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第4章 集まれ仲間達

待ってられるか

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「というわけで、エンディミオンでんかがプレ・デビュタントをむかえるまえに、まおうせんメンバーあつめるわよ!」

 ランドリウス公爵家のサロンで、御父様、御母様を交えてお茶をしていたわたくし達の元へ合流したお姉様が、やって来て早々拳を握り、説明ゼロでそう宣った。

「………」

 御父様は、幾度も目を瞬かせながら完全に沈黙し、御母様の浮かべる笑顔は、闇か氷の属性を纏い始めているようだった。

 午後の淑女教育、長引きそうですわね。

「フラン」
「はい。なんでしょうか、おかあさま」
「アリィの言った “と言う訳で” の前の部分を説明してくれないかしら?」

 無茶振りキタコレ。

 待ってくださいまし、御母様。

 愛巫女の称号は、他人様の考えていることを何でもかんでも分かるようになる能力を与えてくれるものではございませんわよ?

「アリューシャおねぇさま。さすがにノーヒントは、なんいどがたかすぎますわ。なにが、というわけでなのか、センテンスをくださいまし」
「そんなのかんたんよ。つぶれるのがわかっててまってられるか。りゆうは、それひとことでおわるわね」

 そういうことか。

 なるほど、わかった。

 アリューシャお姉様は、魔王戦メンバーであり、将来の側近である彼等に降りかかる火の粉を、そうと分かっていながら放っておく気がない、と言っているのだ。

「……たしかに、この2ねんかんにおこるよていの、かこウツイベントをさきまわりでつぶしていけば、じどうてきに、まおうせんのなかまはあつまりますし、いらないおもくるしいかこを、せおわせるかのうせいをなくすなり、せおっているきかんを、さいしょうげんにおさえることは、できましょう。ですが……」
「そのせいで、まおうせんにいどむつよいどうきがきえることなら、じぜんさくをかんがえてあるわ。だからまず、サーシャエールさまがおしえてくれたふたり。エルドレッドとルナルリアおうじょをこっちがわにひきこみたいの」

 要するに、とっとと外部協力者が欲しい、とそういう話なのだろう。

「じゅんばんは、エルドレッド、リリエンヌ、じきてきにつぎは、もんどうむようでアルフレッド、それからクウェンティけに、おうけからはたらきかけてもらって、ルナルリアおうじょを。マックスはさいごになるかしらね?」
「いえ、それならば、エルドレッドさまのつぎにマックスさまがよろしいかと。リリエンヌさまのもんだいは、いちにちふつかでどうにかなるようなものではございませんし、ルナルリアおうじょも、いくらどうめいこくとはいえ、よばれてすぐにはこられません」
「そんなの、マックスがけっこんしてあげるからおいでーっていったら、びょうでくるでしょ? ルナルリアおうじょ、マックスがさいおしのこだっていってたし?」

 アリューシャお姉様の仰ることは、一般的には暴論の類いですが、オタクとしては当然の反応であるとも言えます。

 最推しに「結婚してあげるからおいでー」って言われて「あげる、とか上から目線何様⁈」なんて思うより先に「マジでーッ⁈」って叫んで目をハートにし、フラフラ……いえ、マッハダッシュで寄っていく生き物。

 それが真のオタクというものだ。

「……きもちは、びょうできたいことでしょうね。ですが、プレ・デビュタントまえのおうじょでんかをくにがわが、ださないでしょう」
「アリィ。何の話しか半分くらいよく分からないが、判断としてはフランが正しい。少し、座って落ち着きなさい」

 御父様が、柔らかく低い声で穏やかな口調を使ってお姉様を諭すと、やっとテンションが落ちたのか……御母様の様子に、ここでやっと気がついたのか、お姉様は項垂れて大人しく席に腰を下ろした。

「アリィもフランも ”さいおし” という令息の話になると、途端に落ち着きがなくなってしまうから、殿下の他にも、そこをフォローしてくれる人間が近くにいた方がいい。最初に声をかけるのは、クウェンティ侯爵令息がよいのではないかね? 彼は将来、殿下の御代に於ける宰相の最有力候補であり、賢者の称号を得る予定なのだろう? お前達がしようとしていることを話せば、良い案を立ててくれるのではないかな?」

 説得力のある御父様のお言葉に、わたくしは即座に頷き、お姉様の方を窺う。

 しばらく黙して考えていたお姉様は。

「だんしがわに、わたしたちがいわなくても、ぜんぶわかってて、うごいてくれるきょうりょくしゃがほしいの。だからさいしょはエルドレッド。これはゆずれないわ。でも、おとうさまとフランのいうこともわかるから、ふたりめは、マックスにしましょう」

 お姉様の出した答えに、御父様とわたくしは安堵して、ホッと息をつき。

 御母様が立ち上がる。

「結論が出た所で、今日のアリューシャの淑女教育は、時間を早めてこれからすぐに始めましょう」
「え」
「殿下に加えて、貴族の令息達と過ごすのならば、公爵家の娘として、恥ずかしくない礼儀作法を身につけなければね?」
「…………はい」
「よろしい。フラン、貴女はいつもの時間でいいわ。御父様のお相手をよろしくね?」
「はい、おかあさま。あの……おてやわらかに……?」

 わたくしが、ややビクビクしながらお願いすると御母様は、社交界の白百合と呼ばれた美しい微笑みに、何故か絶対零度の凍気を交えて、お姉様を引き摺るようにしてサロンを後にした。

 アディオス、アリューシャお姉様。

 骨は拾って差し上げますわ。


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