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危ないことはしないでほしい
「バルト! フェリクス様! よかった!」
先に馬車に戻っていたフィーは、家には入らず門のところで二人が戻って来るのを今か今かと待ち構えていた。
「俺が無茶をしたから心配かけてすまなかった。バルトもありがとう。フィー、子どもたちは?」
「まず先に居間で食事をさせているところです」
「そうか。助かる。この子にも中で温かいものを食べさせてやってくれ」
そう言ってフェリクスは馬から飛び降りると、バルトの前に乗せていた少年を馬から抱きかかえて降ろした。
「自分で歩けるか?」
フェリクスが尋ねると、少年は頷いた。
「中で食事をして待っていてくれ。今後については食べながら説明しよう。まだ信用できないかもしれないが、怖いことや嫌なことは絶対にしないから、心配しないで」
子どもたちに危害を加えるつもりが一切ないということを、子どもたちに分かってもらうのは難しいことだった。
それくらい子どもたちは酷い目に遭い、人を信用できなくなっている。
なので、せめて一つ一つの発言に心を込めることにしていた。
フィーが子どもを連れて家の中に入ると、バルトも馬から飛び降りて、手綱を引いて馬小屋に向かった。
フェリクスも馬の世話を手伝うべく、バルトと一緒に馬小屋に向かう。
「……無理は決してしない約束です。今日はオークション会場への入り口がある付近まで行ってしまったので、客に顔を見られている可能性もあります。ダントルグストに子どもを解放しているのは貴方だと、伝わってしまったら」
バルトは押し込めているが、怒りが籠っているのがわかった。
「わかっている。お前にも危ない思いをさせて悪かった」
「そんなことを怒ってるんじゃない!! ……っとすみません、突然大きな声を出して」
フェリクスの言葉に声を荒らげたバルトだったが、すぐに謝罪をした。
「いや、俺こそすまない。お前が自分の身が危険になったことを怒っているわけではないことも、理解しているつもりだ」
「理解してくださっているなら、ご自身をもっと大切にしてください」
「すまない。逃走に失敗して捕まると、子どもは二度と逃げようという気が起こらないように残虐な仕打ちを受ける。どんな目に遭わされるかと思うと、逃走を手助けしてしまった身としては、いても立ってもいられなくなってしまうんだ」
「……そんな優しい貴方に助けられて私もここにいるので、怒るのは筋違いかもしれませんが貴方が大切なんです……! お願いだから、もっと自分を大切にしてください……」
バルトが部下になる前の口調で、宝物を守る様にフェリクスの手を握ったが、その手は昔とは違い大きくてゴツゴツと男らしかった。
フェリクスはすぐにそれをそっと解いた。
この手を取るには、汚れすぎているのだ。
「……子どもたちに今後のことを早く話してやらないと不安だろうから、俺は先に戻る。お前も馬の世話が終わったら、早く中に戻れ」
もちろん一刻も早く子どもたちのもとへ行った方がいいのは事実ではあるが、バルトの熱の籠った言葉が続くのを避けるために、話を切り替えた。
そしてフェリクスはバルトに背を向けて屋敷に足を向けた。
馬小屋から戻り屋敷の一階奥の居間に続く扉を開けると、子どもたちは大きいテーブルで食事を摂っているところだった。
長いことあまりまともな食事を与えられていない子もいると考えられたため、消化の良い野菜と鶏肉を柔らかく煮込んだスープとパンの食事をフィーは用意してくれていた。
フィーもバルトと同様フェリクスに数年前に助けられているため、細かなところまで配慮が行き届く。
「フィー、ありがとう。おう遅いから、帰れ。クリストファーが迎えに来てくれるんだろう?」
「うん。もうすぐ迎えに来ると思う。そしたら帰るね……てこれが噂をしていればってやつだ」
フィーが笑って居間の入口に視線をやると、番であるクリストファーが立っていた。
「フェリクス様、勝手に入ってしまいすみません。一応呼び鈴を鳴らしたんですが」
そう言ってフィーの番であるクリストファーはフェリクスに頭を下げた。
裏城下町でこの国内外の様々な噂が集まる酒場を営む男はバルトとよく似た金髪の美しい男だった。金髪はゴルール公国が属するクランブルク帝国の国民に多い髪色だ。この国になぜ流れ着いたのか根掘り葉掘り聞くほど野暮にはなれないが、何か事情があってクランブルク帝国からやってきて酒場を営んでいるのだろう。
「クリストファーなら構わないよ。それより今夜はフィーもいないのに、クリストファーまで酒場を抜けて大丈夫なのか?」
「今夜は賭博場でオークションがありますからね。情報を集めている者も、騒がしく酒を呑むのが好きな者もそっちに行ってるので、客が少ないんで大丈夫です」
クリストファーはそう静かに言った。
「そうか。じゃあ今夜はフィーも疲れていると思うから、よく休ませてやってくれ」
「はい。そうします。フィー、帰ろうか」
クリストファーはフィーを優しい目で見て言った。
その光景を見てフェリクスは温かい気持ちになった。不幸なことに人身売買組織に売られかけて、フェリクスのもとに流れ着いたフィーが、番と幸せな様子を見るのは嬉しかった。
同時にフィーの幸せを壊さないように、これ以上被害者を増やさないように、一刻も早くアンダーバーを撲滅させなければならない。
そのためにはダントルグスト大公が黒幕だということとそれを助けている帝国の者がいるという確固たる証拠を持って、ゴルール公国の支配国であるクランブルク帝国で裁判にかけなくてはならない。
フィーとクリストファーの幸せそうな姿を見て改めて決意を固めていると、バルトが馬小屋から戻ってきた。
すれ違いざまにクリストファーは礼儀正しい彼らしく、丁寧にバルトに黙礼をした。
二人は静かに視線を交わしていた。
「じゃあね。フェリクス様、バルト。また何か情報を掴んだら連絡する」
そう言ってフィーとクリストファーは帰って行った。
先に馬車に戻っていたフィーは、家には入らず門のところで二人が戻って来るのを今か今かと待ち構えていた。
「俺が無茶をしたから心配かけてすまなかった。バルトもありがとう。フィー、子どもたちは?」
「まず先に居間で食事をさせているところです」
「そうか。助かる。この子にも中で温かいものを食べさせてやってくれ」
そう言ってフェリクスは馬から飛び降りると、バルトの前に乗せていた少年を馬から抱きかかえて降ろした。
「自分で歩けるか?」
フェリクスが尋ねると、少年は頷いた。
「中で食事をして待っていてくれ。今後については食べながら説明しよう。まだ信用できないかもしれないが、怖いことや嫌なことは絶対にしないから、心配しないで」
子どもたちに危害を加えるつもりが一切ないということを、子どもたちに分かってもらうのは難しいことだった。
それくらい子どもたちは酷い目に遭い、人を信用できなくなっている。
なので、せめて一つ一つの発言に心を込めることにしていた。
フィーが子どもを連れて家の中に入ると、バルトも馬から飛び降りて、手綱を引いて馬小屋に向かった。
フェリクスも馬の世話を手伝うべく、バルトと一緒に馬小屋に向かう。
「……無理は決してしない約束です。今日はオークション会場への入り口がある付近まで行ってしまったので、客に顔を見られている可能性もあります。ダントルグストに子どもを解放しているのは貴方だと、伝わってしまったら」
バルトは押し込めているが、怒りが籠っているのがわかった。
「わかっている。お前にも危ない思いをさせて悪かった」
「そんなことを怒ってるんじゃない!! ……っとすみません、突然大きな声を出して」
フェリクスの言葉に声を荒らげたバルトだったが、すぐに謝罪をした。
「いや、俺こそすまない。お前が自分の身が危険になったことを怒っているわけではないことも、理解しているつもりだ」
「理解してくださっているなら、ご自身をもっと大切にしてください」
「すまない。逃走に失敗して捕まると、子どもは二度と逃げようという気が起こらないように残虐な仕打ちを受ける。どんな目に遭わされるかと思うと、逃走を手助けしてしまった身としては、いても立ってもいられなくなってしまうんだ」
「……そんな優しい貴方に助けられて私もここにいるので、怒るのは筋違いかもしれませんが貴方が大切なんです……! お願いだから、もっと自分を大切にしてください……」
バルトが部下になる前の口調で、宝物を守る様にフェリクスの手を握ったが、その手は昔とは違い大きくてゴツゴツと男らしかった。
フェリクスはすぐにそれをそっと解いた。
この手を取るには、汚れすぎているのだ。
「……子どもたちに今後のことを早く話してやらないと不安だろうから、俺は先に戻る。お前も馬の世話が終わったら、早く中に戻れ」
もちろん一刻も早く子どもたちのもとへ行った方がいいのは事実ではあるが、バルトの熱の籠った言葉が続くのを避けるために、話を切り替えた。
そしてフェリクスはバルトに背を向けて屋敷に足を向けた。
馬小屋から戻り屋敷の一階奥の居間に続く扉を開けると、子どもたちは大きいテーブルで食事を摂っているところだった。
長いことあまりまともな食事を与えられていない子もいると考えられたため、消化の良い野菜と鶏肉を柔らかく煮込んだスープとパンの食事をフィーは用意してくれていた。
フィーもバルトと同様フェリクスに数年前に助けられているため、細かなところまで配慮が行き届く。
「フィー、ありがとう。おう遅いから、帰れ。クリストファーが迎えに来てくれるんだろう?」
「うん。もうすぐ迎えに来ると思う。そしたら帰るね……てこれが噂をしていればってやつだ」
フィーが笑って居間の入口に視線をやると、番であるクリストファーが立っていた。
「フェリクス様、勝手に入ってしまいすみません。一応呼び鈴を鳴らしたんですが」
そう言ってフィーの番であるクリストファーはフェリクスに頭を下げた。
裏城下町でこの国内外の様々な噂が集まる酒場を営む男はバルトとよく似た金髪の美しい男だった。金髪はゴルール公国が属するクランブルク帝国の国民に多い髪色だ。この国になぜ流れ着いたのか根掘り葉掘り聞くほど野暮にはなれないが、何か事情があってクランブルク帝国からやってきて酒場を営んでいるのだろう。
「クリストファーなら構わないよ。それより今夜はフィーもいないのに、クリストファーまで酒場を抜けて大丈夫なのか?」
「今夜は賭博場でオークションがありますからね。情報を集めている者も、騒がしく酒を呑むのが好きな者もそっちに行ってるので、客が少ないんで大丈夫です」
クリストファーはそう静かに言った。
「そうか。じゃあ今夜はフィーも疲れていると思うから、よく休ませてやってくれ」
「はい。そうします。フィー、帰ろうか」
クリストファーはフィーを優しい目で見て言った。
その光景を見てフェリクスは温かい気持ちになった。不幸なことに人身売買組織に売られかけて、フェリクスのもとに流れ着いたフィーが、番と幸せな様子を見るのは嬉しかった。
同時にフィーの幸せを壊さないように、これ以上被害者を増やさないように、一刻も早くアンダーバーを撲滅させなければならない。
そのためにはダントルグスト大公が黒幕だということとそれを助けている帝国の者がいるという確固たる証拠を持って、ゴルール公国の支配国であるクランブルク帝国で裁判にかけなくてはならない。
フィーとクリストファーの幸せそうな姿を見て改めて決意を固めていると、バルトが馬小屋から戻ってきた。
すれ違いざまにクリストファーは礼儀正しい彼らしく、丁寧にバルトに黙礼をした。
二人は静かに視線を交わしていた。
「じゃあね。フェリクス様、バルト。また何か情報を掴んだら連絡する」
そう言ってフィーとクリストファーは帰って行った。
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