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第九章
Epilogue──3
しおりを挟む──…
それからひと月が過ぎ去った。
季節はすっかり夏となり、雲ひとつない空で、人々は突き刺さるような太陽の明るさの中で過ごしていた。
この気候ではほとんどの作物が暑さで育たない。
だから人々はオリーブ畑の手入れに加え、アーモンドやブドウ畑での作業に勤しんでいた。
それは毎年のことである。
ドイツであっても、フランスであっても…。
「伯爵夫人……、伯爵夫人…っ
──レベッカ様?」
「 わたし…?…あ、そうでした」
「私共はここで失礼いたします」
「わかりました、お気をつけて…っ」
客人の応対を終えて、若き伯爵夫人は部屋に戻った。
ただでさえ不得手な外国の言葉。それにくわえ、ついこの間まで " 公爵 " 夫人だった彼女には、いまだに戸惑う場面である。
疲れを感じて部屋の扉を開けたそこでは、付き人のレオが片付けの最中だった。
「客人は帰られましたか」
「ええ。その…なんとかお相手は務まったかと思います」
「では私は退室しますから、奥様は部屋でおくつろぎ下さい。またこちらは、今朝がたご所望だった書物です」
「まぁありがとう、助かります」
彼女が戻るやいなやテキパキと作業を切り上げるレオは、最後に本をいくつか差し出した。
レベッカはそれを受け取った。
彼に頼んで用意してもらったのはフランス語を覚えるための書物だ。
「私がお教え致しましょうか」
「いいです自分で勉強します。あなたは少し休んでちょうだい……働きすぎじゃないですか?」
クロードにこき使われるレオの苦労を彼女は知っている。そのあつかいは付き人を通り越して…もはや奴隷だ。
今だって、レベッカの部屋を整えるよう言いつけられた彼が、彼女がいない時間をねらってせっせと働いてくれている。
クロードの執務室と続き部屋になっているここは、もともとは倉庫のような使われ方をしていたらしく、初め見たときは物で溢れかえっていた。
レオのお陰ですっかり片付いてきたけれど……
ガタッ
「あっ…!」
その時、運び出すために扉の横に立てかけてあった絵画のひとつに、彼女の足がつまずいた。
絵を覆っていた布が落ちる。
「ごめんなさい不注意で!……絵が」
転げないように受け止めてくれたレオに頭をさげ、彼女は慌てて絵画を見た。
「……あら」
現れた絵画は、肖像画…
古い木枠におさまった肖像画だった。
“ この人…… ”
そこに描かれていたのは女性だった。
緩やかなカールのかかった短めのブロンド髪で、年はレベッカより上の人だ。
女が見てもどきりとするほどの実に美しい女性である。
レベッカは何か見てはいけないものを見てしまった気がして、思わず視線をそらした。
今の人は、もしかして…
「──この方こそが、主(アルジ)が長年探しておられた女性です」
「…っ…ならこの人が、" あの "……?」
「ええ、" あの " 女性です」
「……っ」
彼女を襲った胸騒ぎの正体を見透かして、レオが淡々と教えてくる。
彼は落ちた布を絵画に被せて、それを抱えて去ってしまった。
「──…」
ひとりになったレベッカは、もやもやと晴れない気持ちのまま、レオにもらった本のいくつかを書棚に戻す。
ひと目見ただけの肖像画が、頭から離れない。
とても綺麗な人だった。
自分とは違う、大人の女性。
……本当にあの人が?
「あの人が…クロードの大切な女( ヒト )…?」
「──私がどうかしましたか?」
「……っ」
物思いにふける彼女が驚いて振り向くと、そこにはクロードが。
背後から書棚に手をついて、レベッカを自分と書棚の間に閉じ込めていた。
「顔色が……悪いですね。どうしました?」
「……ぁ、いえ……!なにも……!」
「…なるほど?」
そして複雑な表情のレベッカを覗きこむと、やれやれといったぐあいに口の端で微笑む。
「──来なさい…レベッカ」
クロードは彼女の腰に手を回して、部屋のソファに腰掛けると、その上に座るように彼女を促す。
レベッカは恥ずかしそうに顔を赤くしたが、あきらめてちょこんと彼の膝に座った。
「それで?何があったのか正直に言えますね?」
「……わたし、ここにあった肖像画を見てしまって」
自分の膝に座るレベッカの栗色の髪を撫でながら、クロードは優しく問いかけていた。
いよいよ誤魔化せないレベッカは、白状するしかない。
「その肖像画の女性が…──あなたがずっと行方を探していた人なのだと、知って」
「……。…誰に言われた?」
「レオです」
「……………あいつか(ボソッ)」
「ごめんなさい、わたしが関わるべきことではないのに」
「──…」
「と…とても綺麗な方でっ……少し驚いてしまって」
彼女の声が徐々に小さくなってゆく。
やはりショックを隠せない
だってあんなに美しい人が──
「…ふっ」
困惑する彼女を愛おしそうに見つめ、クロードが語りかけた。
「 " あれ " は私の母だ 」
「──‥え?‥は‥母‥‥??」
「そうですよ」
どういうこと?
レベッカはますます戸惑っていた。
クロードの母上なら知っている。ここに来たときに紹介された。いい雰囲気ではなかったけれど。
少なくとも、あの肖像画の女性ではなかった筈だ。
「私の父はブルジェ伯爵。そして母は館で働く一介の召し使い。──つまり私は不義の子なのです」
「…ふぎ、って」
「伯爵家は、母から私を取り上げた」
「そんな…」
クロードの母は貴族ではない。
彼の兄、ダニエルの乳母としてやってきたその女性が…クロードをその身に宿したのだ。
伯爵夫人は当然のごとく怒った。
しかし伯爵の寵愛をうける彼女を無下には扱えず、館から追い出すのはあきらめ、彼女から子供を取り上げて自分の子として育てることに決めたのだ。
それからクロードの母は…肩身の狭い思いをしながら伯爵家に遣え続けたのだという。
──幼きクロードはその事実を知らされず育ったが、頭のいい彼は気付いていたのだ。
自分が伯爵夫人の子供でないこと。
ある召し使いが自分へ向ける視線が……実の子を見るように一途で、温かなものだということに。
.....
『 …ねぇ、君 』
『 …っ…はい、クロード様、どうされました? 』
『 僕はいま絵画の勉強をしているんだ 』
『 ──?そうでございますか 』
『 だから肖像画のモデルをしてくれないかい 』
『 …!…私などがそんな…っ、いけません! 』
『 君がいい。だから早く支度をして 』
『 ──…! 』
さらに頭のいい彼は、彼女を母と呼ぶのは許されないということを……小さいながらに理解していた。
お互いに、一度も口には出さなかった。それでも二人は幸せだったのかもしれない。
──しかし、伯爵が病に伏せたころ
タイミングを見計らっていたかのように、夫人はクロードの母を館から追い出してしまったのだ
それはクロードが十二の歳の時だ。
まだ子供であった彼は成り行きを黙って見るしかなかった。
「もし私が…彼女は自分の母だと騒ぎ立てれば、母の立場はますます悪くなりこんな罰ではすまされなくなる」
「──…」
「自分は無力なのだと思い知ったのは、後にも先にもあの日だけだ…」
実の母が追放されるのを幼きクロードは黙って見ていた。
彼は自身の無力さ故に、大切な人を失ったのだ。
「クロード…っ…ごめんなさい…!」
「…何故、謝るのです?」
「だってわたし、そんな事とは知らずに…」
レベッカは自分がどうしようもなく矮小(ワイショウ)な心を持っていたのだと、恥じるほかなかった。
勝手にクロードの " 大切な人 " に嫉妬をし、ひとりで悩んでいた。
まさか彼にそんな過去があったとも知らず。
「嫉妬する相手を間違えたようですね?」
「そ、そんなこと…」
胸の内を言い当てられて慌てるレベッカ。
そんな彼女をクロードは引き寄せ、無防備な首筋にキスをした。
「…きゃ…ぁ…!」
片方の手がドレスのスカートをたくしあげている。
彼の上に座るレベッカは驚いて抵抗した。
「え?ま、待って、今から……するの?」
「ええ無性に……抱きつぶしたくなりました」
「待ってクロードっ、まだ、こんなに明るいうちから」
「明るいほうが、貴女の感じた姿をよく見ることができますからね」
「わたしは嫌です…って‥‥ァ‥//」
レベッカの口から色めいた声が漏れる。
顔を寄せたクロードが、彼女の小ぶりな耳を口に含んでしまったのだ。
柔く食(ハ)み…チュッチュッとキスを繰り返されて、音が直接 脳に流し込まれる。
「ま…//…待って、こんなところじゃ…や…あ…//」
「…私は何処であれ…あなたを可愛がりたいと思いますよ…レベッカ」
「ぁぁ…っ」
その間にもドレスは乱され、彼の手で優しく足を開かされる。
薄いシュミーズしか守るものがなくなった足の付け根に指をあてがわれ、甘く強く、擦り立てられた。
戯れに布越しの淫芽を爪の先で掻かれると、淫らな衝動が腹の奥から沸き起こり、息がつまる。
たとえ腰を逃がしても、背後のクロードに抱かれているこの体勢ではたかが知れていた。
離れてくれない彼の指は、内ももの柔らかいところを時おり撫でては、敏感な突起をくすぐるようにじわじわと責めてくる…。
「あ……ぁぁっ……やぁぁ…」
すぐにビクビクと痙攣が始まる。これでは……
「ふっ…あっという間に濡れてしまいましたね?嫌と言うわりに積極的だ……湿って……貼り付いてしまっている」
「ぁぁっ……ひ、ひどいわクロード」
「酷いですか?では詫びに、あなたの好きなトコロをもっと可愛がりましょう」
役たたずの下着もさっさとめくられて、とうとう恥ずかしい秘裂が白昼の元に晒された。
両手で花弁を開かれ、トロトロと愛液を零す蜜口に指を這わされる。
「だめよ…──アッ…ぁぁ、あああ…!」
そしてくちゅりと粘膜をなぞった指は、秘裂の上の赤い淫芽に伸びて、丹念に愛で始めた。
一本の指が、コリッコリッと恥骨で押し潰すように左右に動く。さらにもう一本が、突起のすぐ下の過敏なところをヌルヌルと撫でまわしてくる。
「ああん…っ‥‥ああ…‥はああ……」
「この愛らしい蕾も少しずつ大きく育てましょうね、レベッカ……」
「ああ‥‥クロー‥…どぉ…‥//…‥駄目、…‥大きくしちゃ…‥いやぁ‥‥//」
小さな突起に両手を使って与えられる指戯の快感はすさまじく、腰がぐずくずと溶けるばかりか…男を煽る甘い声で鳴いてしまった。
「ふっ…なんです?その声は……!あなたが気持ちよさで我を忘れて失神するまで、虐め倒してよいのですか……?」
熱を帯びた男の声が、耳許で囁く。品のある声質のせいで騙されそうになるが、おそろしく卑猥な言葉を。
それを聞いた瞬間 脳の中まで揺さぶられた気がして、レベッカの性はあっという間に登りつめた。
「アッ…!‥あ、あ、あっ‥‥ゃあぁあ‥‥ッッ」
ひときわ大きく身体がしなって、胸のふくらみが揺れる。
だがそれで終わるわけがない。当然のように続く指戯によって快楽の頂きから降りてこられないレベッカが、大きくひらいた目から官能の涙を溢れさせた。
「はぁぁっ…、ふぁ‥‥」
今度は蜜洞に指を挿れながら、同時に蕾を嬲られる。
クチュ、クチュ...クチュ
「─‥‥あぅぅぅ‥//」
柔らかく潤んだそこを指の腹でたっぷりと擦られ、ぷくりと膨らんだ芽を指先でつまんですり潰された。
「…ぁぁぁッ‥‥だめぇ‥…またきちゃう‥‥!くるっ‥」
「ええ…何度でも達してください…っ…もっと」
身体中を甘い痺れが駆け抜けてレベッカの意識はどこまでも高く持ち上げられる。
自分を捕らえる男の腕にしがみつく彼女は、彼の胸板に頬を押し付けて、狂おしく悶えた。
クロードが── " 虐めたおす " と言ったのだから、彼女に逃げる手だては無い。
その愛撫の執拗さたるや、毎夜の情事でレベッカは十分に思い知らされていた。
そういう意味では、ドイツで出会った頃の彼は…まだいくらか手加減していたというわけか。クロードが自分を " 臆病者 " と呼んだそれは、ある意味、言い得て妙(ミョウ)であったのだ。
あの日……公爵邸の屋上庭園での再会。その後の宿屋で昼も夜もなく抱き潰された日の濃密さは、レベッカにとって鮮明で忘れがたい──。
「‥ッぁ、ああああ‥‥!」
「──…レベッカ」
何度も何度も…絶頂につぐ絶頂の渦に引きずり込まれたレベッカが、ぐずぐずに泣きはらした顔で男を誘う。
背後から抱き締められている彼女が首をひねって後ろを見上げれば、一瞬の間をおいて二人の唇がふれあい──そして、舌が絡まる。
「‥ハァッ‥‥ァッ‥‥‥」
「……っ」
クロードはもどかしげに立ち上がると、彼女を抱いたままソファーに押し倒した。
熟れた淫唇を己の屹立で貫き、一番奥まで蹂躙する。
苦しそうに顔を歪めるレベッカは、一方で、被さる重みを悦び、恍惚として喘いだ。
「…ああっ‥あっ‥…あっ、あっ、あっ‥‥!」
大きく前後に揺さぶりながら、最奥で待つ快楽の源を、クロードの切っ先が穿つ。
追い詰められた彼女が腰を引こうとすれば、ずん、と重い淫撃で意識を白く弾け飛ばす。
「逃がすものか…っ」
息を荒らげてクロードが呟めいた。
陶然(トウゼン)とした熱い瞳で彼女を優しく見下ろし、乱れて乱れてどうしようもなく泣いてしまう姿を、愛おしむ。
彼の腕の中では、他国の城から奪い取った美しい宝が、愉悦と幸福の波に溺れ…いつまでも甘い媚声をあげていた──。
──
「──…」
その頃、隣の部屋ですごしていたレオ。
貴重な自由時間に彼は自分の書斎を掃除していたが、ふと手を止めて溜め息をついた。
「寝室だけではたりないか…」
屋敷中のありとあらゆる壁を、防音仕様に変えなければ。
レオが静かに決意した瞬間であった──。
略奪貴公子 ~ 公爵令嬢は 怪盗に身も心も奪われる~(完)
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