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魔族の潜む街
今から七十年ほど前の話だ
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フランを奪還した翌日、ウィルさんに俺一人が呼び出され俺はイクシル邸を訪れた。
正面から入っても咎められることなく、そのまま応接間に通される。
応接間にはすでにウィルさんが座っていた。
「呼び出してすまないな。これからガーフィールに話を聞きに向かうのだがあんたにも聞いてもらった方がいいだろうと思ったんだ」
こっちだと案内されると地下に続く階段があり、そこを進むと鼻を突く血の匂いに満たされていた。
「ここは一体なんですか?」
「昔の収容所だ。イクシルは今でこそ政治や商業をやっているが、何世代か前までは治安を守る奉行所でな、ここは当時の名残で今は使われていないはずだった」
ウィルさんの言葉とは裏腹に、この嫌な臭いは新しい。
この臭いは収容所なんて生易しい物じゃない。
「収容所というよりは処刑場みたいなですね」
牢の中には明確に殺意のある道具が所狭しと並んでいた。
そのどれもがここ最近使用された形跡がある。
「察しの通りここでガーフィールは裏の連中と取引をしていたようだ。詳しくは聞いていないが、ガーフィールは場所の提供をしその対価として裏からは非合法な商品を受け取っていたのだろう」
「ここまでの施設なら結構な大物にたどりつけると思いますけど、ガーフィールから何か聞き出せたんですか?」
「あいつはまだ口を開かんからな、ワシがよりもタクトくんの方が口を割らせられるだろう。それに君はここを使っていた大物の正体が知りたいんだろう?」
「はい。と言っても用があるのは大物の更に奥にいる奴ですけど」
たぶんウィルさんは俺が勇者だと知っている。
フランが教えたのか話の中で気が付いたのかはわからないが、それでも誰にも言わず情報をくれている。
「この収容所の内部は昨日のうちに確認してる。全部で五か所、その内三か所はすでに崩壊していてまともに使用できるのは二か所のみだ」
「その出入り口はどこに繋がっているかわかりますか?」
「崩れているのは森の中と廃墟となっている町クルト、それと隣町方面だと推測されている。残りの二つはキックスの裏の街道と湖のほとりにある監視小屋に繋がっていた」
森の中に繋がっている可能性があるってことは、ポイズンドラゴンはここから運び出された可能性もあるってことか。
ということはアイドウロンの繁殖も行っている可能性もあるな。
それにイミュニティーがこの町に来た理由もこれでつながった。
「そろそろガーフィールを閉じ込めている牢だ」
俺達の声が聞こえていたのか、鎖の擦れる音が前方から聞こえてくる。
「クソ爺、俺をこんな目に合わせて無事でいられると――」
「思ってるよ。話してくれるよな。これ以上顔が変形するとモンスターに間違われるだろ?」
包帯で顔を覆われているガーフィールは俺の顔を見て動きが止まる。
手枷に繋がれながら壁際に移動する。
折角これほどに恐怖してくれているなら使わない手はない。
「知っていることを全て吐け。そうすればこれ以上の危害は加えない。その代わり嘘を一つ吐くごとに一発殴る。ウィルさんも話を聞いていると言えば嘘の意味がないことはわかるよな」
牢の中に入ってきた俺に怯えながらガーフィールが頷く。
俺は手の届く距離に腰を下ろし、質問を始める。
「ここで何をしていたんだ?」
「それは知らない。本当だ、場所を貸してくれれば、金と必要な物を好きなだけ渡すと言われたんだ」
ウィルさんが頷いた。嘘はないらしい。
そうなるとこいつは隠れ蓑に使われていたわけか。
実際に金や召喚結晶なんかを無条件で渡すことで、ガーフィールがここの責任者だと思わせ自分達の痕跡を消す。
知恵を使っているところを見るとイミュニティーだけではなく魔族が絡んでいると思っていいのかもしれない。
魔族は人やアイドウロンがモンスター化した存在のため、普通のモンスターと違い知能もあるし言葉も話す。
その上周囲の魔力を取り込んでいるせいで通常の人間やアイドウロンよりも遥かに強い。
イミュニティーも魔族だが痕跡を消すようなまどろっこしい真似はしない。
「お前は白い仮面とマントを身に着けた奴とは会ったことはあるか?」
「そんな奴らに会ったことはない。俺が会ったのはメガネをかけた若い男だ。名前は確か、アラル・ヴェルモンドと名乗っていた」
「ヴェルモンドだと? それはあのヴェルモンドか!?」
「ウィルさん知っているのか? そのヴェルモンドって奴を」
アラル・ヴェルモンドの名前を聞いた瞬間ウィルさんは血相を変え、ガーフィールに掴みかかる。
今までの温厚な空気が偽物だったかの様な鬼気迫る表情に俺どころか、ガーフィールさえも目を剥いて驚く。
「そいつがどうかしたんですか?」
「この収容所の先にあったクルトと言う町をを滅ぼした貴族だ。ワシがまだ子供の時にこの辺りを治めていた公爵の一族でな、暴君として近隣の貴族に打ち滅ぼされた」
ウィルさんが苦虫を潰したような顔をしている辺り、痛ましい事件だったのだろう。
それを知っていてヴェルモンドを名乗っているのか、実際に手を下した同じ魔族なのか……。
「ウィルさん、今日はこの辺りにしましょう。ガーフィールまた明日話を聞かせてもらうからな」
興奮しているウィルさんを連れ本館に連れ応接間に戻る。
使用人の人にお茶を貰い、人払いをお願いした。
「ウィルさん、落ち着いたなら聞かせてもらいたいんですけどいいですか?」
「取り乱してすまないヴェルモンドの事だな。子供の時の話で所々間違えているし主観も入るがいいか?」
「構いません、おそらく俺が追っている連中と繋がるはずですから」
「今から七十年ほど前の話だ――」
ウィルさんは当時の事を話し始めた。
正面から入っても咎められることなく、そのまま応接間に通される。
応接間にはすでにウィルさんが座っていた。
「呼び出してすまないな。これからガーフィールに話を聞きに向かうのだがあんたにも聞いてもらった方がいいだろうと思ったんだ」
こっちだと案内されると地下に続く階段があり、そこを進むと鼻を突く血の匂いに満たされていた。
「ここは一体なんですか?」
「昔の収容所だ。イクシルは今でこそ政治や商業をやっているが、何世代か前までは治安を守る奉行所でな、ここは当時の名残で今は使われていないはずだった」
ウィルさんの言葉とは裏腹に、この嫌な臭いは新しい。
この臭いは収容所なんて生易しい物じゃない。
「収容所というよりは処刑場みたいなですね」
牢の中には明確に殺意のある道具が所狭しと並んでいた。
そのどれもがここ最近使用された形跡がある。
「察しの通りここでガーフィールは裏の連中と取引をしていたようだ。詳しくは聞いていないが、ガーフィールは場所の提供をしその対価として裏からは非合法な商品を受け取っていたのだろう」
「ここまでの施設なら結構な大物にたどりつけると思いますけど、ガーフィールから何か聞き出せたんですか?」
「あいつはまだ口を開かんからな、ワシがよりもタクトくんの方が口を割らせられるだろう。それに君はここを使っていた大物の正体が知りたいんだろう?」
「はい。と言っても用があるのは大物の更に奥にいる奴ですけど」
たぶんウィルさんは俺が勇者だと知っている。
フランが教えたのか話の中で気が付いたのかはわからないが、それでも誰にも言わず情報をくれている。
「この収容所の内部は昨日のうちに確認してる。全部で五か所、その内三か所はすでに崩壊していてまともに使用できるのは二か所のみだ」
「その出入り口はどこに繋がっているかわかりますか?」
「崩れているのは森の中と廃墟となっている町クルト、それと隣町方面だと推測されている。残りの二つはキックスの裏の街道と湖のほとりにある監視小屋に繋がっていた」
森の中に繋がっている可能性があるってことは、ポイズンドラゴンはここから運び出された可能性もあるってことか。
ということはアイドウロンの繁殖も行っている可能性もあるな。
それにイミュニティーがこの町に来た理由もこれでつながった。
「そろそろガーフィールを閉じ込めている牢だ」
俺達の声が聞こえていたのか、鎖の擦れる音が前方から聞こえてくる。
「クソ爺、俺をこんな目に合わせて無事でいられると――」
「思ってるよ。話してくれるよな。これ以上顔が変形するとモンスターに間違われるだろ?」
包帯で顔を覆われているガーフィールは俺の顔を見て動きが止まる。
手枷に繋がれながら壁際に移動する。
折角これほどに恐怖してくれているなら使わない手はない。
「知っていることを全て吐け。そうすればこれ以上の危害は加えない。その代わり嘘を一つ吐くごとに一発殴る。ウィルさんも話を聞いていると言えば嘘の意味がないことはわかるよな」
牢の中に入ってきた俺に怯えながらガーフィールが頷く。
俺は手の届く距離に腰を下ろし、質問を始める。
「ここで何をしていたんだ?」
「それは知らない。本当だ、場所を貸してくれれば、金と必要な物を好きなだけ渡すと言われたんだ」
ウィルさんが頷いた。嘘はないらしい。
そうなるとこいつは隠れ蓑に使われていたわけか。
実際に金や召喚結晶なんかを無条件で渡すことで、ガーフィールがここの責任者だと思わせ自分達の痕跡を消す。
知恵を使っているところを見るとイミュニティーだけではなく魔族が絡んでいると思っていいのかもしれない。
魔族は人やアイドウロンがモンスター化した存在のため、普通のモンスターと違い知能もあるし言葉も話す。
その上周囲の魔力を取り込んでいるせいで通常の人間やアイドウロンよりも遥かに強い。
イミュニティーも魔族だが痕跡を消すようなまどろっこしい真似はしない。
「お前は白い仮面とマントを身に着けた奴とは会ったことはあるか?」
「そんな奴らに会ったことはない。俺が会ったのはメガネをかけた若い男だ。名前は確か、アラル・ヴェルモンドと名乗っていた」
「ヴェルモンドだと? それはあのヴェルモンドか!?」
「ウィルさん知っているのか? そのヴェルモンドって奴を」
アラル・ヴェルモンドの名前を聞いた瞬間ウィルさんは血相を変え、ガーフィールに掴みかかる。
今までの温厚な空気が偽物だったかの様な鬼気迫る表情に俺どころか、ガーフィールさえも目を剥いて驚く。
「そいつがどうかしたんですか?」
「この収容所の先にあったクルトと言う町をを滅ぼした貴族だ。ワシがまだ子供の時にこの辺りを治めていた公爵の一族でな、暴君として近隣の貴族に打ち滅ぼされた」
ウィルさんが苦虫を潰したような顔をしている辺り、痛ましい事件だったのだろう。
それを知っていてヴェルモンドを名乗っているのか、実際に手を下した同じ魔族なのか……。
「ウィルさん、今日はこの辺りにしましょう。ガーフィールまた明日話を聞かせてもらうからな」
興奮しているウィルさんを連れ本館に連れ応接間に戻る。
使用人の人にお茶を貰い、人払いをお願いした。
「ウィルさん、落ち着いたなら聞かせてもらいたいんですけどいいですか?」
「取り乱してすまないヴェルモンドの事だな。子供の時の話で所々間違えているし主観も入るがいいか?」
「構いません、おそらく俺が追っている連中と繋がるはずですから」
「今から七十年ほど前の話だ――」
ウィルさんは当時の事を話し始めた。
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