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第16話 昔と今と
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開け放たれた小さな窓から、穏やかな風と一緒に子ども達の元気な声が流れ込んできた。
ほんの少し先に見えるディセルネとヤーナの姿に、目を細めたシェリール。
外を食い入るように見つめるシェリールに、マルタの笑いの混ざった声がかかる。
「心配しなくても、子ども達はすぐに仲良くなるよ。シェリールさんは過保護だねぇ。ほら、ここに座って、今お茶淹れるから」
ダイニングテーブルを指さしたマルタは、そのままキッチンへ向かって行った。
簡素な椅子をゆっくり引いて腰を下ろすと、マルタから声がかかる。
「そうそう、シェリールさん。向かいの洗面台で腕の傷をしっかり洗っておいで。包帯巻くから」
「はい、ありがとうございます」
左腕にあるかすり傷は、すでに血がとまり、乾きつつあった。こびり付いた泥と血液をしっかりと洗い流したところで、包帯と茶器を持ったマルタが戻ってきた。
「さあ、ここに座って腕を出してごらん。うちの息子もよく怪我してくるんだよ。いい歳して、まだ落ち着きがないんだからね」
手際よく包帯を巻き終えると、テーブルに紅茶を準備し始めたマルタ。
「傷の手当まで、ありがとうございます。それにご自宅にまでお邪魔してしまって」
「いいんだよ、そんなこと気にしなくて。さあ、紅茶でも飲んでゆっくりしな。
それに私が、シェリールさんやディセルネちゃんと話がしたかったんだよ」
少し驚いたように目を開いたシェリールに、マルタが続けた。
「今どき珍しいじゃないか、“誰かの為に動ける人”なんてさ。私もあの場にいたんだけど、あんな咄嗟には動けないよ。何の躊躇いもなく、突っ込んでいくんだから」
優しく笑いかけながら、「本当にありがとう、子どもの未来を守ってくれて」とマルタは静かに頭を下げた。
「マルタさん、それこそマルタさんだって、自分の子どもじゃないあの男の子の為に、今僕にお礼を……」
戸惑いを混ぜたシェリールの言葉に、マルタが小さく頷く。
「きっと私もシェリールさんも、今の世の中から見たら、ちょっと“変わった人”なんだろうね」
「……そうかもしれませんね」
苦笑いを浮かべたシェリールの目を真っ直ぐに捉えると、真剣な顔をしたマルタが口を開いた。
「でもさ、私はそれでいいと思うんだよ。
人って誰かの手を借りたり、貸したりして共に生活していく方がいい気がするんだ。
それこそ大昔、私のばあちゃんがよく言ってたんだけど、“近ごろの若者は周りに無関心だ。もっと相手の立場でものを考えるべきだ”ってね」
紅茶を一口飲んだマルタは、ふぅと息を吐く。
「ばあちゃん達より前の世代は、それが当たり前だったみたいだね……。
だからさ、少しでもそんな世の中になればいいなって思って、近所の子ども達にお手伝いをさせてるわけさ。
大人より子どもの方が、柔軟だからね」
シェリールも目の前のカップに手を伸ばして喉を潤すと、ゆっくり話し始めた。
「マルタさんの考え方、素敵ですね。僕もそんな世の中になって欲しいと、心から願っています。
今までたくさんの場所を訪れましたが、この世界はどこも似たり寄ったりで……、マルタさんのような方は少ないかもしれません。
確かに200年ほど前は、今ほど他人に無関心で自分中心の世界じゃなかったと、以前読んだ書物に書いてありました。魔物の出現も、ここ50年くらいからだと」
「シェリールさんは、学があるんだね。どこかのお偉いさんかい?」
感心して身を乗り出したマルタに、手を振って否定するシェリール。
「いえいえ、たまたまそういった機会があっただけですよ」
トントントン!
扉を叩く音と、複数の声が響いてきた。
「マルタおばちゃん!アップルパイまだ?」
「もう待てないみたいだね」
笑いながら玄関の扉へ向かったマルタの背中を、静かにじっと見つめるシェリール。
彼女の背が視界から消えると、目を閉じて深く大きな息を吐いた。
ほんの少し先に見えるディセルネとヤーナの姿に、目を細めたシェリール。
外を食い入るように見つめるシェリールに、マルタの笑いの混ざった声がかかる。
「心配しなくても、子ども達はすぐに仲良くなるよ。シェリールさんは過保護だねぇ。ほら、ここに座って、今お茶淹れるから」
ダイニングテーブルを指さしたマルタは、そのままキッチンへ向かって行った。
簡素な椅子をゆっくり引いて腰を下ろすと、マルタから声がかかる。
「そうそう、シェリールさん。向かいの洗面台で腕の傷をしっかり洗っておいで。包帯巻くから」
「はい、ありがとうございます」
左腕にあるかすり傷は、すでに血がとまり、乾きつつあった。こびり付いた泥と血液をしっかりと洗い流したところで、包帯と茶器を持ったマルタが戻ってきた。
「さあ、ここに座って腕を出してごらん。うちの息子もよく怪我してくるんだよ。いい歳して、まだ落ち着きがないんだからね」
手際よく包帯を巻き終えると、テーブルに紅茶を準備し始めたマルタ。
「傷の手当まで、ありがとうございます。それにご自宅にまでお邪魔してしまって」
「いいんだよ、そんなこと気にしなくて。さあ、紅茶でも飲んでゆっくりしな。
それに私が、シェリールさんやディセルネちゃんと話がしたかったんだよ」
少し驚いたように目を開いたシェリールに、マルタが続けた。
「今どき珍しいじゃないか、“誰かの為に動ける人”なんてさ。私もあの場にいたんだけど、あんな咄嗟には動けないよ。何の躊躇いもなく、突っ込んでいくんだから」
優しく笑いかけながら、「本当にありがとう、子どもの未来を守ってくれて」とマルタは静かに頭を下げた。
「マルタさん、それこそマルタさんだって、自分の子どもじゃないあの男の子の為に、今僕にお礼を……」
戸惑いを混ぜたシェリールの言葉に、マルタが小さく頷く。
「きっと私もシェリールさんも、今の世の中から見たら、ちょっと“変わった人”なんだろうね」
「……そうかもしれませんね」
苦笑いを浮かべたシェリールの目を真っ直ぐに捉えると、真剣な顔をしたマルタが口を開いた。
「でもさ、私はそれでいいと思うんだよ。
人って誰かの手を借りたり、貸したりして共に生活していく方がいい気がするんだ。
それこそ大昔、私のばあちゃんがよく言ってたんだけど、“近ごろの若者は周りに無関心だ。もっと相手の立場でものを考えるべきだ”ってね」
紅茶を一口飲んだマルタは、ふぅと息を吐く。
「ばあちゃん達より前の世代は、それが当たり前だったみたいだね……。
だからさ、少しでもそんな世の中になればいいなって思って、近所の子ども達にお手伝いをさせてるわけさ。
大人より子どもの方が、柔軟だからね」
シェリールも目の前のカップに手を伸ばして喉を潤すと、ゆっくり話し始めた。
「マルタさんの考え方、素敵ですね。僕もそんな世の中になって欲しいと、心から願っています。
今までたくさんの場所を訪れましたが、この世界はどこも似たり寄ったりで……、マルタさんのような方は少ないかもしれません。
確かに200年ほど前は、今ほど他人に無関心で自分中心の世界じゃなかったと、以前読んだ書物に書いてありました。魔物の出現も、ここ50年くらいからだと」
「シェリールさんは、学があるんだね。どこかのお偉いさんかい?」
感心して身を乗り出したマルタに、手を振って否定するシェリール。
「いえいえ、たまたまそういった機会があっただけですよ」
トントントン!
扉を叩く音と、複数の声が響いてきた。
「マルタおばちゃん!アップルパイまだ?」
「もう待てないみたいだね」
笑いながら玄関の扉へ向かったマルタの背中を、静かにじっと見つめるシェリール。
彼女の背が視界から消えると、目を閉じて深く大きな息を吐いた。
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