孤高の騎士団長は誰のものにもならないオメガ

ゆなな

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フェリクスについて回る発情期

 二人が帰るとフェリクスは子どもたちに問いかけた。

「さて、これからのことを話そうと思う。この中で親元に帰りたい者は?」

 すると、六人中四人が手を挙げた。

「教えてくれてありがとう。帰っても大丈夫な人は明日にでも家に送って行こう。バルト、上の客間に案内してゆっくり休ませてあげてくれ」

 帰宅したフィーと入れ替わるように居間に戻ってきたバルトに、フェリクスは頼んだ。

「わかりました。さぁ、上の部屋へ行って休もう」

 温かく美味しい食事で緊張と警戒が解けた子どもたちのうち、家に帰ることを選択した者を、バルトは上階にある客間に案内した。

「さて。君たちは家には帰りたくない、もしくは帰れないということでいいかい?」

 残りの二人にフェリクスが尋ねると、少年たちは頷いた。事情はそれ以上深追いしない。
 話してくれる子がいればもちろん聞くが、たいていの場合は専門家に任せた方がいい。
 フェリクスはかつてバルトやフィーにもしたように、騎士養成のアカデミーか寺院付属の寄宿舎学校の条件を提示した。

「僕は……アカデミーを希望します」

 そう口にしたのはやせ細っているが、背は高い少年だ。恐らくアルファ。
 騎士養成学校であるアカデミーは奨学金の制度が充実しているし、卒業後の三年間騎士団に属すれば奨学金は返還しないでいいという仕組みもある。
 これはダントルグスト大公の税金の無駄遣いではないかという指摘によって何度も消滅する危機に陥った制度だが、その度にこの制度を利用して騎士団になった者の活躍のお陰で、なんとか無くならずにすんでいて現在も存続していた。
 もちろん制度を支持する卒業生の騎士には、これまでフェリクスが救出した者も多く含まれていた。

「うん。わかった。来週には入学できるように手続きを進めておく。手続きについては明日以降話そう。今夜は疲れただろうから、もう休んだ方がいい。バルト、戻ってきたばかりで悪いけれど、彼も客間に案内してくれる?」

 ちょうど他の四人の案内を終え、戻ってきたバルトにフェリクスは頼んだ。

「わかりました。二階の部屋になる。行こう」

 バルトがアルファの少年を連れて行くと、居間には小さな少年が残った。
 恐らく年齢は十二、十三歳といったところだろう。

「実際にアカデミーに入ってみて難しそうだったら、寺院の学校に転校することも可能だ。あんまり悩まないでいい」

「あの……オメガでもアカデミーはついていけますか……」

 消え入りそうな声で少年はフェリクスに尋ねた。フェリクスは椅子に座る彼と視線を合わせるように彼の横に膝をついた。

「アカデミーはオメガの子でも付いていける。むしろ自分を守るための武術を習えるから、俺はオメガの子ほどアカデミーへの進学を勧めたい。入学時には学校の校医との面談があるから、そこで発情期のことは相談できるしきちんと合った抑制剤も処方してもらえるから心配しないで。奨学金で入学した子は騎士団での公務が義務付けられているが、三年公務した後は自由だ。騎士団を続けてもいいし、好きな職業に替えてもいい」

 実際フィーもアカデミーを卒業しているが、三年間騎士団で公務をしたのち辞めて今は番と共に情報屋も兼ねた酒場を営んでいる。

「今日はもう遅い。寺院付属の学校もいいところだから、ゆっくり寝て明日もう一度考えてみて。実際行った学校が合わなければ、後から変えることもできる。あまり深刻に考えなくていいよ。客間に案内しよう」

 だいぶ疲れた様子のオメガの少年にこれ以上考えさせるのは止めて、フェリクスは二階にある客間に連れて行った。
 しばらくすると客間で休ませている子どもたちは、疲れのせいでぐっすりと寝静まったようだった。
 フェリクスがバルトに使わせている客間から、一番離れている三階の奥にある自分の部屋へ戻ったのは、もうすぐ夜明けと言ってもいいような時間だった。
 作業用のデスクとベッドのみの簡素な自室の中に入ると、デスク上に水差しとグラスを置き、引き出しから錠剤の入った瓶を取り出した。
 白い錠剤をザラザラと掌に出し、数回に分けて飲み込んだ。
 薬を飲むと、部屋に鍵を掛けていないことに気付き慌てて扉まで戻った。
 部屋に鍵を掛けてから、フェリクスは小さく息を吐いてベッドの端に座った。
 吐き出した息が甘ったるく熱を帯びていて、フェリクスは舌打ちをした。
 ――くそ……やっぱり発情期か……
    
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