コール様の仰せのままに ・名作RPGの超天才黒幕ボスに転生したゲーマーの末路

歌川博士

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第二章[悪女の生きる道]

第四十二話、そりゃ勝つよね

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 勝てる筈がなかった。
 いや、勝負にはなっている。だが贔屓に贔屓を重ねて評しても互角であった。

「――ハァァ!」

 裂帛の気合いで剣を振り下ろしたローズマリー。日々の鍛錬で繰り返される基礎の型は、理に適ったフォームにより力強くぶつけられる。

「ぐっ……くっそぉぉーっ!!」

 剣を翳すも受け切れず、武器を取りこぼした男が悔しさを叫ぶ。手の平は痺れ、握力は既に機能を失っている。
 地道なローズマリーの攻め手が身を結んだ勝利だった。

「おめでとうございます、ローズマリー様」
「……これでは負ける方が難しいじゃない」
「そんな事はありません。同じ条件・・・・で見事に勝ち取った勝利です」

 後の二人を注視しながら称賛するコールに、鋭い視線を向けて不満をにじませる。

「おっと……!」
「……確かに同じ条件ではあるわね」

 別の場所で対する男がサラへ飛ばした魔法……火の玉を、コールは飛翔する斬撃で即座に斬り払った。
 属性魔法など我関せず、有無を言わさず青暗い斬撃にで両断して霧散させる。

「またっ……! ふ、不正だろっ、こんなの!!」
「どうしてですか? あなたも魔法を使い、僕も戦技を使った。至ってフェアプレイです」

 純粋な武器術での戦闘を強いられ、堪らず憤然とする心情を叫ぶも条件はやはり同じ。コールの実力を致命的に低く見積もっていた男達は、兵士クラスにすら押されていた。

「他人の探られたくない腹の内を引き出してまでの模擬戦です。僕は彼女達に憂さを晴らすチャンスをあげました。ですがそれは、対等な条件下での戦闘です。あなた方にとって分が悪くなるものではない」
「ああっ! なんでこんな事になるんだよっ! こ、こいつを足止めしている間に、兵士クラスを蹂躙するだけの筈だろ!?」
「ほら、また救い難いプランが顔を覗かせた。その将位クラスの実力とやらで、せめて剣で打ち勝ってみせなさい」

 けれど戦技や魔法に頼り切りで旗将クラスへ到達した者に、基礎を繰り返させられる兵士クラスを打ち崩す技術はない。導師クラスへ上がれない者の殆どは、早熟である事をおごったが故に基礎的な鍛錬を怠り、成長しなくなった者達だ。

「デリャァァァ!」
「くぁうっ――!?」

 跳ね上がる剣に打ち据えられ、脇腹を強打された男が腹を押さえてうずくまる。

「ぐぁぁ……おえっ!?」
「はぁ、はぁ……お母さんを馬鹿にするなっ!」

 嘔吐する男へ震え声で怒鳴り付け、サラは苦戦するも勝利を収めた。肩で息をするサラだったが、やがて送られる拍手に気付いて目線をそちらへ。

「サラさんも、おめでとうございます」
「こ、コールさま……」

 業物であろう美麗な刀を逆手に持ち、拍手で労うコールを目にして、やっと胸を撫で下ろす。

「……」
「どうした、アーサー。難しい顔をして、あの天才を見て自信でもなくなったか?」
「それもあるかもしれない」
「おいおい……あんなの自信喪失以前だろ。レオナルド博士もいれば、コールみたいな化け物もいるってことだ」

 以前にコールを目にして超越者の次元を知ったガウェインだが、こうも気難しく悩むほど柔な精神ではなかった。まさかアーサーがと、気の滅入った者にかける言葉に苦心する。

「だがそれよりも、軍学校の方針を変更すべきかもと思ってな」
「……つまり?」
「コールは刀術のみでルーラーに勝る。今も兵士クラスの彼女達は、何度かの魔法を無力化するだけで旗将クラスにも勝ると示した。これは現制度化でのクラス分けの矛盾点と言えるだろう」
「……確かにな。もしかしたら、魔法や戦技がなくてもルーラーに相応しい人材はいるのかもしれん」

 規定を見直す必要がある。そもそもこの立ち会いは、コールによる訴えなのかもしれない。天才の目には、軍学校のクラス分けに潜む不備が明瞭に見えていたのだろうか。

「――ギャァァァーっ!?」
「……どうした?」

 突如として上がった痛烈な絶叫に、アーサーが顔を起こしてコール達へと視線を戻す。

「はぁっ、はぁっ……!」
「ガァぁぁ!? ぐぁぁぁぁ!!」

 顔面を抑えて悶絶する男を前に、腰を抜かしたヴィヴィアンは顔色悪く男の様を見ている。

「我武者羅に振った杖があの訓練生の顔に当たったんだ! おいっ、救護官を呼べっ!」
「ベディ、来るまで見てやれ」

 アーサーに指示に無言で頷き、矢の速度で飛び出したベディビエール。
 出鱈目に繰り出したヴィヴィアンの渾身の一撃が不幸にも直撃してしまったらしい。実際の戦闘を想定して行われる実戦形式であれば、不慮の事故は有り得る。
 それは生涯の傷ともなりかねない。傷を負った者も、負わされた者も。危惧するアーサーや周囲に対して、ただ一人だけがヴィヴィアンへ冷徹な目を向ける。

「……」

 ローズマリーが表情に忌々しさを露わにしてから、その場を後にした。

「……コール様、この度は本当にありがとうございましたっ」
「お陰で胸がく思いです!」

 運び出される訓練生とヴィヴィアンを見送り、グレイスとサラがコールへ歩み寄り、手を取って感謝を告げる。終結は気持ちのいいものとはならなかったが、兵士クラスの勝利は間違いない。

「それは良かった。あのような悔しい思いは、すぐに発散するに限りますからね」
「コール君っ、見ていたよ! 君は凄い人だ!」

 両手を取って振り回し、歓喜する二人に端を発し、扉から盗み見るように窺っていたクラスメイトが駆け寄って祝福する。

「キャァーっ!」
「あ、あたしにも触らせてっ……!」

 肩を叩き、腕を絡ませ、これ幸いとコールに触れて勝利を分かち合う。黄色い声が上がるに連れ、縁のない者達からの嫉妬の視線を集めていた。
 だが同時に、みるみる青くなるコールの顔色。死体を思わせる血色の失せた顔となるまで、数秒とかからなかった。

「……すみません、救護室まで一名追加で」
「えっ……?」

 バタンと音を立てて、土気色の顔をしたコールが倒れる。脈は弱々しく、呼吸は止まり、瞳孔は開いている。すぐに痙攣けいれんまで始まり、今や危篤状態となってしまう。

「コールさまっ!? コールさまぁーっ!!」
「だ、誰かぁ! 救護官を呼び戻してくれっ! 早く!」

 ♤

 救護室に運ばれ、治療される旗将クラスの訓練生。
 彼は専門家に任せる他なく、アーサーとベディビエールはヴィヴィアンを寮へと送り届ける。

「戦いに怪我は付き物だ。気にすることはない」
「……」

 気遣いの言葉にも無言で頭を下げて、うつむくヴィヴィアンは静かに寮へと戻って行った。
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