緋色ノ叉鬼

越子

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「――よく、赤の他人にそこまで強く思えるね……馬鹿なの?」

 達樹から昔話を聞いた右京が、目を丸めて信じ難いといった声を出した。

「笑いたきゃ、笑え。だが、他人であろうと俺にとっては同じ命だと思っている。守れた命だと思っている」

 達樹が右京を見やると、右京は真顔だった。

と同じような人達を知っているよ。俺の周りは馬鹿ばっかりだ」

 そして、俺もね――。そう言うと、右京は自嘲した。

「貴方みたいに誰でもってわけではないけど、俺の目の前で人が死ぬのは二度と御免だね」

 右京の言葉が意外だったのか、達樹は彼を凝視していた。

「お前も苦い経験をしたんだな……」

 苦笑して達樹に応えた右京だったが、突然顔つきを変えると達樹の背後を指差した。

「ねえ、あれって――」

 達樹は即座に振り返って右京の指し示す方へ目を向けると言葉を失った。彼らの遠くの方に二人の人影と、更に遠くには獣が見えた。

 その獣は遠くからでもわかるくらい、全身が白い獣だった。

「助けねばっ!!」

 その白い獣が人間を襲うと思った達樹は走り出した。

「え!? ちょっと待ってよ!? もう少し様子を――」

 冷静とは程遠い達樹の行動に、呆れながら右京も彼の後を追おうとしたが、

「右京!? なしておがこさいらんだ!?」

 聞き覚えのある声と訛りにハッとして右京が振り向いた。

「大和!? おかっぱ様に皆も……え!? 何でここにいるの!?」

「そんなことよりも、たっちゃんが危ない!!」

 白い熊のもとへ走って行く達樹の後を、血相を変えた清兵衛が追いかけて行った。

「佐介! 俺らも助けに行くど!!」

「大和!? 何として助けらんだ!? 俺ら撃てねえべし!!」

 大和も清兵衛に次いで駆け出し、佐介は戸惑いながら大和の後を追う。

「ちょっ!? 何!? 撃てないって一体どういうこと!?」

 わけがわからず、右京は呆然と立ち尽くしていると、背後から声が聞こえた。

「あの白い熊は、神の熊じゃ。マタギのお前らには殺すことが出来んのじゃろ?」

 右京が背後を振り返ると、民子と飛吹を連れた山神が立っていた。

「神の、熊だって?」

 右京は皆が走り出した先にいる白い獣へ目を凝らした。

「あれが……白い熊……」

「右京、儂らも行くぞ。大和のことじゃ、嫌な予感しかせんわ」

 嫌な予感……。言葉の意味を察した右京は「本当、馬鹿ばっかりだね」と吐き捨て、彼女と共に走り出した。
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