コール様の仰せのままに ・名作RPGの超天才黒幕ボスに転生したゲーマーの末路

歌川博士

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第二章[悪女の生きる道]

第四十八話、悪魔の時間がやってくる

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 代表の元を後にするなり、小癪こしゃくな眼光を背に受けながらも、すぐにローズマリーを買い物デートへ誘う。
 疲れているだろうが、少し無理をしてもらおう。どこかロンドンを思わせる街並みをローズマリーと歩き、時折適当な店に入って似合いそうな服を薦める。
 その間に俺は窓から近くの交番や警察の動きを眺める。

「……その、どうかしら」
「ん?」

 このブランド店でも新しい服を試着し、照れつつも端から見せて来るローズマリー。普段の不機嫌そうな雰囲気が嘘のように楽しげだ。

「いいじゃん、その模様があるから特に可愛い。コールさんは悪魔を殺しまくってお金持ちだから好きなだけ選ぶんだぞ」

 完全に俺に惚れたらしいローズマリーがあまりにも愚かで可愛いので、誉め殺した上に金で更に依存させる。
 死にかけたし【耀の光】はあれから反応がないが、それでも宿主であるローズマリーが向こうから惚れ込んでくれたのは有り難い限りだ。

「もうたくさん選ばせてもらったわ。次に行きましょう」
「……こういうのも着てみたら?」

 何故か近くにあった露出度高めのメイド服を取り、ローズマリーへ差し出す。
 すると飛び上がったローズマリーが慌てて小声で言い募ってくる。

「ちょっと止めてよっ、恥ずかしいじゃない……!」
「はあ!? おいっ、俺だって恥ずかしいわ。メイドの方々に謝れ!」
「メイドを見下しての言葉じゃないわよ……! これを作った人間こそ責められるべきでしょう!? メイドをなんだと思っているのかしらっ!」

 メイド服を取り上げて辺りを見回し、わなわなと怒りを表している。
 だがふと溜め息を吐き、ジトッとした目で何かを訴え始めた。

「……」
「……なんだよ」
「……別に、なんでもないけれど。これも購入するのよね? 店員へ渡しておくわ」

 その割には不服そうに言うじゃないか。目付きもあからさまに不満げだ。
 気になる。スニーカー裏の窪みに小石が挟まった時くらい気になる。タイルを歩く度にカツンカツン鳴るあの時くらい気になる。
 しかし答えは得られず。ローズマリーがお会計を終えるまで暇なので、一応ステータスを確認しておこう。

 [名前]コール・モードレンド
 [レベル]176
 [戦技]【飛刀】【斬風】【死突】【音無】【空踏み】【瞬刹】【刻断】
 [魔法]【龍火魔法クラスⅢ】【コールの赤雷】
 [持ち物]打刀

 アイテムが丸ごと無くなってしまった代わりに、レベルがモリモリと上がった。不夜城を丸々一人で攻略しただけにしては馬鹿げて飛躍的に上がった。早く試したくてぞくぞくもするが、落ち着け俺。
 ここからはこれまで以上に簡単にはレベルを上げる事はできなくなるだろう。それこそ、後半のボスや高難易度の任務でなければ、一レベルも上がらないと推測できる。
 つまり、イベント関連のボス達がこれからの主食となるわけだ。

「行きましょう。次はどこへ行くの?」
「……あと必要なのは、なんだ?」

 必要な残りのものを買い揃えるべく、再びキャメロットの街中を行く。
 思うところがある癖に腕を絡め、自然と寄り添ってくる。半日前からは考えられない豹変ぶりだ。

「……あなたがこういう人だとは思わなかったわ。昔は怖くて仕方がなかったのに……」
「なんだよ、男なら愛人の色んな可愛い姿を見たいと思うもんだろ」
「愛人!? 恋人でしょうっ?」

 え、恋人なの……?

「当然だろ。ちょっと方言が出ちゃっただけ」

 即座に平然とコレを返せる自分が大好き。

「どこが方言なのよ、同じ帝都出身じゃない……!」
「お前、バカ……」
「馬鹿って言ったの!? 言ったわよねっ!」
「好きな子に意地悪しちゃう時だってあるだろ。あの原理と嫁姑問題を掛け合わせて半分に割ったらほぼ方言という結論に……」

 訳の分からないことを言って煙に巻こうとしていると、ショーウィンドウ内にあるスクリーンからとあるニュースが流れる。

『ペンドラゴン・エンタック代表は午後十四時に、自身が手掛ける“プロジェクト・ドーン”関連の法案が可決された事を発表されました。これについてツーモさんはどう思われますか?』
『ま、成功されるぅんじゃないですかね。分からないですけど』

 プロジェクト・ドーンか……簡単に言ってしまえば、人間の領土拡大。魔城のない地域に限定されて狭い土地で生きている人類にとって、永遠の課題とも言える。
 しかし現在は交渉が成り立った悪魔の魔城を訓練施設として取り入れ、その場所に都市を築こうという計画が前代表の時代から持ち上がり、成立まであと少しというところまで来ている。

「……住める場所が多くなるのは喜ばしいけれど爵位持ちの悪魔が近くにいるなんて怖いわね。本当に共存できるのかしら……」
「出来るわけねぇだろ。都市が完成しても絶対に行くなよ。肥料にされるぞ」
「えっ……!? あなた今、ものすごい事を言わなかった……?」

 これは現状どうでもいい。俺が今すぐどうこうできるものでもないし、間違いなく実行はされてしまうだろう。というよりも、別に知らない奴がどうなろうと知ったことではない。
 当面の目標は全く別のものだ。

「ローズマリー、ここのホテルに入ろうか」
「ホテル……!?」

 取り立てて良さそうではないが、そこそこ高級感あるホテルに迷わず連れ込む。四階の良い部屋を割り当ててもらい、緊張でカチコチなローズマリーを連れてエレベーターへ。
 辿り着いた部屋は……まぁ、悪くはない。

「……」
「おい、こっち来いよ。夕陽が綺麗だぞ」
「え、ええ……」

 優雅に、上品に、緩やかに歩むも、ムーンウォークでもしてるのかと思う程に少しずつ進んでくる。急かす必要もないので待つのみだが、一々揶揄からかい甲斐のある女だ。

「アレ、何か分かるか?」
「……代表家御用達の病院ね」

 ホテルから見えるのは、ローズマリーの母親であるビア・エンタックが数時間前に失踪した病院。

「隠れた悪魔はもう代わりの皮を被っている頃だろう。上手く警察や軍の包囲網を抜け出そうとするなら、浮浪者辺りだな」
「……!」
「ここで逃げられると捕まえるのは極度に難しくなる。今夜の内に俺達も捜索に加わるぞ、勝手にな」
「……分かったわ」

 夕陽が沈む。【耀の光】のような鮮やかな輝きが、帝国に沈むのをテラスのテーブルから眺める。
 話題が話題だけにムードは台無しだが、コールの勘が逃げ延びた場所の候補を三つ告げている。二つは買い物の最中に立ち寄って潰した。
 後一つは、この近く。日が落ちたら行動を開始しなければならない。
 さぁ、悪魔君。コールの頭脳はそう易々と悪魔を逃してはくれないぞ?

「今のうちに大切な質問をしたいんだけど、自分で仇を殺したい気持ちとかあるか? ないなら俺がサクッとやる」
「……」
「ビアさんを悪魔に食わせた結社は、その悪魔の血液が目的だった。誰でも良かったところを、わざわざビアさんに宿らせた」
「っ……」

 目的を知ったローズマリーが、堪らず歯を食い縛る。

「その結社は全員で十二名。俺が居場所を特定しているメンバーは八人。でもかなり厄介な奴等で、すぐには手を出せない。殺せたとしても他のメンバーが隠れるだろうから、上手く殺さないといけない」

 明確に犯人がいると知ったローズマリーの瞳に、憤怒の炎が宿る。
 殺意と道徳心とでせめぎ合うローズマリーの背後に周り、囁きながら抱き締める。

「俺がローズマリーとビアさんの代わりに全てを殺してみせよう。ただ……いざという時の為に、仇の悪魔でレベルくらいは上げとくか? もう弱者として奴らの食い物にされないように。いざという時、強者の振る舞いができるように。つまり……人なり悪魔なりを、その手で殺せるように」

 悪魔の囁きと人は言うのかもしれない。だがローズマリーは暫くの間を置いてから……頷いた。

「……」
「いい子だ」

 ローズマリーが害される事はもうあってはならない。物語にどのような影響が出るかは不明だが、正史のように傀儡とさせてもらう。

「そこで直面する問題がある。レベルは俺がいれば上がるけど、人工精霊はどうするよって話」
「人工精霊? まさか私をルーラーにするつもり?」
「いいや? なりたいならなればってくらいだな。メリットは一発逆転の術が手に入る。デメリットは父親の手駒になる。どちらでも好きな方を選べばいい」
「……あなたが勧めるのはどちらなのかしら。参考までに理由と共に聞かせなさい」
「聞かせてくださいだろうが、女ぁ」
「……聞かせてください」

 主従関係をいまいち把握していないところは指導が必要だが、とりあえずは質問に答えてやる。

「俺ならルーラーにはならない。ペンドラゴンの命令を今以上に受けたくない。一生自分の物である保証もないし、人工精霊は結局のところ博士しか使いこなせない。どれだけ努力しても引き出せるのは五から十%が精々だろう。なんか悔しいから使わない」
「流石はレオナルド博士ね……」

 ガスマスクを付けて高笑いの日々を送るあのロロも、本当は歴史上で最高の天才なのだ。ローズマリーが感嘆の溜め息混じりに賞賛するのもうなずける。

「……正直に言うなら、強くなった事がないから判断をしようにないわ。戦えるなら人工精霊が無くとも構わないし、戦えないなら必要よね?」
「レベルを上げて欲しいって事か? それは言った通りに上げるつもりだけど」
「……いくら努力をしても、所詮はレベル。とにかく戦技や魔法がなければ意味がないじゃない」
「そんな事はない。体の使い方や武器の練度、戦技と一口に言っても工夫などの努力は大切だ。あの時も言ったけど、基礎ができてるローズマリーは同じレベルの奴等より確実に強いだろうな」
「……」

 意外そうな間の抜けた顔をするローズマリー。何か思い当たる事でもあったのか、深慮する様子を見せてから答えた。

「……それでも実際にレベルが上がってみなければ意味のない議論よね」
「まぁ、そう言われたらそうだけどね。とりあえず人工精霊よりヴィヴィアンをぶっ飛ばすのが先だよな」
「……あなた、気付いていたのね?」

 疑心を露わに目尻を吊り上げるローズマリーに、正確な事実を伝えてやる。

「当たり前だろ。周りの馬鹿共と違って俺は見てりゃ分かる。ちなみに、アイツとお前を調査させた報告書が今朝になって届いて、不自然な外出予定をその時に確認したから、慌てて駆けつけたんだよ」
「そうだったの……皮肉な話ね。あの女を調べたお陰で助かったなんて。でもコールには感謝するわ」
「まったくだな。お前、もっと感謝せぇや。あんなホイホイとヤバヤバ魔城に連れて行かれやがって……」
「……分かっているわよっ。あと“お前”と呼ばないでっ」

 自然体のローズマリーとの会話も楽しいが、待ち侘びた時刻となる。光が一時的に去り……影の時間が訪れる。
 【夜の影】から這い出し悪魔達の時間がやってくる。
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