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第二章
伯爵の正体
しおりを挟む「は、伯爵はとてもドイツ語がお上手ですね。今までにもドイツを訪れたことがあるのかしら」
「ええ、何度か。それに語学は私の好きな分野ですから」
「尊敬しますわ!わたしは外国の言葉はひとつも…」
「……」
「……っ、今回はどのような用でこの国へ?」
「それは…申し上げられません」
レベッカは相手の顔を見ることなくとりとめのない会話を続ける。
異国の伯爵への接し方などよくわからない…。
“ それに何故だか落ち着かない… ”
一目この方を見た時から胸騒ぎが止まらない。
伯爵が美しいから?いや、それだけじゃない。
それはただ単に、彼の整った容貌だけに起因するものではないようにも思うのだ。
「……」
そうこう考えているうちに寝室に到着。
先に部屋に入ったレベッカは、パタパタとはためくカーテンに目をやる。
──メイドが窓を開けたままにして帰ったのだろうか。
彼女が窓際へ歩き出した時だった。
...パタン
「──…ッ」
背後でしたその音に、反射的に彼女は振り返る。
「──…っ」
「どうか…しましたか……?」
後ろ手に扉を閉めて
伯爵が口許に笑みを浮かべている。
その妖しい口許を──何処かで見たことがあるような
そんなことを彼女は感じた。
「いえ、何も…っ」
そして目をそらす。
密室で男と二人きり。今さらながらこの状況を危険に思う。
伯爵はそんな彼女の横をすり抜けて、真っ直ぐバルコニーへ足を進めた。
開いた窓から外に出て、そこから見下ろせる庭園に目を細める。
「上からだとこのように見えたのですね」
「……」
「素晴らしい薔薇の庭だ」
クスリという含み笑いが、レベッカの耳に届く。
やっぱりだ。ナニカ、おかしい。
“ この声…やっぱり聞き覚えが── ”
ドクリと心臓が音を立てた。
似てるの、あの男と
同じなの……!
「──…昨夜の……暗闇では
よく見ることができなかった」
「……!」
レベッカは凍りついた。
「そんな…」
目の前のこの優雅な伯爵と
昨夜のあの男──
同じだ、なにもかも…!
気づいた時には、その身体は震えていた。
「もしかして…っ…あなたが…!?」
「──…」
「昨日の怪盗……?」
「…失礼。今の私はブルジェ伯爵。そのような者では御座いません」
「……っ」
振り返った彼は、靴音を響かせて彼女に近づく。
一歩、二歩と後ずさるレベッカの驚きようを目にいれて、妖艶で危険な笑みを浮かべた。
優雅な所作で腰をおり、彼女の耳に唇を寄せる。
「──…またお会いしましょう、公爵夫人」
すれ違い様にそう囁き、そのまま部屋を後にした──。
──
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