強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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4章

ビスコンティ邸

 二人で並んで馬車停車場まで歩くと、それまで気が付かなかった二人の私服の違いがサランは恥ずかしくなった。黒いハイネックのセーターにロングコートを合わせたアンドレアはとても大人びて見えた。対するサランはキャメル色のダッフルコートにチェックのマフラーを合わせている。中に着ているセーターは白のケーブルニットでとってもかわいいスタイリングだと自信はあったが、大人びた彼の隣に立つとなんだか子供っぽく思えた。

「な……なんだよ……っ」

 馬車停車場に着くと馬車に乗る前に、サランのことを上から下まで眺めたアンドレアにサランは唇を尖らせる。

「いや、随分可愛いコートだと思っただけだ」

「……子供っぽいって言われるかと思った」

「そうか? 似合ってる」

 二人っきりの状況で彼にエスコートされて馬車に乗るのが気恥ずかしくなってしまったサランと黙り込んだアンドレアの二人は、いつもの騒がしさから信じられないほど静かだったが。

「え……ここって……」

 アンドレアの馬車は城下町にある貴族の邸宅が並ぶエリアを走り、ついにはそのうちの一軒、それもこの街並みで一番立派な門扉を潜ったとき、サランは思わず声を上げた。

「俺の家だけど」

 アンドレアはなんでもないことのようにさらっと言った。

「は……⁉ 聞いてないって‼」

「言わずに連れてきたからな。でも寮の俺の部屋に来てるんだから、別に実家の部屋に来たって問題ないだろ。そもそもまだ朝の七時前で朝食が食える店なんか俺は知らん」

「だって……家族もいるんでしょ……?」

 アンドレアの家族、ビスコンティ家の面々は美しく凛々しいことで有名だ。新聞で見たことのある家族写真を思い出してサランは青ざめた。

「両親は昨日から母上の実家に年末の挨拶に行って留守だ。姉と妹はいるが、静かにしておけば部屋は離れているから気付かれない」

「あ……そうなんだ……」

「……まぁでも使用人魔法使いはいるし、九時には治癒院に戻れるようにするから警戒するな」

「警戒?」

「あ……してないなら、別にいい……気にするな……」

 二人の会話にしては珍しく歯切れ悪い。そんな話をしているうちに、美しい花が咲き誇る庭園を通って邸宅の前の馬車廻しに到着した。
 御者席から降りたアンドレアはサランのいる席の方に回り、いつものように手を貸してくれたが、なんだか今日はいつも馬車にいる侍従もいなくて二人きりのせいか妙に気恥ずかしい。

「……っ」

 アンドレアを見ると、赤い短髪に男らしい眉、鋭い赤い瞳、少し厚めの唇……見慣れたと思ったはずなのに、そういえばあの唇と触れ合ったのだと思うと妙に気恥ずかしくて、サランは慌てて視線を外した。
 普段のサランへの態度を見ればどうやったってあれはキスにはならないというのに、一人で意識しまくってバカみたいだ。

「わ……っ」

 そんなことを思ってどこを見たらいいのかわからなくなっていると、馬車を降りるときの段差に足先を引っかけてしまった。

「……っと。あぶねぇな」

 馬車を降りるために手を貸してくれていたこともあり、アンドレアの逞しい腕は難なくサランを抱きとめた。
 抱きとめる腕も胸も、見た目以上に力強くて、熱い。そしてやんちゃなイメージの彼のシトラスの香りもその胸の中で感じると、妙に艶めかしくてサランはその腕の中で動けなくなった。

「ご……ごめん……ボーとしてて」

「……まだ寝ぼけてんのか。いい加減目ぇ覚ませよ。ねぼすけだな」

「うるさい……」

 言葉のやり取りは軽く交わされているのに、アンドレアは腕の中にサランをぎゅっと閉じ込めたままだし、サランもなぜか腕の中から抜け出せない。

「アンドレア様、馬車を戻しておきますね。アンドレア様のお部屋に朝食の準備も整っているそうです」
「あ……あぁ、わかった……部屋に行くぞ、サラン」

 アンドレアの帰宅を聞きつけて邸宅の正面玄関前に待機していた使用人魔法使いに声を掛けられ、二人は弾かれたように離れた。
 使用人は主のどんな姿を見ても感情を表に出さないように徹底的に叩き込まれているせいか、アンドレアとサランの様子を見ても顔色一つ変えない。それもなんだか居心地が悪い。抱き合っていたけれども疚しいことはないと説明したくても、使用人は何ごともなかったように振る舞うから、サランは静かにアンドレアの後ろに着いて行った。
 立派な邸宅に相応しい、大きな両開きの扉が使用人によって恭しく開かれる。

「お……お……お邪魔します……?」

「ぷはっ……なんで疑問形なんだよ」

「こ……こんなにおっきい家に遊びに来たことなんてないんだから、仕方ないだろ……っどのタイミングで挨拶すればいいのか、わかんないんだよっ」

 アンドレアにとっては使用人に傅かれるのはいつものことなのかもしれないが、サランは慣れないことだったので、ぎくしゃくと壊れたロボットみたいな動きで玄関を通った。
 なんだか変な挨拶をしてしまうとアンドレアが笑うので、サランは横目でアンドレアを睨みつけて小声で言ったが、彼は笑いながら、邸宅の玄関を入ってすぐのかなり広い玄関ホールにある螺旋階段をさっさと上って行く。二階まで吹き抜けになっている玄関ホールは大理石の床に赤絨毯が敷かれていて、恐る恐る彼について階段を上ると、美しい絵画や歴史ある鎧が飾られている廊下を歩く。
 そうして辿り着いた南側の部屋の扉を彼が開けて、サランを持っていた。

「ここが俺の部屋」

 彼の部屋に入ると、寮の部屋と似ていたが、こちらの部屋のほうが一つ一つの調度品が高価に見えた。
 入るとすぐに大きなソファとテーブルがある。寮の部屋に置かれていたのは王都で流行しているアンティーク調のストーブだったが、こちらの部屋には大きな暖炉があって、温かな雰囲気だった。
 寮の部屋に訪れた時と同じようにソファに勢いよく座った。
 ――うん。やっぱりふっかふかだ。
 そんなサランをさもおかしそうにアンドレアは見ていた。
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