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十五、鷹匠と、飛ばない鷹
三
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「そろそろ野宿出来そうな場所探さねばな」
夕暮れ時、佐介が辺りを見ながら皆に話しかけた。
「儂はもう疲れた、腹減った……」
山神がしんどそうな声を出したので、背中の怪我はまだ治っていなかったが、彼女を背負うつもりで大和が声をかけようとした時、遠くで吠える声が聞こえた。
「ホーーウ! ホーーーーウ!!」
「ホーリャホリャァァ!!」
熊を追い込む勢子たちの声だった。
「鳥海マタギどもだな。へば、俺が言ったとおり、厄介ごとは御免だ。この場から離れるど。こさ居れば民子も危ねえ」
その時だった。
突然、尾根の方から地鳴りが聞こえた。
「お前達、逃げれ逃げれー!! まんず、走れでぇぇぇぇ!!」
尾根から沢に向けてシカリと思われる男の必死な叫び声が降ってきた。
――自分たちは今、その沢に居る。
嫌な予感がした佐介が尾根を見上げると
「――雪崩だ!!」
息を呑むような速さで白い波が押し寄せてくる。
「お前ら! 脇さ向かって走れ!!」
佐介の叫び声に皆が走る。雪崩が向かって来る方向に対して佐介と右京は左側へ、大和達は右側へ向かって走った。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
遠くで勢子たちの叫び声が聞こえたかと思うとすぐに轟音に消され、冷たい闇が彼らを飲み込んだ。
「大和!」
「っ山神様!!」
山神と大和は闇に飲み込まれる寸前、互いに手を伸ばした。大和が山神の手を掴むと、そのまま抱き込んだが、水の中にいるような圧雪で呼吸ができないまま、雪崩の勢いに身を任せ転がり落ちていった。
幸い、彼らは沢の下方にいた為、長い距離を流れ落ちることはなかった。
……雪崩の勢いは止んだが、自分が今、どんな体勢でどの方向を向いているのかわからない。山神を抱きしめているが、目を開けることも声を出すこともできず、彼女の状態を確かめる事もできなかった。
(俺は、死ねない。だけど、咲希の身体は……!!)
大和の焦りが頂点に達すると、彼は彼女を抱きかかえながら無我夢中で雪をかき始めた。雪の重さに抗いながら身体を動かす事は普通の人間には不可能であったが、彼はそれをやってのけてしまった。
――方向なんてどこでも良い! 四方八方にかき分けて空気を入れる!!
すると、僅かな隙間から淡い夕陽が差し込む。彼は光の方へと必死にかき進めた。徐々に圧雪を感じなくなり、彼の身体は軽くなる。そして、
「……っはぁっはぁっ!! ……山神様!! 山神様!?」
山神を抱えて地上に出ると、大和は彼女の頬を叩いた。だが、反応がない。焦った彼は彼女の胸に耳を押し当てる。
――……トン……トン……トン……。
(……鳴って……らな?)
僅かに聞こえる鼓動に大和が表情を緩めてホッと息を吐くと、気が緩んだのか彼の視界が突然歪み、そのまま彼は意識を失った。
夕暮れ時、佐介が辺りを見ながら皆に話しかけた。
「儂はもう疲れた、腹減った……」
山神がしんどそうな声を出したので、背中の怪我はまだ治っていなかったが、彼女を背負うつもりで大和が声をかけようとした時、遠くで吠える声が聞こえた。
「ホーーウ! ホーーーーウ!!」
「ホーリャホリャァァ!!」
熊を追い込む勢子たちの声だった。
「鳥海マタギどもだな。へば、俺が言ったとおり、厄介ごとは御免だ。この場から離れるど。こさ居れば民子も危ねえ」
その時だった。
突然、尾根の方から地鳴りが聞こえた。
「お前達、逃げれ逃げれー!! まんず、走れでぇぇぇぇ!!」
尾根から沢に向けてシカリと思われる男の必死な叫び声が降ってきた。
――自分たちは今、その沢に居る。
嫌な予感がした佐介が尾根を見上げると
「――雪崩だ!!」
息を呑むような速さで白い波が押し寄せてくる。
「お前ら! 脇さ向かって走れ!!」
佐介の叫び声に皆が走る。雪崩が向かって来る方向に対して佐介と右京は左側へ、大和達は右側へ向かって走った。
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
遠くで勢子たちの叫び声が聞こえたかと思うとすぐに轟音に消され、冷たい闇が彼らを飲み込んだ。
「大和!」
「っ山神様!!」
山神と大和は闇に飲み込まれる寸前、互いに手を伸ばした。大和が山神の手を掴むと、そのまま抱き込んだが、水の中にいるような圧雪で呼吸ができないまま、雪崩の勢いに身を任せ転がり落ちていった。
幸い、彼らは沢の下方にいた為、長い距離を流れ落ちることはなかった。
……雪崩の勢いは止んだが、自分が今、どんな体勢でどの方向を向いているのかわからない。山神を抱きしめているが、目を開けることも声を出すこともできず、彼女の状態を確かめる事もできなかった。
(俺は、死ねない。だけど、咲希の身体は……!!)
大和の焦りが頂点に達すると、彼は彼女を抱きかかえながら無我夢中で雪をかき始めた。雪の重さに抗いながら身体を動かす事は普通の人間には不可能であったが、彼はそれをやってのけてしまった。
――方向なんてどこでも良い! 四方八方にかき分けて空気を入れる!!
すると、僅かな隙間から淡い夕陽が差し込む。彼は光の方へと必死にかき進めた。徐々に圧雪を感じなくなり、彼の身体は軽くなる。そして、
「……っはぁっはぁっ!! ……山神様!! 山神様!?」
山神を抱えて地上に出ると、大和は彼女の頬を叩いた。だが、反応がない。焦った彼は彼女の胸に耳を押し当てる。
――……トン……トン……トン……。
(……鳴って……らな?)
僅かに聞こえる鼓動に大和が表情を緩めてホッと息を吐くと、気が緩んだのか彼の視界が突然歪み、そのまま彼は意識を失った。
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