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第23話 マルタ家の夕食
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「熱いから気をつけるんだよ」
ディセルネの目の前にコトンっと置かれた、白い湯気がほわりと立つマグカップ。
「ありがとうございますなのじゃ」
ディセルネがテーブルに手を伸ばそうとすると、マルタから声がかかった。
「ディセルネちゃん、ちょっと待ちな。テーブルに背が届いてないねぇ。確か小屋に、レオンが子どもの頃使ってた椅子があるから取ってくるよ」
テーブルから、顔を半分だけ覗かせたディセルネ。
「マルタさん、ディーちゃんは僕の膝に載せますから。お気遣いなく」
シェリールがディセルネの両脇に手を差し込んで抱えようとした時――
ガチャ
勢いよく扉が開いた。
「ただいま!何だかいい匂いがするね。今日のご飯はなんだろうな?」
「こらっ!レオン、いつも言ってるだろ、扉は静かに開け閉めしなさいって」
「ごめん、ごめん。次からちゃんとするから。それより、お腹減ったよ」
「昨日も“次からちゃんとする”って言ってなかったかい?
私はいつまで同じ事を言い続ければいいんだい。
シェリールさんを見てみなよ、あんたと同じくらいの歳なのにさ、こんなにしっかりしてんだよ」
腕を組んでため息を吐くマルタ。
居心地悪そうに頭を掻くレオン。
「シェリール……さん?
えっ‼︎お客さんいるの?
母さん、早く言ってよ。恥ずかしいところ見せちゃったじゃないか」
マルタの小言を聞き流していたレオンだったが、シェリールの存在に気がつくと、慌てた様子でかしこまった。
「いらっしゃい、レオンです。恥ずかしいところを見せてしまったな……」
頬を人差し指で掻きながら挨拶するレオン。
シェリールも彼の近くに歩み寄ると、軽く頭をさげた。
「シェリールといいます。今日はマルタさんのご好意に甘えさせてもらっています。お世話なります」
椅子からトンと降りたディセルネ、その側に駆け寄ってきたヤーナ。
「妾はディセルネ、この白いのはヤーナ。お世話になりますのじゃ」
ペコっと頭をさげた幼子と、しっぽをパタパタと揺らす仔犬に、レオンの目尻がみるみるうちに下がっていった。
「かっ、母さん!なんだい、この愛らしい子達は!
この素敵な出会いは、今日も一日頑張った俺へのご褒美かな?
そうだ!そうに違いない」
ズンズンと音がしそうな大股で、ディセルネとヤーナに近寄ってきたレオン。彼の腕や肩は逞しく、背丈もシェリールより頭ひとつ分大きい。
日焼けした肌に、太い眉。ふさふさした黒い髪。
『アースよりも大きいのぅ』
『まるでクマみたいだな』
『狼にクマと言われるとは……、レオンが可哀想じゃ』
目の前のレオンを見上げようと顔を上げるディセルネ。
あまりの背の高さに顎が天を向くと、彼女の体は後ろへと傾きはじめた。
「おおっと、危ないよ。大丈夫かい?ディセルネちゃん」
片手でさっと彼女を支えると、おもむろに自分の逞しい腕に乗せるレオン。
「……ありがとう、なのじゃ」
目を見開いたディセルネは、伺うようにレオンの顔を見つめた。
腕に乗せた幼子に嬉しそうに笑いかけるレオンの背を、マルタがペチっと叩く。
「レオン、ディセルネちゃんが驚いているだろ?降ろしておやり」
「……俺を見て泣かない子なんて、珍しいじゃないか。こんな幼い子を抱っこできる機会なんて、もうないかもしれない」
マルタがレオンの腕からディセルネを奪うと、そのままシェリールの元まで運びはじめた。
「ごめんよ、ディセルネちゃん。レオンは小さくて可愛いものが大好きなんだ。
でもあの見た目だろ?みんな大声で泣きはじめるんだよ」
「マルタおばちゃん、妾は幼子ではないからのう。泣かないぞよ。それに、レオンは、妾を助けてくれただけじゃろ?咄嗟に誰かに手を差し出せるレオンは、とても優しくて良い人間なんじゃろうな」
目を見開いたマルタは、すぐに声を出して笑いはじめた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかい。後でレオンとも遊んでやっておくれよ。
シェリールさん、ディセルネちゃんを借りてすまなかったね」
シェリールの腕の中にディセルネを預けると、女神の頭をそっと撫でたマルタの優しい一言。
「ありがとね」
「レオン、小屋からディセルネちゃんが座れる子ども用の椅子を持ってきておくれ。それから、みんなで夕食たよ」
パンパンと手を打って、仕切りはじめたマルタ。
まるでスキップでもするかのような、軽い足取りで小屋へと向かうレオン。
賑やかなマルタ親子にテンションが上がったのか、ピョコピョコと動き出すヤーナ。
その様子を楽しそうに見つめるシェリール。
――――ここは温かいが溢れとるのぅ。
この日の夕食は、野菜たっぷりのスープに、ハーブやスパイスが効いたチキン。そして、フワフワのパン。
辺りの家々から灯りが消えてもマルタの家の窓からは、楽しげな笑い声が漏れ聞こえていた。
ディセルネの目の前にコトンっと置かれた、白い湯気がほわりと立つマグカップ。
「ありがとうございますなのじゃ」
ディセルネがテーブルに手を伸ばそうとすると、マルタから声がかかった。
「ディセルネちゃん、ちょっと待ちな。テーブルに背が届いてないねぇ。確か小屋に、レオンが子どもの頃使ってた椅子があるから取ってくるよ」
テーブルから、顔を半分だけ覗かせたディセルネ。
「マルタさん、ディーちゃんは僕の膝に載せますから。お気遣いなく」
シェリールがディセルネの両脇に手を差し込んで抱えようとした時――
ガチャ
勢いよく扉が開いた。
「ただいま!何だかいい匂いがするね。今日のご飯はなんだろうな?」
「こらっ!レオン、いつも言ってるだろ、扉は静かに開け閉めしなさいって」
「ごめん、ごめん。次からちゃんとするから。それより、お腹減ったよ」
「昨日も“次からちゃんとする”って言ってなかったかい?
私はいつまで同じ事を言い続ければいいんだい。
シェリールさんを見てみなよ、あんたと同じくらいの歳なのにさ、こんなにしっかりしてんだよ」
腕を組んでため息を吐くマルタ。
居心地悪そうに頭を掻くレオン。
「シェリール……さん?
えっ‼︎お客さんいるの?
母さん、早く言ってよ。恥ずかしいところ見せちゃったじゃないか」
マルタの小言を聞き流していたレオンだったが、シェリールの存在に気がつくと、慌てた様子でかしこまった。
「いらっしゃい、レオンです。恥ずかしいところを見せてしまったな……」
頬を人差し指で掻きながら挨拶するレオン。
シェリールも彼の近くに歩み寄ると、軽く頭をさげた。
「シェリールといいます。今日はマルタさんのご好意に甘えさせてもらっています。お世話なります」
椅子からトンと降りたディセルネ、その側に駆け寄ってきたヤーナ。
「妾はディセルネ、この白いのはヤーナ。お世話になりますのじゃ」
ペコっと頭をさげた幼子と、しっぽをパタパタと揺らす仔犬に、レオンの目尻がみるみるうちに下がっていった。
「かっ、母さん!なんだい、この愛らしい子達は!
この素敵な出会いは、今日も一日頑張った俺へのご褒美かな?
そうだ!そうに違いない」
ズンズンと音がしそうな大股で、ディセルネとヤーナに近寄ってきたレオン。彼の腕や肩は逞しく、背丈もシェリールより頭ひとつ分大きい。
日焼けした肌に、太い眉。ふさふさした黒い髪。
『アースよりも大きいのぅ』
『まるでクマみたいだな』
『狼にクマと言われるとは……、レオンが可哀想じゃ』
目の前のレオンを見上げようと顔を上げるディセルネ。
あまりの背の高さに顎が天を向くと、彼女の体は後ろへと傾きはじめた。
「おおっと、危ないよ。大丈夫かい?ディセルネちゃん」
片手でさっと彼女を支えると、おもむろに自分の逞しい腕に乗せるレオン。
「……ありがとう、なのじゃ」
目を見開いたディセルネは、伺うようにレオンの顔を見つめた。
腕に乗せた幼子に嬉しそうに笑いかけるレオンの背を、マルタがペチっと叩く。
「レオン、ディセルネちゃんが驚いているだろ?降ろしておやり」
「……俺を見て泣かない子なんて、珍しいじゃないか。こんな幼い子を抱っこできる機会なんて、もうないかもしれない」
マルタがレオンの腕からディセルネを奪うと、そのままシェリールの元まで運びはじめた。
「ごめんよ、ディセルネちゃん。レオンは小さくて可愛いものが大好きなんだ。
でもあの見た目だろ?みんな大声で泣きはじめるんだよ」
「マルタおばちゃん、妾は幼子ではないからのう。泣かないぞよ。それに、レオンは、妾を助けてくれただけじゃろ?咄嗟に誰かに手を差し出せるレオンは、とても優しくて良い人間なんじゃろうな」
目を見開いたマルタは、すぐに声を出して笑いはじめた。
「嬉しいこと言ってくれるじゃないかい。後でレオンとも遊んでやっておくれよ。
シェリールさん、ディセルネちゃんを借りてすまなかったね」
シェリールの腕の中にディセルネを預けると、女神の頭をそっと撫でたマルタの優しい一言。
「ありがとね」
「レオン、小屋からディセルネちゃんが座れる子ども用の椅子を持ってきておくれ。それから、みんなで夕食たよ」
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まるでスキップでもするかのような、軽い足取りで小屋へと向かうレオン。
賑やかなマルタ親子にテンションが上がったのか、ピョコピョコと動き出すヤーナ。
その様子を楽しそうに見つめるシェリール。
――――ここは温かいが溢れとるのぅ。
この日の夕食は、野菜たっぷりのスープに、ハーブやスパイスが効いたチキン。そして、フワフワのパン。
辺りの家々から灯りが消えてもマルタの家の窓からは、楽しげな笑い声が漏れ聞こえていた。
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