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第17話 託児室デビュー!王女のおやつ作戦
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「さぁ、これでいいわね!」
鏡の前でくるりと一回転。簡素なワンピースに白いエプロン、髪を高い位置で結んだララは気合い十分。
扉の外で待っていたランゼルに、にこっと笑って言った。
「ちょっと厨房に寄っていくわよ!」
軽やかな足取りで歩き出すララに、ランゼルも静かに歩をそろえる。
――普段のドレス姿も美しいが、このような装いもまた、王女らしいな。
歩くたび揺れるシルバーブロンドを目で追いながら、ランゼルは思った。
*
「おはよう、今日もお疲れさま!」
厨房に入るなり、明るく声をかけるララ。その瞬間、入り口近くにいた見習いコックのロイが、目をまんまるに見開いた。
「お、おはようございますっ……って、えっ⁉︎ 王女さま⁉︎」
周囲のスタッフたちも慌てて頭を下げるが、顔には明らかな困惑の色。
「朝の片付けで忙しいときにごめんなさいね」
ララは気にする様子もなく、厨房全体を見渡す。
――うん、無駄な照明はついてないし、かまどの火も落ちてる。合格。
満足そうに微笑むララに、料理長が声をかけてきた。
「王女さま、おはようございます。本日はどのようなご用件で?」
「おはよう。厨房がしっかり節約できていて安心したわ。皆さんの協力に感謝しているの」
にこやかにそう返したララは、続けて言った。
「実はお願いがあって来たの。小ぶりで、柔らかいパンってあるかしら?」
「パンですか……?」
「ええ、このくらいの大きさの」
両手で輪を作って見せるララ。
「今朝焼いた分で、少し小ぶりなものがありますが……」と料理長が首をかしげる。
「それを10個ほど、いただいてもいいかしら?」
「はい、ご準備いたしますので、少々お待ちください」
そう答えた料理長のそばに、皮むき担当の少年・トトがバスケットを持ってやってきた。
「料理長、これに入れたらどうです?」
「ありがとう、助かるわ」とララが笑うと、料理長はパン担当に声をかけて準備を進めた。
ふと、料理長が尋ねる。
「ところで王女さま。今日は……いつもと装いが違うようで」
「そうなの、今日は託児室の担当なの!」
ぱっと笑顔を咲かせるララに、料理長は「……?」と完全にフリーズした。
「託児室……担当? あの、使用人の子どもたちが集まっている……あの託児室ですか?」
「そうよ。今日の担当者が体調不良らしくてね。ちょうど運用の様子も気になっていたところだったから、いい機会だと思って」
――うちの王女様は本当にすごい……。
使用人の子どもの世話なんて、本来なら王族がすることじゃないのに。
まぶしそうに目を細める料理長。
「そうそう。午後のティータイムは取らないから、私の分の焼き菓子は準備しなくて大丈夫よ。その代わり、バナナやリンゴなどの果物を小さくカットして、託児室に届けてくれる?」
「……かしこまりました。ですが……王女様、ひとつお尋ねしても?」
「何かしら?」
「……昼前のパンと、午後の果物……いったい何にお使いになるので?」
問いに、ララはきょとんとした顔で、当然のように答える。
「子どもたちのおやつよ!」
「おやつ……ですか?」
「そう。一度にたくさん食べられないから、数回に分けて栄養を取る必要があるのよ。小さな子って、そういうものでしょ?」
「……はあ……そうなのですか……」
――あれ? もしかして、こっちの世界ではそれが常識じゃないの?
私たちは当たり前のように午前と午後に“お茶の時間”があったけど……
あれって、もしかして貴族や王族だけ?
使用人の子どもたちの栄養管理、どうなってるんだろう。あとで確認しなくちゃ。
やがてパンが詰められたバスケットを受け取り、ララはぱっと笑って言った。
「ありがとう。それじゃ、行ってくるわね!」
軽く手を振って出ていくララ。
その後ろ姿を見送りながら、誰とも知れぬ声がぽつりと漏らす。
「……王女さまが、だんだん“お母ちゃん”に見えてくる……」
鏡の前でくるりと一回転。簡素なワンピースに白いエプロン、髪を高い位置で結んだララは気合い十分。
扉の外で待っていたランゼルに、にこっと笑って言った。
「ちょっと厨房に寄っていくわよ!」
軽やかな足取りで歩き出すララに、ランゼルも静かに歩をそろえる。
――普段のドレス姿も美しいが、このような装いもまた、王女らしいな。
歩くたび揺れるシルバーブロンドを目で追いながら、ランゼルは思った。
*
「おはよう、今日もお疲れさま!」
厨房に入るなり、明るく声をかけるララ。その瞬間、入り口近くにいた見習いコックのロイが、目をまんまるに見開いた。
「お、おはようございますっ……って、えっ⁉︎ 王女さま⁉︎」
周囲のスタッフたちも慌てて頭を下げるが、顔には明らかな困惑の色。
「朝の片付けで忙しいときにごめんなさいね」
ララは気にする様子もなく、厨房全体を見渡す。
――うん、無駄な照明はついてないし、かまどの火も落ちてる。合格。
満足そうに微笑むララに、料理長が声をかけてきた。
「王女さま、おはようございます。本日はどのようなご用件で?」
「おはよう。厨房がしっかり節約できていて安心したわ。皆さんの協力に感謝しているの」
にこやかにそう返したララは、続けて言った。
「実はお願いがあって来たの。小ぶりで、柔らかいパンってあるかしら?」
「パンですか……?」
「ええ、このくらいの大きさの」
両手で輪を作って見せるララ。
「今朝焼いた分で、少し小ぶりなものがありますが……」と料理長が首をかしげる。
「それを10個ほど、いただいてもいいかしら?」
「はい、ご準備いたしますので、少々お待ちください」
そう答えた料理長のそばに、皮むき担当の少年・トトがバスケットを持ってやってきた。
「料理長、これに入れたらどうです?」
「ありがとう、助かるわ」とララが笑うと、料理長はパン担当に声をかけて準備を進めた。
ふと、料理長が尋ねる。
「ところで王女さま。今日は……いつもと装いが違うようで」
「そうなの、今日は託児室の担当なの!」
ぱっと笑顔を咲かせるララに、料理長は「……?」と完全にフリーズした。
「託児室……担当? あの、使用人の子どもたちが集まっている……あの託児室ですか?」
「そうよ。今日の担当者が体調不良らしくてね。ちょうど運用の様子も気になっていたところだったから、いい機会だと思って」
――うちの王女様は本当にすごい……。
使用人の子どもの世話なんて、本来なら王族がすることじゃないのに。
まぶしそうに目を細める料理長。
「そうそう。午後のティータイムは取らないから、私の分の焼き菓子は準備しなくて大丈夫よ。その代わり、バナナやリンゴなどの果物を小さくカットして、託児室に届けてくれる?」
「……かしこまりました。ですが……王女様、ひとつお尋ねしても?」
「何かしら?」
「……昼前のパンと、午後の果物……いったい何にお使いになるので?」
問いに、ララはきょとんとした顔で、当然のように答える。
「子どもたちのおやつよ!」
「おやつ……ですか?」
「そう。一度にたくさん食べられないから、数回に分けて栄養を取る必要があるのよ。小さな子って、そういうものでしょ?」
「……はあ……そうなのですか……」
――あれ? もしかして、こっちの世界ではそれが常識じゃないの?
私たちは当たり前のように午前と午後に“お茶の時間”があったけど……
あれって、もしかして貴族や王族だけ?
使用人の子どもたちの栄養管理、どうなってるんだろう。あとで確認しなくちゃ。
やがてパンが詰められたバスケットを受け取り、ララはぱっと笑って言った。
「ありがとう。それじゃ、行ってくるわね!」
軽く手を振って出ていくララ。
その後ろ姿を見送りながら、誰とも知れぬ声がぽつりと漏らす。
「……王女さまが、だんだん“お母ちゃん”に見えてくる……」
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