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年の間に挟まれた思い
しおりを挟む「そろそろ年が明けるね」
ふと思い出したように二見くんが言った。
私たちはこたつの中にいた。こたつの上には定番のみかんを置き、だらだらとテレビを眺めていた。テレビには定番の番組が流れていて今が流行りの歌手やバンド、昔ながらの演歌歌手などが代わる代わる歌を披露している。
「そうだね。もう今年が終わるね。」
素っ気なく返しながらも、彼にみかんを剥いてあげている時点で私は彼に負けている気がする。
「来年は何をするの?」
来年。まるで来年から何かが始まるような言い方だ。
「来年になったからって何かが変わるわけじゃないよ。また、年が巡ってきただけ。」
そう、また年が巡ってきただけだ。来年になっても変わるわけじゃない。今年のように学校に通い、今年のように友達と遊ぶだけだ。
「来年も変わらないなんて、おかしなことを言うね。変わるよ、きっと。変えようと思えば変えられる。」
私が剥いたみかんを渡せば彼は口に放り込みながら言った。変わる、と。
「来年はどこに行こうか。まだ九州は行ってないね。今度は九州へいきたいな。」
今年、彼とは沢山の場所に遊びに行った。北海道にクリオネ探しへ出掛けたり、京都で新撰組のコスプレをしてまわったり、沢山の場所へ行った。彼はとても世間知らずだったから、説明するのにはとても苦労したのは覚えている。
「九州には何があるか調べないとね。美味しいものが沢山あるといいな。まだまだ食べたりないよ。」
二見は腹をさすってみせるが、彼の胃袋はとんでもなく大きい。大食いで有名な後輩と食事に出掛けた時には後輩を泣かせたぐらいだ。
彼は先程から来年の話ばかりする。来年には彼はいないのに。
「泣きそうな顔、しないでよ。」
気づけば先程まで笑顔が消えて彼は泣き出しそうな顔をしていた。
「しょうがないじゃない。......今年が終われば貴方は消える。それを知っていて私が笑顔で来年を迎えられるわけないじゃない。」
涙が溢れだし始めたのはどっちだったかは分からない。気付けば二人で涙を流していた。
「笑顔でいなくてもいい。ただ、......僕は君に僕がいたことを覚えてくれるなら。」
この世界にはルールがある。来年を迎える時、誰かが一人消されるのだ。しかも存在ごとだ。
その一人は居なかったことにされる。
嫌なことにその一人は犠牲にされることを告知される。そして、今年は彼。二見くんだったのだ。
告知された二見くんは私に教えてくれた。そして、最後は私と一緒に過ごしたいと言ってくれたのだ。だから、私と二見くんはここにいる。
そろそろ来年が近い。
「それじゃあ、また来年。よいお年を。」
だから、来年も今年と変わらないでほしかったのだ。もう会えない二見くん。
彼が最後に残したのは別れの言葉とみかんの皮だった。
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