コール様の仰せのままに ・名作RPGの超天才黒幕ボスに転生したゲーマーの末路

歌川博士

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第三章[裏社会の辿る道]

第六十一話、鉄の拳

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 翌日の朝、まだ空も白み始めたばかりの時刻から、護衛を出し抜いて寮を脱出。心配はいらない。どうせ俺に付けられた拘束具で位置情報はロロに筒抜けだ。
 すぐに代表にもバレるだろう。置き手紙も残しておいたし、ローズマリーを連れているのであまり強くは言えまい。

「それで? 今から私達は何処へ向かうつもりなの?」
「まずはハンマーゴーレムと殴り合いに行く!」

 強力なスキルの多くは段階的にミッションをこなし、徐々に強くしていくものだ。
 これもまたその一つ。まずは特性スキル【鉄拳】から取得する。これにより防御値を低くするガードブレイク機能が、打撃に付与される。

 なので魔鋼列車に乗り、まずはマーズナリー遺跡群へ向けて出発。近くの駅からはタクシーを拾おう。

「これはお前も取得できる範囲だから、やっておいたらどうよって話。だからいちいち質問しないで。理由なんて聞かないで黙って従いなさい」
「あのね、私を呼ぶ時にお前って呼ばないで。その呼び方は私への敬意に欠けるわ」
「お前にお前なんて言ってねぇよ!! いつ言った!? 証拠も事実もないのに出鱈目いうなっ! 虚言癖女がぁ!」
「言っているじゃないっ……!」

 言っていたみたい。
 青筋を浮かべるローズを前に反省したつもりになる。
 だが、この程度のことなら俺が直そう。我慢する事も覚えず、嫌というだけで何にでも喚き散らす低脳とは違う。賢く、分別のあるローズが言うなら直した方がいいのだろう。

「ねぇ、私は他にどんなスキルを得るべきだと思う?」
「う~む……もう必要最低限の魔法や戦技は持ってるけどな。あとは特性スキルだろ」

 【勝利の煌剣カリバーン】はシリーズでも特別な意味を持つ魔法だ。主人公が苦難を乗り越えた先で掴む形勢逆転の伝統的な魔法。火力は比べられないが、人工精霊的な位置付けで使われていた。
 それをこいつは、ちょっとレベルが上がった程度で習得してしまったのだ。
 まあ……俺が助けに入らなかった未来を考えると、これくらいじゃお詫び代わりにも程遠いが。

「ああ……あと逃走スキルは持っておいた方が安心だよな。暗黒剣士で痛感しただろ? ヤバい奴と遭遇したら、勝てそうでもまず逃げるのが鉄則だ。これはゲームじゃないんだから」

 俺は移動系スキルが豊富なので不要だが、普通は逃走スキルなどの身を護るものが優先されるべきだ。

「それならもう覚えたわ」
「なんで既に覚えてんの……?」

 謎が謎を呼ぶ、ローズマリー急成長物語。ルーラーを飛び越えてレベルアップ。魔法も戦技も一級品。
 しかも俺が考える優先度の高い理想的なスキルまで取得している。

「……アグラヴェインはどうするつもり? あのまま放っておくの?」
「そんな訳ないだろ。俺が放っておいても、おま……ローズの父親は放っておかないだろうな」

 あの男が人工精霊を遊ばせておくわけがない。ペンドラゴンも俺を動かして尚も使えないようなら、たとえ素体の潜在能力が上位にいるアグラヴェインと言えども、容赦なく切られる。
 父デュエル辺りを動かせば、その日の内に死体となっているだろう。裏切りが起こる例の日までは心配ないけどね。

「その辺のゴタゴタは気にしてもしょうがない。差し当たり、俺は来たるルーラー同伴日に備えるのみだ」
「……その来たる日には何があるのよ」
「かな~りヤバい奴が動く」

 揺れる列車で、暇潰しがてらその“和尚おしょう”と遭遇する負けイベントについて話し、目当ての駅までの時間を過ごした。
 駅からは車を使えば二時間半。ゲームと違い、最寄りの場所まで視点を切り替えられるわけでもなく、実際に旅をして向かう。これもまた楽しい現実世界の醍醐味だ。

 辿り着いた先は、崩れ落ちた遺跡の残骸の上で、かつての都を今もなお守護するゴーレム地帯。
 黒光りする巨大な岩の人形達が巡回中のところを、スキルゲットの為にお邪魔させてもらう。

「オラオラオラオラぁ!」
『――!』

 鉄球の拳で殴り付けてくるゴーレムと、真っ向から殴り合う。俺の場合、力量がレベル九十代まで抑えられているが、それでもすぐにゴーレムは破砕されて倒れていく。

「あれ? もう手に入った……」

 【鉄拳】を覚えた感覚を、到着から二十分足らずで得てしまう。ムンガムンガソンを倒しまくって得た【破魔の剣】とは、なんだったのだろうか。
 ……でも【破魔の剣】の有用性を考えたなら妥当なところか。

「……」
「えぃ! ふっ!」

 綺麗な紅髪をポニーテールにして、汗を散らしながらゴーレムと殴り合う小娘を見る。もう終わったから次に行こうって言ったら、怒られるかな。
 ……少しは待ってやるか。

 学校の短パンとシャツで懸命に戦うローズマリーを眺める。スポーツに励む女子っていいよなと、親父丸出しの思考でひたすらに待つ。

「あら、もう手に入ったの?」
「うん」
「私はまだ時間がかかりそうだから、ゆっくりしていていいわよ」
「うん」

 やっぱり次に行こうと言ったら怒られていたやつだった。ローズを待たなきゃいけないパターンだ。危ない危ない。
 妙に色っぽいローズマリーを眺める事、三時間。学校の訓練で様になっていた拳の突きが、実戦を経て馴染んだ頃、ついに終わりがやって来る。

「っ……お、覚えたわっ」
「よし次に行こう」
「待ちなさいっ……!」

 岩から腰を上げた俺の服を、息も絶え絶えに引っ張って止めてくる。

「……? なんだよ」
「あなたには私の姿が見えていないのっ?」

 汗に濡れる前髪や体、紅潮した顔。荒い呼吸で吐息混じりの疲労困憊なローズマリー。しっかりと見えている。

「……汗だらけの女がいるけど?」
「……」

 真っ赤になった顔を顰め、今日も今日とて睨み上げられる。

「早く着替えてもらえる?」
「わ、分かっているわよっ」

 とはいえ、早く次の【鋼拳】へ急がなければならない。俺達に残された時間は今日と明日だけなのだから。
 テントで着替えを終え、撤収作業もスムーズに完了させ、次なる目的地へ。まずは遺跡群から道路まで降りて、タクシーが通るのを期待しながら駅へ向かう。

「ローズは次の【鋼拳】まででいいと思うぞ。その次から面倒になってくるしな」
「付き合うわ」

 隣を歩く彼女から、即決で返答される。
 ……またこいつが習得するまで待つ羽目になるようだ。今の俺に適した【熱拳】までは到達しておきたいのだが、二日でいけるだろうか。
 いや、この際だから、ローズマリーもレイチェル同様に面白おかしく育成していこうか。

「なあローズ、良い機会だから俺がいいスキルを覚えさせてやるよ」
「……悪戯される未来しか見えないけれど? でもあなたに抵抗しても無駄よね。好きにしなさい」

 好きにしていいらしい。
 レイチェルは万能タイプに仕上げたから、ローズマリーはもっとアホみたいな攻撃特化ビルド構成にしよう。それがいい。それなら同行させる楽しみにもなる。
 もう既に三種の神技【エンタックの剣】を持っているが、それを十全に活かせる状態に持って行こう。
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