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番外その2-オールキャラ短篇『悪い遊び』
4.(終)
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そうしてあっという間に、寮に戻る日の前夜。
楽しかったなあとこの数日間を振り返りながら、来年は最上学年になってしまう学園生活に思いを馳せていると、不意にコンコンとノックをする音がした。
「コンラート」
「シュリ!? どうしたの?」
「話があるんだ」
まだ深夜という時間ではないが、パジャマ姿の想い人が夜中自分の部屋を訪ねてくるとドキッとしてしまう。
その上、真剣な顔で「話がある」などと言われたら、また余計な妄想が弾んだ。
(え、どうしよう。マジで駆け落ちの誘いだったら……)
だが、悪い(ドングリ)遊びの例をを思い出しながら、そんな話ではないだろうと思い直し、部屋に入れ、暖炉の側の椅子にクッションを置いて座るように促した。
シュリは大人しくそこに座り、尻尾を背もたれの隙間から出して揺らした。後ろ手に何か持っているようだった。
(あれ? おこなのかな?)
口をキュッとへの字に引き結んでいて、小さな牙が見えている。
何かしただろうかと思いながら「話って?」と聞くと、シュリは相変わらず小さな牙を覗かせたまま言った。
「コンラート。この間5人でケティラーしたとき……お前、わざとカード変えて負けただろ」
それはわずか数日前の記憶だったが、コンラートは思い出すのに少し苦労した。
(ああ、ファル・フォルコンか!)
「いやーわざとっていうか……」
「リュカがカード回収しようとして気づいたらしいんだ。本当はあの時コンラート、ファル・フォルコンだったんじゃないかって」
「ははは……」
「俺が破産するから、わざと変えたんだろ」
「おっしゃる通りで……」
さすが親友。よくわかってるなあと素直に肯定すると、シュリは信じられないというように尻尾をビリビリと震わせた。
「ファル・フォルコンだぞ!? それをブタ札にしたっていうのか!?」
「俺もすごい手が来ちゃってビックリしちゃったし勝ちたかったんだけど、それよりもシュリたんと遊びたかったからさ。あそこでシュリが破産してゲームメンバーから外れちゃうと、俺のやる気ゼロになってたし。そこはセンパイたちもそうだったろうけど……」
勝負に出るよりも、シュリと一緒にゲームを続けることを選んだ。
それがたまたま、伝説級に強いチートカードの時だったというだけだ。
「真剣勝負だったのにごめんね、シュリたん」
謝ると、彼はぶんぶんと首を横に振った。
「……違う。怒ってるんじゃなくて……その。そんなすごいカードを棒に振ったなら、俺の分の賞金のどんぐりはお前にやろうと思って」
シュリはそう言うと後ろ手に隠していたものをおずおずとコンラートの前に出した。チップに使ったドングリと色とりどりのドライフラワーで作られたスワッグだった。
「不器用だから、あんまり上手く出来なかったんだけど……」
耳をぺたんと下げながら、シュリは少し申し訳なさそうに言った。怒っているのかと思っていたが、これを渡すのに、緊張していたのだろう。
「えっ、これシュリが作ったの?」
「ああ。アルシュタットの市場にこういうのがいっぱい売ってて、可愛いなって思ったから。ドングリ、そのまま渡すのもなんだし……」
「ありがとう! 一生部屋に飾る!!」
「一生って……」
そんな大層なものじゃないだろうと恥ずかしそうにシュリは言ったが、コンラートにとってみれば一生モノの宝だった。
「シュリたんの肉球スタンプと魚拓の横に飾ろ」
「げっ、そんなのまだ持ってるのか……」
「当たり前じゃん。時価総額100億リルだよ」
「そんなわけないだろ」
控え目で少し不格好なスワッグを壁に飾ると、それだけで、どこか肌寒かった部屋がふわりと温かくなったようなそんな気がした。
「な、なんかやっぱりこうやって飾られるとすごく恰好悪い!」
シュリは恥ずかしそうに言って、背伸びをして壁から外そうとしたが、慌てて止めた。
「ダメダメ。もう貰ったものなんだから!」
「ううう……」
「シュリたんが俺のために作ってくれたってだけで、もう宝物なんだよ」
そう言うと、シュリは照れくさそうに小さな牙を見せて最高にキュートに笑った。
(うん。俺ってやっぱり、なんだかんだ美味しい役どころ)
こういうところがダメなのかもしれない。
何がダメなのかは分からないが。だが、やっぱりこのままでいい。
欲を出さなければ、思いもかけない宝物が手に入ることがある。
壁にかかった可愛らしいスワッグを見つめながらコンラートはしみじみとそう思った。
─FIN─
~~~
今年は拙作を読んでくださり、ありがとうございました!よいお年を!
そうしてあっという間に、寮に戻る日の前夜。
楽しかったなあとこの数日間を振り返りながら、来年は最上学年になってしまう学園生活に思いを馳せていると、不意にコンコンとノックをする音がした。
「コンラート」
「シュリ!? どうしたの?」
「話があるんだ」
まだ深夜という時間ではないが、パジャマ姿の想い人が夜中自分の部屋を訪ねてくるとドキッとしてしまう。
その上、真剣な顔で「話がある」などと言われたら、また余計な妄想が弾んだ。
(え、どうしよう。マジで駆け落ちの誘いだったら……)
だが、悪い(ドングリ)遊びの例をを思い出しながら、そんな話ではないだろうと思い直し、部屋に入れ、暖炉の側の椅子にクッションを置いて座るように促した。
シュリは大人しくそこに座り、尻尾を背もたれの隙間から出して揺らした。後ろ手に何か持っているようだった。
(あれ? おこなのかな?)
口をキュッとへの字に引き結んでいて、小さな牙が見えている。
何かしただろうかと思いながら「話って?」と聞くと、シュリは相変わらず小さな牙を覗かせたまま言った。
「コンラート。この間5人でケティラーしたとき……お前、わざとカード変えて負けただろ」
それはわずか数日前の記憶だったが、コンラートは思い出すのに少し苦労した。
(ああ、ファル・フォルコンか!)
「いやーわざとっていうか……」
「リュカがカード回収しようとして気づいたらしいんだ。本当はあの時コンラート、ファル・フォルコンだったんじゃないかって」
「ははは……」
「俺が破産するから、わざと変えたんだろ」
「おっしゃる通りで……」
さすが親友。よくわかってるなあと素直に肯定すると、シュリは信じられないというように尻尾をビリビリと震わせた。
「ファル・フォルコンだぞ!? それをブタ札にしたっていうのか!?」
「俺もすごい手が来ちゃってビックリしちゃったし勝ちたかったんだけど、それよりもシュリたんと遊びたかったからさ。あそこでシュリが破産してゲームメンバーから外れちゃうと、俺のやる気ゼロになってたし。そこはセンパイたちもそうだったろうけど……」
勝負に出るよりも、シュリと一緒にゲームを続けることを選んだ。
それがたまたま、伝説級に強いチートカードの時だったというだけだ。
「真剣勝負だったのにごめんね、シュリたん」
謝ると、彼はぶんぶんと首を横に振った。
「……違う。怒ってるんじゃなくて……その。そんなすごいカードを棒に振ったなら、俺の分の賞金のどんぐりはお前にやろうと思って」
シュリはそう言うと後ろ手に隠していたものをおずおずとコンラートの前に出した。チップに使ったドングリと色とりどりのドライフラワーで作られたスワッグだった。
「不器用だから、あんまり上手く出来なかったんだけど……」
耳をぺたんと下げながら、シュリは少し申し訳なさそうに言った。怒っているのかと思っていたが、これを渡すのに、緊張していたのだろう。
「えっ、これシュリが作ったの?」
「ああ。アルシュタットの市場にこういうのがいっぱい売ってて、可愛いなって思ったから。ドングリ、そのまま渡すのもなんだし……」
「ありがとう! 一生部屋に飾る!!」
「一生って……」
そんな大層なものじゃないだろうと恥ずかしそうにシュリは言ったが、コンラートにとってみれば一生モノの宝だった。
「シュリたんの肉球スタンプと魚拓の横に飾ろ」
「げっ、そんなのまだ持ってるのか……」
「当たり前じゃん。時価総額100億リルだよ」
「そんなわけないだろ」
控え目で少し不格好なスワッグを壁に飾ると、それだけで、どこか肌寒かった部屋がふわりと温かくなったようなそんな気がした。
「な、なんかやっぱりこうやって飾られるとすごく恰好悪い!」
シュリは恥ずかしそうに言って、背伸びをして壁から外そうとしたが、慌てて止めた。
「ダメダメ。もう貰ったものなんだから!」
「ううう……」
「シュリたんが俺のために作ってくれたってだけで、もう宝物なんだよ」
そう言うと、シュリは照れくさそうに小さな牙を見せて最高にキュートに笑った。
(うん。俺ってやっぱり、なんだかんだ美味しい役どころ)
こういうところがダメなのかもしれない。
何がダメなのかは分からないが。だが、やっぱりこのままでいい。
欲を出さなければ、思いもかけない宝物が手に入ることがある。
壁にかかった可愛らしいスワッグを見つめながらコンラートはしみじみとそう思った。
─FIN─
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今年は拙作を読んでくださり、ありがとうございました!よいお年を!
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