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第14話 本当に必要なものは何⁉︎
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「さてと、それじゃあひとまず、私の家に行こうかね。お嬢ちゃんとまた会えたのも、何かの縁だからさ。
おばちゃん特製のアップパイをご馳走するよ」
女性が身をかがめて ディセルネに笑いかけた。
「ほぉ、ご婦人の家に、妾を招いてくれるのかえ?」
「いやだよ、ご婦人だなんて。むず痒くなっちまう。私のことは、マルタって呼んでおくれよ」
ディセルネの頭を撫でながら、ケラケラと笑い出すマルタ。
「マルタ殿……?」
首を傾げた小さな女神に、マルタが首を振る。
「そんなかしこまった呼び方じゃなくて、マルタおばちゃんでいいよ。ここらの子ども達は、みんなそう呼ぶからね。ところで、お嬢ちゃんのお名前は、何ていうんだい?」
片眉を軽く上げたマルタは、“さぁ、お名前言えるかな?”と幼子に言わんばかりの表情。
ちらりとシェリールを見た ディセルネに、彼は目を細めて頷いた。
「妾は、 ディセルネ。この白いモフモフは、ヤーナ。そして、この者はシェリールじゃ」
ヤーナはマルタに向かって「ワン」と一鳴きすると、パタパタとしっぽを揺らす。
シェリールもまた、胸に手を当てると軽く頭を下げた。
「これまた、ご丁寧な挨拶をありがとね、 ディセルネちゃん。この可愛らしいワンちゃんが、ヤーナくん。そして、 ディセルネちゃんのお父さんが、シェリールさんだね」
「マルタおばちゃん、シェリールはお父さんではないぞよ」
「あら、そうなのかい?それじゃ、年の離れた兄さんなのかい?」
マルタの視線が 少し考えるように、ディセルネとシェリールを行き来する。
ふと見上げたシェリールの瞳が、ほんのわずかに揺らいだように見えた ディセルネ。すぐさま、マルタに視線を戻すと、胸を張って言い切った。
「シェリールは、妾とヤーナの保護者じゃ」
そう言って、再びシェリールに顔を向けて笑いかけたディセルネ。
眉を下げた彼は、おもむろに小さな女神を抱き上げると、マルタに向かって宣言した。
「はい、僕はこの子達の保護者です」
「シェリールよ、妾をいきなり抱き上げるでない。それに、其方はなぜそのような顔をしとる?今にも泣きそうじゃぞ」
ディセルネは小さな手でシェリールの頭を撫でると、不思議そうに首を傾げた。
「……ディーちゃんが、僕を家族って思ってくれたんだとわかったから、嬉しくて……」
「人間は、嬉しくても泣くのかえ?」
「そうだね、嬉しい時も、ほっとした時も、悲しい時も、悔しい時も、痛い時も、怖い時も、涙は出てくるんだよ」
「たくさんあり過ぎて、妾にはまだ、ようわからん。」
「今から、色んなことを経験すれば、ディーちゃんにもわかるよ」
『おいおい、お二人さん!周りが置いてけぼりだぞ』
からかいの混じるヤーナの念話は、どこか優しげなトーン。
「仲がいい家族なんだね」
マルタが優しく笑いかけながら、さぁ、「家はこの先だよ」と市場の向こうを指差した。
「この町の人たちも、あんた達みたいに、互いを大事にできたらいいんだろうけどね」
少し前を歩いていたマルタが、振り返るとシェリールの腕に抱えられた ディセルネに笑いかける。
「この町は家族の仲がよくないのかえ?」
「いいや、そんな事はないさ。親は子どもを大事に育てるし、子どもも親を大切にしている……」
「それなら、何が問題なのじゃ?」
首を傾けた ディセルネに、シェリールが優しく語りかけた。
「ディーちゃん、さっきの市場の様子を覚えてる?」
「おお、あの賑やかな場所じゃな?」
「そうそう、あの場所で何か感じたことはなかったかい?」
じっと ディセルネの瞳を覗き込んで、問いかけたシェリールに、小さな女神はハッとした表情をする。
「あぁ、そう言う事じゃったか……。
自分の身内や親しい人には、“心を傾ける”とこができるが、全くの他人には……それができないのじゃな?」
「うん、そうなんだよね」
声色は穏やかで優しいシェリール、でも彼の目はどこか憂いを帯びた色を讃えていた。
「シェリール……」
思わず彼の名前を口にした ディセルネに、シェリールの視線が降りてくる。
一度柔らかく目を細めた彼は顔を上げると、遥か先をじっと見つめた。
柔らかな風が、ふわりと ディセルネの頬をなでる。
すれ違う人々の、賑やかな会話。
整った町並み。
豊かな自然と、実りの良い田畑。
「豊かだけど……、豊かじゃないんだ、この世界は」
静かに告げられた、シェリールの一言。
――――妾の創ったこの世界は、外側だけが豊かなだけじゃったのか……。
『ヤーナ、妾は間違っておったようじゃ』
低く沈んだ ディセルネの念話に、ヤーナが慌てた様子で駆け寄ってきた。
『おい、 ディセルネ、どうしたんだ!』
『妾はただ単に、美しい箱を創っただけで、本当の意味で世界を創れとらんかったのじゃよ』
『……そっか』
『今更気がついても、もう遅いのじゃろうがな。妾にはもう、この世界を見守る“神の力”はない……』
ふと空を見上げた ディセルネ、その小さな手はシェリールの服をギュッと握りしめていた。
『もっと早う、気がついておれば……、この世界は今より豊かだったのじゃろか?』
『そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
シェリールも言ってただろう?
過ぎた事は変えられない。
でも今から出来ることをすればいいって!』
真剣な眼差しでヤーナを見つめた ディセルネは、小さく頷くと口を開いた。
「そうじゃな、まずは妾がこの世界に“心を傾ける”ことから始めるのじゃ」
おばちゃん特製のアップパイをご馳走するよ」
女性が身をかがめて ディセルネに笑いかけた。
「ほぉ、ご婦人の家に、妾を招いてくれるのかえ?」
「いやだよ、ご婦人だなんて。むず痒くなっちまう。私のことは、マルタって呼んでおくれよ」
ディセルネの頭を撫でながら、ケラケラと笑い出すマルタ。
「マルタ殿……?」
首を傾げた小さな女神に、マルタが首を振る。
「そんなかしこまった呼び方じゃなくて、マルタおばちゃんでいいよ。ここらの子ども達は、みんなそう呼ぶからね。ところで、お嬢ちゃんのお名前は、何ていうんだい?」
片眉を軽く上げたマルタは、“さぁ、お名前言えるかな?”と幼子に言わんばかりの表情。
ちらりとシェリールを見た ディセルネに、彼は目を細めて頷いた。
「妾は、 ディセルネ。この白いモフモフは、ヤーナ。そして、この者はシェリールじゃ」
ヤーナはマルタに向かって「ワン」と一鳴きすると、パタパタとしっぽを揺らす。
シェリールもまた、胸に手を当てると軽く頭を下げた。
「これまた、ご丁寧な挨拶をありがとね、 ディセルネちゃん。この可愛らしいワンちゃんが、ヤーナくん。そして、 ディセルネちゃんのお父さんが、シェリールさんだね」
「マルタおばちゃん、シェリールはお父さんではないぞよ」
「あら、そうなのかい?それじゃ、年の離れた兄さんなのかい?」
マルタの視線が 少し考えるように、ディセルネとシェリールを行き来する。
ふと見上げたシェリールの瞳が、ほんのわずかに揺らいだように見えた ディセルネ。すぐさま、マルタに視線を戻すと、胸を張って言い切った。
「シェリールは、妾とヤーナの保護者じゃ」
そう言って、再びシェリールに顔を向けて笑いかけたディセルネ。
眉を下げた彼は、おもむろに小さな女神を抱き上げると、マルタに向かって宣言した。
「はい、僕はこの子達の保護者です」
「シェリールよ、妾をいきなり抱き上げるでない。それに、其方はなぜそのような顔をしとる?今にも泣きそうじゃぞ」
ディセルネは小さな手でシェリールの頭を撫でると、不思議そうに首を傾げた。
「……ディーちゃんが、僕を家族って思ってくれたんだとわかったから、嬉しくて……」
「人間は、嬉しくても泣くのかえ?」
「そうだね、嬉しい時も、ほっとした時も、悲しい時も、悔しい時も、痛い時も、怖い時も、涙は出てくるんだよ」
「たくさんあり過ぎて、妾にはまだ、ようわからん。」
「今から、色んなことを経験すれば、ディーちゃんにもわかるよ」
『おいおい、お二人さん!周りが置いてけぼりだぞ』
からかいの混じるヤーナの念話は、どこか優しげなトーン。
「仲がいい家族なんだね」
マルタが優しく笑いかけながら、さぁ、「家はこの先だよ」と市場の向こうを指差した。
「この町の人たちも、あんた達みたいに、互いを大事にできたらいいんだろうけどね」
少し前を歩いていたマルタが、振り返るとシェリールの腕に抱えられた ディセルネに笑いかける。
「この町は家族の仲がよくないのかえ?」
「いいや、そんな事はないさ。親は子どもを大事に育てるし、子どもも親を大切にしている……」
「それなら、何が問題なのじゃ?」
首を傾けた ディセルネに、シェリールが優しく語りかけた。
「ディーちゃん、さっきの市場の様子を覚えてる?」
「おお、あの賑やかな場所じゃな?」
「そうそう、あの場所で何か感じたことはなかったかい?」
じっと ディセルネの瞳を覗き込んで、問いかけたシェリールに、小さな女神はハッとした表情をする。
「あぁ、そう言う事じゃったか……。
自分の身内や親しい人には、“心を傾ける”とこができるが、全くの他人には……それができないのじゃな?」
「うん、そうなんだよね」
声色は穏やかで優しいシェリール、でも彼の目はどこか憂いを帯びた色を讃えていた。
「シェリール……」
思わず彼の名前を口にした ディセルネに、シェリールの視線が降りてくる。
一度柔らかく目を細めた彼は顔を上げると、遥か先をじっと見つめた。
柔らかな風が、ふわりと ディセルネの頬をなでる。
すれ違う人々の、賑やかな会話。
整った町並み。
豊かな自然と、実りの良い田畑。
「豊かだけど……、豊かじゃないんだ、この世界は」
静かに告げられた、シェリールの一言。
――――妾の創ったこの世界は、外側だけが豊かなだけじゃったのか……。
『ヤーナ、妾は間違っておったようじゃ』
低く沈んだ ディセルネの念話に、ヤーナが慌てた様子で駆け寄ってきた。
『おい、 ディセルネ、どうしたんだ!』
『妾はただ単に、美しい箱を創っただけで、本当の意味で世界を創れとらんかったのじゃよ』
『……そっか』
『今更気がついても、もう遅いのじゃろうがな。妾にはもう、この世界を見守る“神の力”はない……』
ふと空を見上げた ディセルネ、その小さな手はシェリールの服をギュッと握りしめていた。
『もっと早う、気がついておれば……、この世界は今より豊かだったのじゃろか?』
『そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。
シェリールも言ってただろう?
過ぎた事は変えられない。
でも今から出来ることをすればいいって!』
真剣な眼差しでヤーナを見つめた ディセルネは、小さく頷くと口を開いた。
「そうじゃな、まずは妾がこの世界に“心を傾ける”ことから始めるのじゃ」
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