凡人高校生

ゆるだら公

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凡人高校生

24話

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__休み明け

「大ちゃんふっかーーつッッ!!!」

「HP全回復だー」

「よかったね、大」

土日にしっかりと休息をとった大は、月曜日には完全復活していた。休みの間に満が様子を見に来たり、蓮見がお粥を作ってくれたことも、早く治った要素の1つなのだろう。

「それにしても急だったね。夏風邪とか?」

「!?…えっとぉー…まぁそんなところ」

夏風邪の可能性もあるけれど、1番に思い浮かんだのは、夜遅くまでのゲーム。そして運動不足だった。
そんな不健康な生活のことを言える訳もなく、大は嘘をついて凌いだ。少しの罪悪感が彼に残った。

「大変だったね…。治って嬉しいよ」

「俺も俺も!大ちゃんが居ない間暇で仕方なかったぜ…」

「そ、そんなに?」

「うん!そんなに」

どうやら自分が思っていた以上に、自分は人に必要とされていると知った。大は嬉しくなって小さく笑った。

「よーし!今日の授業は思いっきり寝るぞー!」

「寝ちゃダメだろ」

「はははっ、ノート写させてもらう気だね」

ギクッと、自分の本心を見抜いてきた蓮見に、満は目を丸くした。それを見て大は、やっぱりいつも通りだとウンザリしていた。しかし、何処か安心しているような感じもした。

3人は今日も元気だ。



「……ならないの?」

「?何に」

「風邪に」

「だからならねぇって!」



_____✻✻_____



__昼休み

いつもの場所で、2人は昼食をとっていた。しかし、夏の暑さで普通は耐えきれないほど熱が上がっているのだが、ここは風通しもよく、窓もついているため、夏でも最適な場所となっていた。だが冬はダメらしい。

2人は揃ってパンを食べていると、ふと満が呟いた。

「…彼女を作ってみたい」

「………は?」

満の唐突すぎる発言に、大は開けようとしていた2つ目のパンを落とした。

「いやっ!やっぱダメだ。大ちゃんとの時間が大切……!」

「…訊くけどさ、なんでそう思ったの…?」

普段の満なら考えられないことを今は言っているので、大は少し焦った。

「最近俺の知り合いが彼女できたらしくてな。彼女はいいぞ~とか色々言ってくるから気になって…」

(……言った奴後で地獄行きにしよ)

そんな物騒なことを無言で考えている大を見て、満は彼が怒っているように思え慌てて喋りだした。

「でもダメだよな。前に大ちゃんに彼女いなくて安心してたのに、…俺、めっちゃ酷い奴だ」

(マジで言った奴覚えとけよ!!)

満に下を向かせて反省させた張本人のことを大は怒り憎んだ。
しかし満の前でそんなこと言えるはずもないので、ここは満の思いを尊重することにした。

「満が気にすることじゃないよ。…それに、彼女を作るってことも悪いことじゃないし。寧ろいろんな視点から考えたり周りが見えるようになって、いい勉強になると思う」

「…!確かに…。女心とか考えたことなかったしな」

「学び始めたとしても、満には到底理解できそうにないけど笑」

「なんだと大ちゃん」

ムスッとした顔になった満を見て、大はさらに薄らと笑みを浮かべた。
満は恋愛というのには全くの無縁だったため、ほとんど男子しか友達はいなかった。いても数人くらいだ。
その状態で急に彼女を作ろうとすると、女子の気持ちが理解できず即振られるというのがオチだろう。

「…はぁ、でも気になってしょうがないぜ。女子とは普通に話せるし、少し意識して喋りかけて…。それで彼女が簡単にできるとは思えない…。蓮見じゃないんだから」

「……あ、いいこと思いついた」

大は満のための女心のいい勉強法が閃いたようだ。しかも今日からできることを。

「満、放課後空いてる?」

「?まぁ今日は部活もないしな。空いてるぞ」

「じゃ、その時行こっか」

「?」

満はどこに行くのかと疑問に思ったが、大が勧めてくれることなのだから間違いないと信じて疑わなかった。



_____✻✻_____



__放課後

「なぁ、どこまで行くんだよ」

「もうちょっとだって」

学校からも家からも離れた場所へと進んでいくので、満は少々不安になりながらも、大の後ろを着いていった。

そしてようやく大は足を止めて、ある1つの店を指さした。

「ここ」

「…喫茶店?」

店の看板には『おうち喫茶』と可愛い文字で書いてあり、どこかほっとするような安心感を抱かせる。
大は木製のドアを開けて中へと入ったので、満もそれにつづいた。

カランッと入店時に鈴の音がなると、従業員がこちらを振り向いて出迎えた。

「いらっしゃいま……あぁ!大くんじゃない!元気~?」

しばさん。お疲れ様です」

「おつ~♡」

「!?」

大は従業員の人と和やかに話をしていて戸惑う満。しかもその柴という人は、女子でも2度見するくらい、驚く程の美人だった。

「あれ?その子は誰?」

動揺して固まっている満を見つけ、柴は満に近づいた。

「あぁ、この子が友達の満でして」

「満くん!?この子が!?」

「え、……あの…っ」

何故か驚いている柴は、次には笑顔になって満の手を取って握っていた。
その行為に、満はビクリと体が動いた。

「どうも満くん~!大くんがお世話になってるわ~!私柴っていうの。よろしくねっ♡」

「えっ…!は、はい…よろしく、お願いします……?」

「やだこの子困惑してて可愛い~!」

状況がつかめず、いつものような陽キャポジティブが出せていない満。
その光景を見てはぁとため息をついた大は、柴を満から離れさせた。

「柴さん。グイグイいきすぎ」

「あら、ごめんなさいね、ついうっかり♡
早速席に案内するわね」

連れてこられて、2人は小さなボックス席に座った。
この店の内装は、全体的に和風で畳スペースもある。店の名前の通り実家のような安心感を感じさせる。
この店は小さめで、ひっそりと経営しているらしい。しかし収入はいいようだ。

「ささ、何にするか決めてちょうだい!どれも絶品よ♡」

「満。どれにする?」

ずっと黙っている満の肩を叩いてメニュー表を突き出す。満はまだ混乱していて迷う暇もなかったので、1番初めに目に入ったものを頼むことにした。

「…えと、か、カフェオレで。…甘いのがいい」

「じゃあ俺もそれで」

「了解よ!ゆっくりとお待ちください♡」

小さく手を振って、柴へカウンターへと戻っていった。その1つずつの動作が、どこか可愛い雰囲気を醸し出していた。
2人きりになってようやく落ち着いた満は、やっと口を開けて話し始めた。

「……なぁ大ちゃん」

「…何?」

「お前…あんな可愛い友達居たのかよ!?」

「…はぁ?」

迷惑にならない程度の声を上げた満は、今まで黙っていた全ての思いを吐き出すために色々喋りだした。

「俺、大ちゃんに女友達なんて居ないと思ってた。マジでごめん…。しかもめっちゃ可愛いし、ズルいよ大ちゃんだけ」

「……えっと、とりあえずここ、俺のバイト先」

「え!ここが!?…すげぇいいとこじゃん、羨ましい…」

次は大が混乱しそうになったが、その時丁度カフェオレができたらしく、柴が持ってきた。

「はいお待たせ♡というか満くん、やっぱよく喋るんじゃない!聞いてた子と違ったから初めびっくりしちゃったわよ」

「…聞いてた話?」

「そうそう、バイトの時いつも大くんがあなたの話ばかりしててね、私も気になってたのよ~!」

「ちょッッ、柴先輩!?」

多分言わないという約束だったらしいが、柴は普通に本人に言ってしまっていた。
満は少し恥ずかしそうに頬を染めていた。友達が自分のことを話題にしてくれていて嬉しかったのだろう。

「さて、じゃあ私もお邪魔するわね♡」

「えっ…!」

ニコニコしながら柴は満の隣に座った。よく見てみると、指定の服だったのが今では私服になっている。私服も可愛らしく、今流行りのものなどを取り入れてオシャレしていた。

大は少しムスッとしたが、何故か安心した様子を見せカフェオレを飲んだ。

(…この人なら大丈夫か)

「私服ってことは、一旦仕事終わりですか?」

「ええそうよ。次は夜の19時半からだけどね」

そう言って柴はウィンクを返した。
夕方と夜にもバイトをしているらしく、ウィンクで片付けられる柴を満は尊敬した。

「よかった…。じゃあ少し手伝ってくれませんか?」

「?何を?」

「実は満が彼女を作ってみたいらしくて、でも急には無理だから、柴先輩に彼女役をお願いしたく…」

「…ッッはぁ!!?」

唐突に言うものだから流石の満もまた驚いてしまう。しかも初対面の美人さんが彼女役だと思うとさらに冷や汗が流れてくる。

(…でも、そんなことにこの人がokする訳…)

「何それ可愛いーッッ!!お易い御用よ!♡」

「…えー、……」

何と柴は快く了承してくれた。優しいにも程があるって教えてあげたいくらいだ。

「2時間程度でいいので、満をお願いしてもいいですか?」

「もっちろんよー!!任せて!さっ、行くわよ満くん!!」

「え、えぇーーッ!!?」

柴は満の腕を掴んで勢いよく店から飛び出していった。満は、これから即開始と悟ってカフェオレを一気飲みした。

「金は俺が出しとくから楽しんでこいよー」

「な、難易度高すぎぃ~~っ…!!」

店の外へと消えていった2人を見送ったあと、大は残っていたカフェオレを全て飲み干し会計を済ませた。

「……よし、尾行するか」

何とも清々しい顔で、どこから出したかわからないサングラスをかけ、満も外へと足を踏み出した。
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