お金がないっ!

有馬 迅

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第7章 ファイアースライムブロッカシア

結界越しの邂逅 -8-

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 救世種オズワルドと呼ばれる種族が存在していること自体は、彼女から聞いたことがあった為に知ってはいた。

『ねぇ、知ってる? この世界に時々繋がる “悠久の地” って呼ばれている神々の庭にね? 救世種オズワルドっていう単独種族が存在してると言われてるのよ。ある時には勇者になって、またある時には魔王にすらなることがある神々の裁定者。この世界の存続には欠かすことの出来ない唯一の種族なんですって』

 昔語りや御伽噺を語るような口調で、そう教えてくれた彼女の言葉に「何だそれは。意味が分からん」と思ってしまった所為で、大きく揺れてしまった触角に手を伸ばした彼女がクスクスと笑う。

『ふっ……この世界の存続に必要なのに勇者になって人族や魔族に殺されたり、っ、魔王になって人族や獣人族に殺される存在にっ、ふふっ……わざわざなるのか? 理解できんな』

 どうせバレているなら隠す意味もあるまいと言葉を紡いだのだが、彼女の手が引き寄せた自分の触覚を指先でスルスル撫で擦っているのが微妙に擽ったくて、抱いていた意識とは無関係に声色が笑いに塗れた。

『勇者や魔王になっちゃうと救世種オズワルドじゃなくなっちゃうんだっていう記録が残ってるけど、私も実際には会ったことないからよく分かんないわ。虫人族と敵対したっていう記録は残ってないんだけど……もし会えたら、私達の味方になってくれるといいわね』

 寝物語よろしくそう言った彼女の言葉が脳裏へと甦ってしまった1番の理由は、自分が連邦長として下した一斉蜂起の方針に転換を言い渡したその原因を。

 誰にも漏らした覚えのないそれを、鍬形人の雄を通して言い当てられたからだ。

『無理矢理拉致され、人族の王城に監禁されている連邦長の恋人は、まだ存命だと聞いている。もし連邦長が彼女が裏切ったとか、弔い合戦をしようと考えて方針転換したのなら今の方針は改めるべきだ』

 彼女が生きている。

 しかも黙って自分の傍から消えてしまったのは、彼女自身の意思ではなく、無理矢理拉致され、監禁されたからなのだと言う。

(誰が? 何の為に?)

 そんな危険を孕んでいる立場に置かれているなんて、彼女は一言も教えてくれなかった。

 既に滅ぼしてしまった人族や獣人族の国に彼女らしき人物も死体もなかったことは確認済みだ。

(人が真面に暮らせそうな場所で残っているのは、ごく小さな集落を除けば、サンフリード公国とザナンザクト帝国、そして鍬形人が救世種オズワルドの力を借りて守っているという村…… “悠久の地” 。その4ヶ所だけだ。もし、彼女が本当に拉致されたなら1番怪しいのはザナンザクトだ。だが、そう思わせようとしているだけで、実は救世種オズワルドが全ての黒幕なのだとしたら? ダメだ。もう誰も信じられない‼︎)

 疑心暗鬼に陥っている自覚はあった。

 きっとこんなことを彼女は望んでいない。

 言われなくてもそんなことは分かっていたけれど、こんなことを始めた自分を止めに来てくれない以上、本当はもうキャロリーヌは死んでいるんじゃないだろうか?

 自分の傍から居なくなったあの時に、実は殺されてしまったのかもしれない。

 そう考えただけで、もう全てがどうでも良くなった。

 苗床なんかなくても種の存続は可能なのだから、彼女以外の人族なんか皆、殺してしまえばいい。

 そうすれば、命乞い紛れで彼女の消息を口走る輩が居るかもしれない。

 そんな思いから始めた方針転換だったけれど、彼女が……キャロリーヌが生きていて、自分を裏切った訳でもなく、無理矢理拉致され監禁状態にあるのだとしたならば。

 彼女の意に沿わない状況に置かれていると言うのならば。

「助けなくては! 例え何処に連れて行かれたのだとしても!」

 この先にある村にそれを知る鍬形人と、その背後に居るらしい救世種オズワルドという存在。

 今はただ、彼女の安否を知りたい。

 本当に無事で、生きているのか?

 実は死んでいるのじゃないだろうか?

 それだけでもいいから確かめたい。

 早る心を押し殺してゴキ=ラ=キングは駱駝鳥を駆り、ひたすらにナジェット村を目指していた。


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