ”ぅぅ!』
「パンツシリーズ止めろやぁぁ!」
『ヤメナイィィ!』
壁を蹴って飛び回り、投げ付けられる物を避ける。曲がり角を曲がり、頭痛や眩暈を感じながらもステータス任せで懸命に走る。
「ヒャァァ! つ、“継ぎ手”!」
『“ティーバック”ゥゥ!』
「いい加減にしろよ、お前ーっ! もうパンツは無しだ!」
壁にぶつかって内壁を歪ませ、施設を揺らしながら追いかけてくる博士。執拗なパンツシリーズと刺激的な追尾に、俺も【飛刀】を飛ばして応戦する。
だが博士の青い肌を僅かに切るのみに終わる。
「“鯨”!」
『“ラァァメン”!』
「あっ……」
『アッ……』
特に負けても何があるわけでもないが、二人して動きが止まる。かつて好物だったのか反射的に答えた博士は思考停止してしまっている。
だが静まった事に疑問を抱くもう一人が、角から顔を覗かせてしまう。
『――!』
「……!?」
音もなく顔を出したレイチェルは、真後ろから覗いた。当然に死角で、気付かれるはずもない。
だが直後に博士は背後を振り返ってレイチェルを捕捉してしまう。
察知して瞬間的に考えたのだろう。追いかけても追いかけても捕まらない獲物より、より弱い獲物が現れたならそちらを喰らえば良いと。
「逃げろッ!」
「く……!」
すぐに怒声を飛ばす。受けたレイチェルは病にふらつきながら【音無】で走り出した。同時に博士も骨付きレイチェルを目指して、落石を思わせる騒々しさで追いかける。
『ヴェォォォ!』
「……!」
追われるレイチェルと追う博士。俺は彼等と正反対へ走り出した。
「くっ……レイチェルのスピードと博士の速度を考えれば……」
コールの頭脳を呼び起こし、頭痛のする頭で計算を弾き出す。レイチェルは博士を振り切る為に右折左折を織り込んで逃げるだろう。ならば最短で合流できるのは幸運にも出口にしている狭めの避難通路付近。
「――!」
直線の先からレイチェルが飛び出す。確認後、素早く取り出した刀を投げる。刃先はレイチェルの飛び出した通路側。
『マテェェ――グァッ!?』
刀が出てきた博士の両眼を掠る。飛散する青色の血液。だが視力を奪われた博士は悶絶して動きを止める。
「レイチェル、こっちだ!」
「……!」
よろめきながら通路を引き返したレイチェルが俺を目指して走る。眩暈を感じながらも懸命に飼い主の元へ向かってくる。
だがクールタイムのせいか【音無】が使えておらず、足音が鳴っている。
『っ! グァァ!』
博士が手近にあったテーブルをレイチェルへ投げた。
「――」
レイチェルへ走る。動く物体の流れを予想してレイチェルを抱き止めながら、右腕で僅かにテーブルの軌道を逸らした。魔力を火魔法の練度に注ぎ込んでいた事で、【モードレンドの雷】が使用不可という初歩的なミス故に。
「ぐ――!?」
「こ、コール君っ!」
「大丈夫だから退避だ……!」
背中を押してレイチェルを急がせ、目の傷が治りつつある博士から一時撤退する。換気用ダクトから外へ。
「コール君っ、腕が……!」
折れた右腕を抱えてキャンプ地へ戻る。レイチェルの肩を借りて午後の森を歩いて帰る。
「すまない……私がヘタを打ったばかりに」
「あれはしょうがないよぉ。視界がほぼ三百六十度になってたんだな、きっと。そんなの分かりっこない」
「まずはその腕を治しに街へ戻ろう。利き手がそれでは刀が使えない」
「いや、先に【適応・改】を取得する方が早い……腕折れて風邪引いたまま下山する方が面倒だ」
「……分かったよ。もう足は引っ張らないから、何としてもその戦技を会得しよう」
今日は少し早めに休む事に。食事係は予定通りレイチェルが担当し、俺は休ませてもらう。
「……」
「……」
まさに“苦楽を共にする”という言葉を体現していた。言葉もなく病と怪我に耐えながら作業して、また明日に備える。胃に優しい野菜スープの食事後は二人してほぼ半開きの目でテントに入り、抱き合って暖を取りながら眠る。
そして二日後、ついにその時が来る。
「はっ……!」
頭に浮かぶ【適応・改】の感覚。あっという間に頬の腫れも引いていき、博士に追われて上がっていた呼吸が楽になる。
「おっしゃー! ようやくこいつが手に入った!」
「コール君っ、私も覚えたから先に退避する!」
「了解っ!」
レイチェルに続いて換気用ダクトに頭から飛び込む。カサカサと匍匐前進で新鮮な空気を求める。
『マテェェェェ!』
「じゃあな、博士! また来るぜ!」
世話になった博士に別れを告げて『結社に廃棄された施設』から出る。ダクトの先で待っていたレイチェルと合流して無事にミッションクリアだ。
「……」
「……」
ガッチリと無言で腕を組み、お互いの健闘を讃える。間違えて骨折している右腕でやってしまい、泣きながら施設を後にした。
それから帝都へ帰還し、また遊び回っていた頃に国からある話がレイチェルへと届く。
「……コール君」
「うん?」
ある日の事。博士の元を去って半年くらいが経過しただろうか。
夕陽に向かい、スラム街の悪人達で遊んでから駅へと路地を行く。口煩い父のいる実家には戻らず、祖父母のところにまた向かおうかと思案していたところに声をかけられた。
「実は、国から特別待遇で入隊してみないかとスカウトされたんだ……」
「特別ってことは将来の隊長位が確定してるやつだな。レベル高いし、大事に使われるだろうから入った方がいいよ、それ」
いつものように並んで帰路に就く中で俯くレイチェル。側から見れば姉弟にしか見えないだろう。
彼女は帝国軍に正式に採用されようとしているというのに、浮かない顔付きで悩んでいた。
「辞めたくなったら言って来な? モードレンド家の権力で退職金込みのフリーに戻してやるから」
「けれどコール君と会えなくなってしまう」
「家族は仕送りが増えて喜んでんだろ? フリーだとまた変に死にかけないかって心配してんだろ? 俺とは休暇でも取って会いに来ればいいじゃないの。屋敷か祖父母ん家に、確実にいるんだから」
「……」
それでも渋る鈍ちんなレイチェル。
「……あのね、もう言っちゃうけど」
「うん?」
「代表と取り引きしたの。俺が軍の難しい任務を手伝う代わりに、レイチェルをいいところに配属させてやってくださいって」
「……!」
手伝いと言っても、魔城の攻略を手伝って欲しいと言われたので、経験と経験値欲しさが先行して単独でなら引き受けると返したら、ふとレイチェルの親が彼女へ手に職をと俺に願っていた事を思い出した。
レイチェルはかなり強くなったし、戦い方も教え込んだので良い機会だからと捩じ込んでもらった次第だ。
「一年半も付き合わせたしな。俺もそろそろ仕事を任される頃だろうし、気にするな。関係性は変わらないよ」
「コール君……」
瞳を潤ませて、完全に俺へと大きな愛情を露わにしている。恩着せがましく裏側を伝えた甲斐があるというものだ。
「……何かあってもなくても、なんでも私に言うんだよ?」
「んぅぅっ」
ぶっちゅうとキスされてしまう。人目も憚らず何度も啄んで吸い付いてくる。
「……たまに時間を作って欲しい。またこういう二人の時間を持ちたいんだ」
「当たり前だろ? レイチェルは俺にとって特別(これだけ時間をかけて強くしてやったし、レベリングにも付き合ってもらわないとだし、まだ一度も抱いてないん)だからな」
「コール君……」
プロポーズでも受けたのかと見紛うほど感動するレイチェルの熱い抱擁に応える。こうしてレイチェルと暫しのお別れをした。
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