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十五、鷹匠と、飛ばない鷹
六
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その頃、山小屋では弥彦が狩りの準備をしていた。
「ふん。俺は山神様だから飛吹どこ頼んだんだ。あんな小僧さ飛吹どこ飛ばすなんて到底できねえな」
それどころか、飛吹は実の息子である弥彦にすら懐くことはなかった。
◇ ◇ ◇
あの日は大雨が数日間続き、久しぶりに晴れた日だった。数日間も飛ぶことが出来なかった飛吹は鬱憤が溜まっていたようで鳥小屋を荒らすように飛び回っていた。
彼女は誰よりも飛ぶことが好きな鷹だった。狩りも得意だったが、飛ぶことを楽しむ為に狩りをしているようだった。
それを知っていて見兼ねた弥彦の父親は、飛吹を大空へ飛ばせてあげようと思い、山へ入った。勿論、彼は山を熟知している。地盤が緩くなっていることは承知の上だった。
だが、夕方に帰ってきたのは飛吹、ただ一羽だけだった。
そして翌日、弥彦の父親は土砂崩れが起きたという山中で遺体で見つかった。
その日以来、自分を責めるように飛吹は飛ぶことをやめた。弥彦は心配して飛吹を何度も外に連れ出したが、彼の腕から離れることは一度もなかった。
◇ ◇ ◇
「――狩りの時間だ。紫吹、伊吹、行くど!」
弥彦は両腕に篭手を嵌めて呼ぶと、この日の為に数日間絶食していた二羽のクマタカは、鋭い嘴を動かし、翼を力強くはためかせて彼に応えた。
◇ ◇ ◇
「さて、これからどうします? 試しに飛吹を外に出してみますか?」
鳥小屋では作戦会議が行われていた。
「外さ出してえども、俺の腕さ乗ってくれるべか」
この一週間、大和は飛吹に近づこうと試みたが、彼女に嘴で威嚇されていた。なので餌は弥彦が鳥小屋に入って与えていた。
このままでは一向に事が進まない。そう思った山神は躊躇いを見せたが、彼女の本心を大和に話し出した。
「だが、このままではずっとこのままじゃぞ。……儂は、本当に大和なら出来ると思っている。お前らは同じ傷を持っているのではないか? お前と飛吹は分かり合えるのではないか?」
「俺と、同じ傷?」
大和は飛吹の姿を見る。一番大切な人を失い、飛ぶことをやめた彼女の姿を見る。
「あ……」
――咲希を失った時の、俺だ。生きることをやめようとした、俺だ。
もう一度、大和は飛吹の姿を見る。ゆっくりと彼女に近づき、手を伸ばした。
「飛吹、お前……」
飛吹は嘴で大和の手を噛みちぎった。弱っているとはいえ、肉を噛みちぎる力は残っていた。
「あ!! 大和さ……」
「黙れ」
清兵衛が慌て立ち上がろうとしたが、山神に制された。と、その時だった。
「お前、このまま飛ばずに逝くんだか? それで親父さんは喜ぶんだか?」
大和は嘴と爪の攻撃を受けながら、飛吹を優しく抱きしめた。
暫く彼女の抵抗が続いたが、上半身血まみれになりながらも彼は抱きしめ続けた。次第に動きが弱くなると、観念したように彼女は彼の胸の中に頭を埋めた。
――どれくらいの時が過ぎただろうか、否、どのくらいの時が止まっていたであろうか。
飛吹は大和の胸の中で「ピィィ……」と泣いた。
「お前、めんけえ声で鳴くねが」
大和は力が抜けたように笑った。
その日から大和と飛吹の距離が少しだけ縮まったようだ。数週間が経ち、少しだが彼女の食欲が増え、彼女は彼に身体を委ねるようになった。
だが、外に出しても大和の腕からは絶対に離れず、飛ぶことはなかった。
「ふん。俺は山神様だから飛吹どこ頼んだんだ。あんな小僧さ飛吹どこ飛ばすなんて到底できねえな」
それどころか、飛吹は実の息子である弥彦にすら懐くことはなかった。
◇ ◇ ◇
あの日は大雨が数日間続き、久しぶりに晴れた日だった。数日間も飛ぶことが出来なかった飛吹は鬱憤が溜まっていたようで鳥小屋を荒らすように飛び回っていた。
彼女は誰よりも飛ぶことが好きな鷹だった。狩りも得意だったが、飛ぶことを楽しむ為に狩りをしているようだった。
それを知っていて見兼ねた弥彦の父親は、飛吹を大空へ飛ばせてあげようと思い、山へ入った。勿論、彼は山を熟知している。地盤が緩くなっていることは承知の上だった。
だが、夕方に帰ってきたのは飛吹、ただ一羽だけだった。
そして翌日、弥彦の父親は土砂崩れが起きたという山中で遺体で見つかった。
その日以来、自分を責めるように飛吹は飛ぶことをやめた。弥彦は心配して飛吹を何度も外に連れ出したが、彼の腕から離れることは一度もなかった。
◇ ◇ ◇
「――狩りの時間だ。紫吹、伊吹、行くど!」
弥彦は両腕に篭手を嵌めて呼ぶと、この日の為に数日間絶食していた二羽のクマタカは、鋭い嘴を動かし、翼を力強くはためかせて彼に応えた。
◇ ◇ ◇
「さて、これからどうします? 試しに飛吹を外に出してみますか?」
鳥小屋では作戦会議が行われていた。
「外さ出してえども、俺の腕さ乗ってくれるべか」
この一週間、大和は飛吹に近づこうと試みたが、彼女に嘴で威嚇されていた。なので餌は弥彦が鳥小屋に入って与えていた。
このままでは一向に事が進まない。そう思った山神は躊躇いを見せたが、彼女の本心を大和に話し出した。
「だが、このままではずっとこのままじゃぞ。……儂は、本当に大和なら出来ると思っている。お前らは同じ傷を持っているのではないか? お前と飛吹は分かり合えるのではないか?」
「俺と、同じ傷?」
大和は飛吹の姿を見る。一番大切な人を失い、飛ぶことをやめた彼女の姿を見る。
「あ……」
――咲希を失った時の、俺だ。生きることをやめようとした、俺だ。
もう一度、大和は飛吹の姿を見る。ゆっくりと彼女に近づき、手を伸ばした。
「飛吹、お前……」
飛吹は嘴で大和の手を噛みちぎった。弱っているとはいえ、肉を噛みちぎる力は残っていた。
「あ!! 大和さ……」
「黙れ」
清兵衛が慌て立ち上がろうとしたが、山神に制された。と、その時だった。
「お前、このまま飛ばずに逝くんだか? それで親父さんは喜ぶんだか?」
大和は嘴と爪の攻撃を受けながら、飛吹を優しく抱きしめた。
暫く彼女の抵抗が続いたが、上半身血まみれになりながらも彼は抱きしめ続けた。次第に動きが弱くなると、観念したように彼女は彼の胸の中に頭を埋めた。
――どれくらいの時が過ぎただろうか、否、どのくらいの時が止まっていたであろうか。
飛吹は大和の胸の中で「ピィィ……」と泣いた。
「お前、めんけえ声で鳴くねが」
大和は力が抜けたように笑った。
その日から大和と飛吹の距離が少しだけ縮まったようだ。数週間が経ち、少しだが彼女の食欲が増え、彼女は彼に身体を委ねるようになった。
だが、外に出しても大和の腕からは絶対に離れず、飛ぶことはなかった。
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