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頼れる背中
必死になって一つずつ牢を開けていくと、不意に腕を掴まれた。
隣の牢で子供を開放していたバルトがいつの間にかこちらの牢に移動してきていたことに気が付きもしなかった。
「騒がしくなってきました。そろそろ行かないと限界です」
子どもたちを解放していると没頭してしまうフェリクスなので、バルトがこうしていつも周囲の様子に気を付けてくれている。
一人で子どもたちを救出していたころは、全てを自分でしていたのが信じられないくらい、今はバルトとフィーに助けられている。お陰で助けることができる子どもも随分と増えた。
「でも……っまだ全員出してないっ」
「耳を澄ませて。こっちへ向かってくる足音の数が多いです。あとは諦めましょう」
「待って! あと一人だけでもっ」
「フェリクス様っ! 先に助けた子どももろとも俺たちも捕まります。引き際が肝心だと俺に教えたのは貴方です」
バルトの言うとおり耳を澄ますと、救助に没頭していたフェリクスの耳にも足音が複数聞こえてきた。
「……っくそ……っ」
フェリクスは呟いた。
そして身を翻し、最後に助けた子どもと共に地上に急いで向かった。
まだ数人牢に残していると思うと、身を引き裂かれるような思いだったが、助けた子どもたちとフィーとバルトまで危険にさらすわけにはいかない。
階段を上りきり、最後の一人を連れて馬車のところに戻ると、心配そうに御者席でいつでも出発できるように準備して待っているフィーがいた。
「フィー、全部で何人だったか?」
「四人だよ。今来たこの子を入れると五人」
バルトの問いにフィーが答えると、フェリクスは馬車とは逆方向に走り出した。
「フェリクス様っ俺が行きますっ」
バルトの声にも構わずフェリクスは走った。
今日助けた子どもは全部で六人だ。一人足りない。
階段を上りきって地上に出たとき、フィーとすれ違ってしまい馬車のある方ではなく逆に行ってしまった可能性がある。
馬車と逆の方に行ってしまうと賭博場の正面玄関の方面だ。そこで見つかって再びアンダーバーに捕まってしまうと大変なことになる。
フェリクスの背に冷や汗が伝う。アンダーバーは子どもが二度と逃げ出したりしないようにそれはそれはきつい罰を与える。
それはフェリクスが誰より知っていることだった。
助けたことが逆に子どもをさらに苦しめることになると思うと、いても立ってもいられなかった。放っておけるはずがない。
「バルトは子どもたちと馬車へっ……俺の戻りが遅かったら置いて帰ってくれっ」
「そんなわけにいくかっ……フィー! 馬を一頭だけ置いて先に帰っていてくれ!」
バルトの言葉遣いが荒くなったことから、冷静沈着なバルトがフェリクスの突然の行動に焦っていることがわかったが、それでも中途半端な助け方をしてしまった子どもを放っておけなかった。
「いいから! お前もフィーと帰れ! 危ないっ」
「ダメですっ! 今日はダントルグストもここに来ている可能性がありますっ! もし姿を見られでもしたらっ」
バルトはアンダーバーの黒幕で、この国を治める大公であるダントルグストの名前を出した。長年フェリクスはこのダントルグストがこの組織の黒幕であるという証拠を掴むことを目指して活動している。
そしてゴルール公国の支配国であるクランブルク帝国の裁きの場に引き摺り出し、彼やこの組織に力を貸す帝国の有力者を公の場で正しく断罪し、アンダーバーを撲滅させたいのだ。
だが一向にダントルグストや帝国の要人は証拠を掴ませない。
そして証拠を掴む前にフェリクスがダントルグストが黒幕であると疑って活動していることがもしダントルグスト本人にばれたら、フェリクスは即刻この世から消されるだろう
それでもフェリクスは振り返らずに賭博場の正面玄関がある明るい方角を目指した。
裏口から建物に沿って正面に向かうと、徐々に賑やかで明るくなっていく。
立派な馬車が次々と賭博場の前に到着しているようだった。
息を殺し身を潜めながら、子どもがいないか探していた時だった。
「おいっ! どうやって逃げ出したんだ! 言えっ」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ぶたないでくださいっ」
野太い男の声と、悲痛な子どもの声が聞こえた。
「ぶたれるどころじゃすまないだろうな。二度と逃げようなんて気が起きないようにしてやる。おらっ! 来い!」
少年が髪を掴まれ裏口に向かって引きずられているのが見えた。
フェリクスは少年をいたぶる男に走り寄ると、その走ってきた勢いのまま蹴り上げた。
「ぐあぁ! クソっ……だれかっ! 曲者だっ」
男はフェリクスに蹴られるまま吹き飛んだが、用心棒として雇われているだけあって、倒れる前に大声で人を呼んだ。
「行くぞ! こっちだ! ……っくっ……」
フェリクスは少年の手を掴んで走ったが、男が助けを呼んだせいで向こうから何人もの人が二人に向かって来る。
賭博場の正面玄関にやってきた身分の高い来客たちも、騒ぎを聞きつけ自分の雇った用心棒と共に見にやって来る者もいるようだ。
絶体絶命だ、そう思ったときだった。
「こっちです!」
颯爽と男たちの横を駆け抜ける一頭の立派な黒い馬。それを華麗に御する男の声だった。
「バルトっ」
フェリクスは少年を素早く抱き上げると、バルトは少年を受け取って馬の背に乗せた。
バルトが少年をしっかりと馬の背に乗せたのを見ると、フェリクスもバルトの後ろに飛び乗った。
馬を御するバルトの前に少年を、背にフェリクスを乗せると、馬は風のように速く走りだした。
「待ちやがれ!!」
馬が走り去る前に止めようと飛びつこうとした男もいたが、騎士団で幾多の戦闘に慣れたバルトはそれを見事に躱した。
そして裏城下町に慣れたバルトによって、あっという間に賭博場を遠く離れた。
守ってやらなければならなかった細い背中は、今はこんなにも逞しい。
そのことにフェリクスはつい安堵を覚えてしまった。
隣の牢で子供を開放していたバルトがいつの間にかこちらの牢に移動してきていたことに気が付きもしなかった。
「騒がしくなってきました。そろそろ行かないと限界です」
子どもたちを解放していると没頭してしまうフェリクスなので、バルトがこうしていつも周囲の様子に気を付けてくれている。
一人で子どもたちを救出していたころは、全てを自分でしていたのが信じられないくらい、今はバルトとフィーに助けられている。お陰で助けることができる子どもも随分と増えた。
「でも……っまだ全員出してないっ」
「耳を澄ませて。こっちへ向かってくる足音の数が多いです。あとは諦めましょう」
「待って! あと一人だけでもっ」
「フェリクス様っ! 先に助けた子どももろとも俺たちも捕まります。引き際が肝心だと俺に教えたのは貴方です」
バルトの言うとおり耳を澄ますと、救助に没頭していたフェリクスの耳にも足音が複数聞こえてきた。
「……っくそ……っ」
フェリクスは呟いた。
そして身を翻し、最後に助けた子どもと共に地上に急いで向かった。
まだ数人牢に残していると思うと、身を引き裂かれるような思いだったが、助けた子どもたちとフィーとバルトまで危険にさらすわけにはいかない。
階段を上りきり、最後の一人を連れて馬車のところに戻ると、心配そうに御者席でいつでも出発できるように準備して待っているフィーがいた。
「フィー、全部で何人だったか?」
「四人だよ。今来たこの子を入れると五人」
バルトの問いにフィーが答えると、フェリクスは馬車とは逆方向に走り出した。
「フェリクス様っ俺が行きますっ」
バルトの声にも構わずフェリクスは走った。
今日助けた子どもは全部で六人だ。一人足りない。
階段を上りきって地上に出たとき、フィーとすれ違ってしまい馬車のある方ではなく逆に行ってしまった可能性がある。
馬車と逆の方に行ってしまうと賭博場の正面玄関の方面だ。そこで見つかって再びアンダーバーに捕まってしまうと大変なことになる。
フェリクスの背に冷や汗が伝う。アンダーバーは子どもが二度と逃げ出したりしないようにそれはそれはきつい罰を与える。
それはフェリクスが誰より知っていることだった。
助けたことが逆に子どもをさらに苦しめることになると思うと、いても立ってもいられなかった。放っておけるはずがない。
「バルトは子どもたちと馬車へっ……俺の戻りが遅かったら置いて帰ってくれっ」
「そんなわけにいくかっ……フィー! 馬を一頭だけ置いて先に帰っていてくれ!」
バルトの言葉遣いが荒くなったことから、冷静沈着なバルトがフェリクスの突然の行動に焦っていることがわかったが、それでも中途半端な助け方をしてしまった子どもを放っておけなかった。
「いいから! お前もフィーと帰れ! 危ないっ」
「ダメですっ! 今日はダントルグストもここに来ている可能性がありますっ! もし姿を見られでもしたらっ」
バルトはアンダーバーの黒幕で、この国を治める大公であるダントルグストの名前を出した。長年フェリクスはこのダントルグストがこの組織の黒幕であるという証拠を掴むことを目指して活動している。
そしてゴルール公国の支配国であるクランブルク帝国の裁きの場に引き摺り出し、彼やこの組織に力を貸す帝国の有力者を公の場で正しく断罪し、アンダーバーを撲滅させたいのだ。
だが一向にダントルグストや帝国の要人は証拠を掴ませない。
そして証拠を掴む前にフェリクスがダントルグストが黒幕であると疑って活動していることがもしダントルグスト本人にばれたら、フェリクスは即刻この世から消されるだろう
それでもフェリクスは振り返らずに賭博場の正面玄関がある明るい方角を目指した。
裏口から建物に沿って正面に向かうと、徐々に賑やかで明るくなっていく。
立派な馬車が次々と賭博場の前に到着しているようだった。
息を殺し身を潜めながら、子どもがいないか探していた時だった。
「おいっ! どうやって逃げ出したんだ! 言えっ」
「ごめんなさい! ごめんなさい! ぶたないでくださいっ」
野太い男の声と、悲痛な子どもの声が聞こえた。
「ぶたれるどころじゃすまないだろうな。二度と逃げようなんて気が起きないようにしてやる。おらっ! 来い!」
少年が髪を掴まれ裏口に向かって引きずられているのが見えた。
フェリクスは少年をいたぶる男に走り寄ると、その走ってきた勢いのまま蹴り上げた。
「ぐあぁ! クソっ……だれかっ! 曲者だっ」
男はフェリクスに蹴られるまま吹き飛んだが、用心棒として雇われているだけあって、倒れる前に大声で人を呼んだ。
「行くぞ! こっちだ! ……っくっ……」
フェリクスは少年の手を掴んで走ったが、男が助けを呼んだせいで向こうから何人もの人が二人に向かって来る。
賭博場の正面玄関にやってきた身分の高い来客たちも、騒ぎを聞きつけ自分の雇った用心棒と共に見にやって来る者もいるようだ。
絶体絶命だ、そう思ったときだった。
「こっちです!」
颯爽と男たちの横を駆け抜ける一頭の立派な黒い馬。それを華麗に御する男の声だった。
「バルトっ」
フェリクスは少年を素早く抱き上げると、バルトは少年を受け取って馬の背に乗せた。
バルトが少年をしっかりと馬の背に乗せたのを見ると、フェリクスもバルトの後ろに飛び乗った。
馬を御するバルトの前に少年を、背にフェリクスを乗せると、馬は風のように速く走りだした。
「待ちやがれ!!」
馬が走り去る前に止めようと飛びつこうとした男もいたが、騎士団で幾多の戦闘に慣れたバルトはそれを見事に躱した。
そして裏城下町に慣れたバルトによって、あっという間に賭博場を遠く離れた。
守ってやらなければならなかった細い背中は、今はこんなにも逞しい。
そのことにフェリクスはつい安堵を覚えてしまった。
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