緋色ノ叉鬼

越子

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三、山刀の男

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「熊肉と毛皮だば今から俺一人で売りさ行くっけ。おは、その……気にするでね」

 部屋で傷の手当てをしている大和を見ながら、気遣うように佐介が言った。

「大丈夫。いつもの事だから気にしでね」

 淡白に言っているが、大和の表情は読み取れない。佐介が口を開こうとした時、

「緋色の眼を持つ者は『化け物』か『鬼』……か。さすが人間じゃ。面白いことを言うな」

 山神の膝の上で興奮している民子を宥めながら、彼女は感心に程遠い感情で言った。

「山神様。もしかして大和の眼の色の事、何が知っでらスか? 大和は、人間だズな?」

 佐介の目は不安に満ちていた。大和は人間だと信じたい、が、熊撃ちを間近で見た時の悦に満ちた彼の表情が頭から離れなかった――人間には程遠く、まるで狩りを愉しむ獣のようだった。

 大和も自分の事が気になるのか、黙って山神に目を向けた。

 彼らの真剣な眼差しに、山神は一笑した。

「くだらぬ事を聞くな。眼の色なんて大した事ではない。何を案ずる? 小僧は小僧じゃろう」

 そうか、と佐介が肩の力を抜いた時、屈託のない笑顔で山神は付け加えた。

「案ずるな、小僧は儂の獣じゃ」

「獣!?」

 佐介は思わず山神に向かって声を荒げ、大和は顔を綻ばせた。

「大和? おだば何嬉しそうなつらっこしてんだ! 人間どご否定されたんだど!?」

 佐介は、大和は人間だと肯定したくて必死だったが、彼は気にしていない様子で

「俺は鬼でも、獣でも、もう何でもいいでな」

 ――小僧は小僧じゃろう。

 幼い頃から他人に人間であることを否定され続け、眼の色を隠してきた大和だったが、山神の何気ない言葉に咲希の笑顔を思い出す。彼は朗らかに笑った。



   ◇ ◇ ◇



 その後、佐介が二頭分の熊肉と毛皮を背負い、町を歩いていると一人の男性に声をかけられた。佐介が振り向くと、歳は二十代半ば位で長髪を束ね、細目の優男が腕を組んで立っていた。彼もマタギなのだろうか。顔に似合わず、腰には長くて二尺、短くて三寸から五寸程度の大小様々な山刀を佩いており、銃は持っていなかったが、十分物騒な格好をしている。

「君、さっき子熊を連れていたマタギの一行だよね?」

「んだども……突然、何だ?」

 佐介が男を警戒していると、その優男は柔和な笑みを浮かべて答えた。

「そう警戒しないでくれよ。君にはきっと良い話だと思うよ。ちょっと俺の店に来ない?」
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