百万回転生した勇者

柚木

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魔族の潜む街

十三番隊に入らない?

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 町の人の意識が戻ってからは大変だった。
 自分の家に知らない人がいると叫ぶ人、体の負傷を訴える者、所々破壊されている町に衝撃を受ける人。
 ヴェルモンドに操られていた間の記憶は無いらしくそれはもう大変な騒ぎだったため、俺達三人はあまり人気の無い所で【トランスペアレント】をかけテントで休むことにした。

 翌朝目を覚まし魔法を解くと死んだ目のフランがいた。

「フラン大丈夫か?」

「タクト様おはようございます……。二人ともこの騒ぎでよく眠れますね……」

 フランの視線の先にはいまだに気持ちよさそうに眠っているノノがいた。

「旅にはよくあることだし、ノノも孤児だったみたいだからこういう環境になれてるんじゃないか?」

 このくらいの騒ぎで眠れないと、これから先眠れないことも増えるから慣れてもらいたい。
 王都とかの大きな町だとこれくらいは日常茶飯事だしな。

「二人に比べると私のダメさが際立ちますね……」

 フランが寝不足のせいかいつにも増して自虐的だ。
 心なしかフランの頭の上に影が落ちている様な気がする。

 様な気がするではなかった。
 実際に影が俺達を覆っていた。
 巨大な影が俺達の上を通り去っていく。

 今のはドラゴンの影か?
 ヴェルモンドが仲間を連れて復讐に来たのか?

「ノノ起きろ、フランもすぐにあの影を追うぞ」

 今度こそ人質にはさせない。
 そして今度こそ魔族から魔王の事を聞かないといけない。
 寝ぼけた二人を背負い影の元に向かうと町の人が密集していた。

「タクトくん昨日ぶりだね」

 人ごみの中から小柄な影が俺に向かって声をかけてきた。
 昨日と違い大きな棍棒も持たず、立派な純黒の鎧を着たメイサだった。

「今のドラゴンはメイサだったのか?」

「それは吾輩のことだろうな」

 次いで現れたのはホーリードラゴンだった。
 メイサと同じ鎧を着ているが、ホーリードラゴンの象徴である純白の羽の様な鱗が黒い鎧の隙間から覗いている。

「珍しいな、ホーリードラゴンか?」

「ほう吾輩を知っているのか?」

「標高の高い所を住処にし世界の安寧あんねいを守っているという希少性の高いアイドウロンだろ」

 鳥の様な顔を近づけるとホーリードラゴンは変化し人の姿になった。
 白い綺麗な肌に涼し気な青い瞳の好青年に変わり、フランとノノも感嘆の声が漏れている。

「吾輩はトゥワイスという。お前が言う通りホーリードラゴンだよろしく頼む」

「はい、タクト・キサラギです」

 差し出された手を握るがドラゴンの頑丈さは感じられず普通の人間のようだった。
 それからフランとノノも挨拶をする。

「メイサが言っていたのはこいつらのことだな? 良い面構えをしているな」

 トゥワイスは俺達に微笑みかける。
 優しい微笑みにフラン達から黄色い声が上がる。
 逆に俺はあまりのイケメンぶりにイラつくものがある。

「そうだよ。だから仲良くしてあげてね。ついでだから他の二人も紹介しちゃうか」

 メイサに呼ばれ出てきたのは男の獣人と動く鎧だった。
 獣人はあからさまに敵を向け、鎧の方はよくわからない。

「こっちのワンちゃんはリズ。犬の獣人だから生肉を上げると喜ぶよ」

 獣人もアイドウロンの一種だ。
 彼らの見た目は動物が人間の特性を持っているということだ。
 このリズの場合は犬の様に鼻が突き出しているが、人間の様に手足は物を掴めるように五指揃っている。
 犬の様に黒い毛皮が全身を覆っているが、人間と同じように二足で歩く。

「クソ婆、俺は狼だって言ってるだろうがよ!」

「次婆って言ったら殺すよ」

 婆って、メイサって何歳なんだろう。
 この会話の後だと聞くのが怖いな……。

「それでこっちの鎧の中身はブルースライムのポリック。スライムだから話せないけどよろしくね」

 この鎧の中にスライムがたっぷり満たされてるのか。
 ブルーってことは水系のスライムか。

 ポリックが手を伸ばして来たのでその手を握ると激しくゆすぶられてしまう。
 どうやら喋れないだけで大分元気いっぱいのようだ。

「それじゃあ、僕はタクトくん達とお話があるから後処理はお願いね」

「待てよメイサ」

 俺の手を掴み立ち去ろうとするメイサにリズが声をかけた。

「お前は本当に強いのか? 匂いがその辺の雑魚と同じ匂いがしてるぜ」

「おいおいリズ僕が認めたのに文句があるのかい?」

「あるからこう言ってんだよ。おい、俺と勝負しろよ」

 おそらく獣人特有の感覚なのだろうが間違ってはいない。
 何を嗅ぎ分けているのかわからないが、俺はあくまで平凡なのは確かだ。
 チートを貰って百万回の転生をした結果今の強さなだけだしな。

「ごめんね、タクトくんウチの新入りがどうしても君の力みたいんだって。見せてあげてくれないかな」

「お兄さん受ける必要はないですよ。その狼さんは嘘を吐いています」

 ノノははっきりとそう断言した。

「何が嘘だって言うんだ? この男は弱くありませんって言いたいのか?」

「そこじゃありません。文句があるというところが嘘です」

 ノノの言葉にリズは確かに反応した。
 頭についている耳が動き、ノノを睨んでいる。

「何の根拠があってそんなこと言ってやがるんだよ」

「あなたにならうと匂いですかね。そこに関してですが明確に嘘を吐きました」

「だってさ、リズも馬鹿なこと言ってないで早く後始末頑張って」

 そのあしらいが良くなかったのか、リズは深く体を沈め俺の元に向かってくる。
 リズの指先からは長く鋭い爪が伸び、俺の首元目掛け襲ってくる。
 くらってやる義理はないためその手を受け止めくるりと半回転させる。

「これで満足か?」

 リズの体感からすれば俺が後ろに瞬間移動した様に見えた事だろう。
 急いで後ろに振り返ろうとするが、関節が決まっているためバランスを崩しそのまま地面に倒れ込んでしまう。

「今何をしたんだ?」

 俺が手を放すとすぐには立ち上がらない。
 リズは自分の負けをすぐに認めたようだ。

「ただ腕を捻っただけだよ」

 俺達はメイサに人気の無い所まで連れてこられた。

「君達さ十三番隊に入らない? 昨日の戦いを見て僕は君達の強さに惚れたんだ」

 魔族について聞かれるかと思っていたが、なんてことはないただの勧誘だった。
 十三番隊つまり王国軍に入れば命の危険は当然あるが、金銭面で困ることは一切ない。
 その上貴族と同等かそれ以上の権限を持つこともできる。

「悪いけど断る。俺は人付き合いが苦手だし、今の面子で十分だしな」

「その結果昨日ヴェルモンドを取り逃がしたよね。でも安心してちゃんと僕が殺しておいたから」

 あの地震の正体はメイサか。
 取り逃がしたことを知ってるってことはあの時の状況は理解してるってことか。

「僕達の仲間になればあんなことはない。彼女達はしっかり鍛えるし足手まといにはならないよ」

「申し訳ありませんがお断りします」

 俺が改めて断るよりも先にノノが断った。

「君にそんなことをいう権利があるのかい? 三人の中で一番弱い君が?」

「はい。人付き合いが苦手な二人をサポートするために私はいますから」

 ノノはメイサの圧に負けることなくしっかりと向き合う。

「それに今ので確信しました。あなたは私達に相応しくない」

 その一言にメイサの殺気は一段と高まり、話を聞いていたフランは俺の後ろに隠れてしまう。

「相応しくないときたか。それじゃあ、そう思う理由を聞こうかな」

「あなたは弱いから」

 次の瞬間メイサは剣を抜き、ノノに切りかかる。
 すぐに止めに入りたいのにフランが俺に掴まっているせいで思うように動けない。
 剣がノノに届く直前メイサの剣がぴたりと止まった。

「なぜ止めたんですか?」

「本気で切るはずないだろう。僕は王国軍十三番隊の隊長だぜこんなことして一体に何になるのさ」

「違いますよね。お兄さんから恨みを買うのが怖いんだ。自分より強い存在がいて、いずれ自分の地位を脅かされるのが怖い。だから手元において管理したがる。違いますか、魔族討伐専門の十三番隊隊長殿」

 ノノは確実にメイサの神経を逆なでしていく。
 普段のノノなら怒らせるようなことはしないはずなのにだ。
 メイサから笑顔が消え、怒りの表情が見え始めてきたが、流石にこの手の挑発には慣れているらしくすぐに笑顔を作る。

「このままじゃ平行線だ。タクトくん君はどうしたい? 十三番隊に入るかそれともその二人と旅に出るのどちらが有益かわかるよね」

「最初に断っただろ。俺は一緒に旅をするならこの二人がいい」

「そうかいそりゃ残念だ」

 俺にでもわかるくらいの怒りを笑顔で隠し、メイサは背を向け立ち去る。

「ヴェルモンドの件は助かったよ。手柄は好きにしてくれ」

「そうさせてもらうよ」

 その一言を最後にメイサはこちらを向くことなく町の中心に戻って行った。

「勝手なことしてごめんなさい」

「別にいいって、俺も断るつもりだったしさ」

 メイサが去った後ノノは俺達に謝罪した。
 王国軍の隊長に対して喧嘩を売ったことに対して酷く落ち込んでいるらしい。

「でもノノさんは凄いね。あんな人にあそこまで強く言えるんだから」

「フランそれは今言わない方がいいと思うぞ」

 フランはおそらくノノを褒めているつもりなのだろうが、今のノノには逆効果だ。
 自分のやらかしたことに落ち込んで珍しく膝を抱えている。

「なんでノノはメイサにあんなことを言ったんだ? 普通なら喜んで受けるべきだって言うと思ってた」

「昨日もだったんですが、あの人は嫌な人です。欲が深く利己的で我がままな人です」

「随分と断定するんだな。昨日会ったばかりだろ?」

 あそこまでのはっきりした拒絶は好き嫌いとかではないように思えた。
 相手の心を読んでいるような断定の仕方だ。
 俺にもわかるくらいにメイサも怒りをむき出しにしていた。

「いつからかは覚えていませんけど、ああいう嫌な人はわかるんです。目を見て一言でも話せば悪意も善意も打算も全部わかるんです」

 ノノのスキルってことか。

「それならノノは正しいから気にするな。それにあのままだと口八丁手八丁で俺が十三番隊ってのに入らなきゃならなかっただろうしな」

 ノノじゃなかったら断り切れなかっただろうしな。
 王国軍に入ったりしたら旅ができなくなってしまう。

 いつもの事だが、この国に住む人たちは魔王は心臓が二つあることを知らない。
 魔王退治で一番大変なのは二つ目の心臓を探すことだ。
 魔王の本体にも心臓はあるが、あくまでそれは仮の心臓ですぐに再生してしまう。
 最初の時は全然倒せなくて苦労した。

「タクト様何か考えているんですか?」

「いや、この先どこに行こうかなって考えてたんだよ」

 昔の苦労を思い出してしまっていた……。
 百万回転生しているけど俺の心はまだ十八歳だ。
 いいのか、十八歳のままで……、百万十八歳とかにしないといけないのか?

「お兄さん一人で考え込まないでください。私達も次にどこ行くかくらい一緒に考えますから」

「えっ、ああ、うん、じゃあ、次の行先考えようか」

 昔を振り返っているだけなのに二人に妙な心配をかけてしまった……。
 これからは過去を振り返るのは一人になった時にしよう。
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