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二十一、本州のヒグマ
四
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「大和、本当に鬼神草は使わぬのか? 辰巳をあのままにしても、本当に良いのか?」
達樹と右京が対面していた時、同じように部屋では山神と大和が向き合っていた。決して責めているわけではないが、山神は大和の手をがっちりと掴んで彼を直視した。
大和も目を逸らすことなく、不安気な山神を見る。よっぽど辰巳の事が心配なのだろう。彼女の瞳は潤んでいた。
「すまねス。どうしても、許せねえんだ……辰巳さんには悪ども、胸糞悪ぐて俺は使えね」
そう言って割れ物を扱うように、大和は慎重に山神の手を握り返す。彼の優しさは彼女も嫌というほど知っていた。だからこそ、彼女は不安だったのだ。
(鬼神草は辰巳だけではない。大和、お前の命も救えるかもしれぬのじゃぞ!?)
万が一、鬼神草無しで鬼熊を倒したとしても、鬼熊と共に大和も死んでしまう。だが、鬼神草があれば大和の命が助かるかもしれない、と山神は考えていたのだ。
(お前は誰かが死ぬくらいなら、喜んで自分の命を差し出すんじゃろうな……)
「……ふん。……愚か者め……」
今の大和に掛ける、精一杯の言葉だった。
「二人の世界になっているどこ悪いども、俺のこと忘れてねが?」
手を握り合いながら二人が横を見ると、胡座をかいた佐介が冷めた目で見ていた。
「やっと俺どこ見たな。大和、お前の気持ちはわがった! へば俺さ任せどけ!」
胸をドンッと叩いた佐介は、そのままスッと立ち上がると部屋を出ていった。
「……なんじゃ? あいつは!?」
山神がキョトンと佐介が出て行った部屋の戸を見つめていると、入れ替わるように右京が部屋に入ってきた。
「右京。今まで、どさ行ってらったんだ?」
大和が山神の手を握りしめたまま右京に言ったものだから、右京は「佐介が出て行くわけだ。お邪魔だった?」と誂うように笑った。
――数分後、佐介も何食わぬ顔で戻る。彼曰く、「厠さ行ってだ」とのことだ。
部屋に四人が揃ったところで、右京は達樹から聞いた話を皆に伝えた。
「――ついにあの鬼熊が、秋田さ現れだって事だな……」
佐介は拳を強く握りしめた。手の甲には太い血管が浮き出ている。
「お前ら、急いで秋田に戻るぞ!」
もう、ここに居る理由はない。彼らは顔を見合わせて頷いた。
◇ ◇ ◇
翌日、大和たちは秋田へ帰るため松平旅館を後にした。彼らを笑顔で見送った清兵衛を見て、美弥子が不思議そうな顔をした。
「大和さん達との別れなのに、不思議ね? 清兵衛さんの表情が何だか普段より明るいわ」
美弥子に言われ、清兵衛はゆっくりと振り向いて答えた。
「そうでしょうか? だとすれば、私に共犯者が出来たからですかね……」
「……え!?」
優しさに満ちているはずの彼から物騒な言葉を聞いた美弥子は、聞き間違いかと思い聞き返したが、清兵衛は何も答えず木箱を背負うと、彼女にお辞儀をした。
「私も家に帰ります。美弥子さん、旅館だけではなく、どうかお母さんも大切にしてくださいね」
「は、はい……。清兵衛さんも、どうぞお元気で……」
彼の歩き去る姿を呆然と見ていた美弥子だったが
「お、女将さん……そろそろ客が来る頃じゃないのか?」
旅館から聞こえる丈留の小さい声に、彼女は肌身離さず持ち歩いている手鏡を見て、自信に満ち溢れる表情に切り替えた。
「そうね! お客様を迎える準備をしましょう」
美弥子の声が、閑静な松平旅館に響き渡った。
達樹と右京が対面していた時、同じように部屋では山神と大和が向き合っていた。決して責めているわけではないが、山神は大和の手をがっちりと掴んで彼を直視した。
大和も目を逸らすことなく、不安気な山神を見る。よっぽど辰巳の事が心配なのだろう。彼女の瞳は潤んでいた。
「すまねス。どうしても、許せねえんだ……辰巳さんには悪ども、胸糞悪ぐて俺は使えね」
そう言って割れ物を扱うように、大和は慎重に山神の手を握り返す。彼の優しさは彼女も嫌というほど知っていた。だからこそ、彼女は不安だったのだ。
(鬼神草は辰巳だけではない。大和、お前の命も救えるかもしれぬのじゃぞ!?)
万が一、鬼神草無しで鬼熊を倒したとしても、鬼熊と共に大和も死んでしまう。だが、鬼神草があれば大和の命が助かるかもしれない、と山神は考えていたのだ。
(お前は誰かが死ぬくらいなら、喜んで自分の命を差し出すんじゃろうな……)
「……ふん。……愚か者め……」
今の大和に掛ける、精一杯の言葉だった。
「二人の世界になっているどこ悪いども、俺のこと忘れてねが?」
手を握り合いながら二人が横を見ると、胡座をかいた佐介が冷めた目で見ていた。
「やっと俺どこ見たな。大和、お前の気持ちはわがった! へば俺さ任せどけ!」
胸をドンッと叩いた佐介は、そのままスッと立ち上がると部屋を出ていった。
「……なんじゃ? あいつは!?」
山神がキョトンと佐介が出て行った部屋の戸を見つめていると、入れ替わるように右京が部屋に入ってきた。
「右京。今まで、どさ行ってらったんだ?」
大和が山神の手を握りしめたまま右京に言ったものだから、右京は「佐介が出て行くわけだ。お邪魔だった?」と誂うように笑った。
――数分後、佐介も何食わぬ顔で戻る。彼曰く、「厠さ行ってだ」とのことだ。
部屋に四人が揃ったところで、右京は達樹から聞いた話を皆に伝えた。
「――ついにあの鬼熊が、秋田さ現れだって事だな……」
佐介は拳を強く握りしめた。手の甲には太い血管が浮き出ている。
「お前ら、急いで秋田に戻るぞ!」
もう、ここに居る理由はない。彼らは顔を見合わせて頷いた。
◇ ◇ ◇
翌日、大和たちは秋田へ帰るため松平旅館を後にした。彼らを笑顔で見送った清兵衛を見て、美弥子が不思議そうな顔をした。
「大和さん達との別れなのに、不思議ね? 清兵衛さんの表情が何だか普段より明るいわ」
美弥子に言われ、清兵衛はゆっくりと振り向いて答えた。
「そうでしょうか? だとすれば、私に共犯者が出来たからですかね……」
「……え!?」
優しさに満ちているはずの彼から物騒な言葉を聞いた美弥子は、聞き間違いかと思い聞き返したが、清兵衛は何も答えず木箱を背負うと、彼女にお辞儀をした。
「私も家に帰ります。美弥子さん、旅館だけではなく、どうかお母さんも大切にしてくださいね」
「は、はい……。清兵衛さんも、どうぞお元気で……」
彼の歩き去る姿を呆然と見ていた美弥子だったが
「お、女将さん……そろそろ客が来る頃じゃないのか?」
旅館から聞こえる丈留の小さい声に、彼女は肌身離さず持ち歩いている手鏡を見て、自信に満ち溢れる表情に切り替えた。
「そうね! お客様を迎える準備をしましょう」
美弥子の声が、閑静な松平旅館に響き渡った。
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