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動画の画像は鮮明で、知り合いが見たら100%俺だと分かるだろう。
会社の人達に見られたら終わりだ。何より、今はなぜか北村に見られたくないと思った。
「冗談だよな? なんでそんなことするんだよ」
敦は「どうしようかなー」と楽し気に言いながらSNSの画面を開き、社名を入力し、動画を添付する。
送信ボタンを押されたら、全世界に公開されてしまう。
思わず震えながら首を横に振った。
「分かった。金なら渡すから……、それだけはやめて……すぐ消してくれ」
声を震わせて頼み込むと敦は満足そうにスマホをチラつかせながら俺の体を抱きしめた。
そのまま、服の裾に手を入れられ、素肌をまさぐられると本能的な嫌悪感を感じて鳥肌が立った。
かつては何度も愛し合ったはずの元恋人なのに、本能が拒絶する。
「俺は別に揺すりに来た訳じゃなくて、やり直そうって言ってんだよ。お前身体だけは最高だったから、忘れられなくてさ。久しぶりにヤらせろよ。そうすれば晒さないでやるから」
「……っ、やだって」
「俺達、身体の相性は良かっただろ。いいじゃん、セフレとしてやり直そうぜ。ついでに、しばらくここ泊めて」
「やり直す気はないって言ってるだろ! 他の奴の所に行けよ!」
きっと今の同棲相手に追い出されて戻ってきたに違いない。俺なら受け入れるだろうと思っているのだろう。
「どうせ相手もいないんだろ? お前なんか相手にするの、俺ぐらいだよ」
押し倒され、Yシャツの裾をたくし上げられる。
嫌だ、やめろと抵抗するが、動画をアップされたらと思うと怯んでしまう。そうこうしているうちに、ズボンを下着ごとずり下ろされた。
そのまま性器を宛がわれるが、いくら北村と毎週しているとはいえ、全く慣らさず入る訳もない。
「痛……っ、痛いっ! 本当にやめろ!」
「あー、めんどくせえな。お前クリームとか持ってねえの?」
「ふざけるなよ……っ、なんで、こんなひどいことするんだよ! 好きな人が出来て、俺に冷めて出てったんだろ! 平気で騙せるぐらい、どうでもいい存在だったんだろ! それならそれでいいから、もうほっといてくれよ! 一度は好きになった奴のこと、これ以上嫌いになりたくない! 敦を好きになったことまで、後悔したくないんだよ……っ」
情けなくも涙がボロボロと溢れる。
この一年ずっと、自暴自棄になりながらもなんとか忘れようと必死になっていた。
ようやく傷も少しずつ癒えてきたところに、まさかここまでされるとは思わなかった。
その時だった。再びピンポーンというインターフォンの音がした。
(北村……?)
さすがに、北村以外ありえないだろう。
ここを訪れるのは後輩の松倉ぐらいだが、金曜日だけは絶対に来ないように言ってある。
「きっ……」
名前を呼ぼうとしてすぐに敦に口を塞がれてしまった。
インターフォンは何度か鳴らされていたが、やがて音は止んだ。このままだと、北村は帰ってしまう。
アパートはオートロックではないから鍵は開いているが、北村は留守宅のドアを勝手に開けるような奴ではない。
でも、明らかに様子がおかしかったらどうだろう。
渾身の力で足をめちゃくちゃに動かすと、玄関先に置きっぱなしにしてあるゴルフバックが倒れた。
営業部に配属になった時、接待でする機会があるかもしれないと思い購入し、結局ろくに練習しないまま放置されているものだ。
半分顔を出していたゴルフクラブが玄関のタイルにぶつかり、かなり激しい音を立てる。
だが、それ以上インターフォンが鳴ることはなかった。
ダメかと思った次の瞬間、ドアが開いた。
「北村……?」
一瞬、今度は泥棒が入ってきたのかと思った。そこに立っていたのは、おそらく北村だった。
なぜおそらくかというと、まるで別人みたいに見えたからだ。
会社の人達に見られたら終わりだ。何より、今はなぜか北村に見られたくないと思った。
「冗談だよな? なんでそんなことするんだよ」
敦は「どうしようかなー」と楽し気に言いながらSNSの画面を開き、社名を入力し、動画を添付する。
送信ボタンを押されたら、全世界に公開されてしまう。
思わず震えながら首を横に振った。
「分かった。金なら渡すから……、それだけはやめて……すぐ消してくれ」
声を震わせて頼み込むと敦は満足そうにスマホをチラつかせながら俺の体を抱きしめた。
そのまま、服の裾に手を入れられ、素肌をまさぐられると本能的な嫌悪感を感じて鳥肌が立った。
かつては何度も愛し合ったはずの元恋人なのに、本能が拒絶する。
「俺は別に揺すりに来た訳じゃなくて、やり直そうって言ってんだよ。お前身体だけは最高だったから、忘れられなくてさ。久しぶりにヤらせろよ。そうすれば晒さないでやるから」
「……っ、やだって」
「俺達、身体の相性は良かっただろ。いいじゃん、セフレとしてやり直そうぜ。ついでに、しばらくここ泊めて」
「やり直す気はないって言ってるだろ! 他の奴の所に行けよ!」
きっと今の同棲相手に追い出されて戻ってきたに違いない。俺なら受け入れるだろうと思っているのだろう。
「どうせ相手もいないんだろ? お前なんか相手にするの、俺ぐらいだよ」
押し倒され、Yシャツの裾をたくし上げられる。
嫌だ、やめろと抵抗するが、動画をアップされたらと思うと怯んでしまう。そうこうしているうちに、ズボンを下着ごとずり下ろされた。
そのまま性器を宛がわれるが、いくら北村と毎週しているとはいえ、全く慣らさず入る訳もない。
「痛……っ、痛いっ! 本当にやめろ!」
「あー、めんどくせえな。お前クリームとか持ってねえの?」
「ふざけるなよ……っ、なんで、こんなひどいことするんだよ! 好きな人が出来て、俺に冷めて出てったんだろ! 平気で騙せるぐらい、どうでもいい存在だったんだろ! それならそれでいいから、もうほっといてくれよ! 一度は好きになった奴のこと、これ以上嫌いになりたくない! 敦を好きになったことまで、後悔したくないんだよ……っ」
情けなくも涙がボロボロと溢れる。
この一年ずっと、自暴自棄になりながらもなんとか忘れようと必死になっていた。
ようやく傷も少しずつ癒えてきたところに、まさかここまでされるとは思わなかった。
その時だった。再びピンポーンというインターフォンの音がした。
(北村……?)
さすがに、北村以外ありえないだろう。
ここを訪れるのは後輩の松倉ぐらいだが、金曜日だけは絶対に来ないように言ってある。
「きっ……」
名前を呼ぼうとしてすぐに敦に口を塞がれてしまった。
インターフォンは何度か鳴らされていたが、やがて音は止んだ。このままだと、北村は帰ってしまう。
アパートはオートロックではないから鍵は開いているが、北村は留守宅のドアを勝手に開けるような奴ではない。
でも、明らかに様子がおかしかったらどうだろう。
渾身の力で足をめちゃくちゃに動かすと、玄関先に置きっぱなしにしてあるゴルフバックが倒れた。
営業部に配属になった時、接待でする機会があるかもしれないと思い購入し、結局ろくに練習しないまま放置されているものだ。
半分顔を出していたゴルフクラブが玄関のタイルにぶつかり、かなり激しい音を立てる。
だが、それ以上インターフォンが鳴ることはなかった。
ダメかと思った次の瞬間、ドアが開いた。
「北村……?」
一瞬、今度は泥棒が入ってきたのかと思った。そこに立っていたのは、おそらく北村だった。
なぜおそらくかというと、まるで別人みたいに見えたからだ。
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