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4章
サランの治癒魔法2
アンドレアの部屋に入ると、侍従によってさらに奥にある寝室に通された。
使用人が傍に付き添い、氷嚢を変えたり汗を拭いている様子だった。
「アンドレア様の様子は変わりないです。酷く体が熱いので、お水を飲ませたいのですが、起き上がることもままならず……」
サランと侍従が寝室に入ると、使用人が助けを求めるように告げてきた。
「わかりました。早速診ますね」
アンドレアのいつもの様子からは考えられないくらい、ぐったりとして横たわっていた。
酷く汗をかいていた。
上掛けをめくって足の火傷の様子を確認する。
脚の手当てがしやすいように、前開きの長いローブを着用していてズボンは履いていないので、脚の様子はすぐに診ることができた。
侍従の話だと左の太ももの辺りだという。表面は治癒魔法のお陰か、爛れたりはしていないが、内側から赤黒く変色していた。病気に対する治癒魔法と違い、怪我の治癒魔法はダイレクトに原因に働きかけることができるので、一回の治療で根治しやすい。
しかし、アンドレアの患部が赤黒く変色しているのを見ると、治癒魔法で完治しているとは言えない様子だった。
「……っ熱い……」
サランがそっとアンドレアの脚に触れると、かなり熱を持っていることに驚いた。
「アンドレアがどんな訓練をしていたのか詳しく教えてください」
「これまで攻撃魔法で使っていたフレイムは相手にぶつけてしまうと、フレイムに宿っている火の精が消えてしまうということなので、フレイムを相手に当てても消えないようにコントロールし、ブーメランのようにフレイムを手元に戻す、という新しい魔法を試していたようなのです。しかし、フレイムが戻ってきた時手元に戻せず、かなりのスピードで太ももに当たってしまったようで、火傷を負ったようです」
サランが聞くと侍従が答えた。
「なるほど。ブーメランのようなフレイムがかなりのスピードで太ももに当たったということか。火傷は騎士団の治癒師が診断したよりも深かったのだとすると、発熱はパラリシスの副作用だけじゃなさそう」
サランはすぐに手に取れるところにいくつか薬草を取り出してから、アンドレアの顔を覗き込んだ。
「アンドレア、僕だよ。わかる?」
「……サ……ラン?」
「そう、サランだよ。今から僕が治すからね。痛いことも苦しいこともしないから楽にしてて」
そう言って、汗で濡れたアンドレアの額をそっと撫でると、アンドレアは安心したように目を瞑った。
アンドレアがサランに任せてくれたのを確認してから慎重にパラリシスを掛けた。騎士団の治癒師も使っているということなので、できるだけ太ももの患部にだけかかる様に気を付けた。
「……よし。かかったかな……」
そっと太ももに触れて、そこの感覚だけ上手に無くせたことに安堵しながら、慎重に太もも深くに治癒魔法を掛けていく。奥深くの組織の様子を探りながら慎重に魔法を掛けていく。やはり、騎士団の治癒師は表面部分の火傷の治療のみしか行っておらず、深部の治療を行っていないようだった。このまま放っておくと、時間が経過するごとに悪化の一途を辿る。
サランは集中して熱によって破壊された深部の組織の回復を行った。
非常に繊細な作業で、額に汗が流れる。
寝室には彼の侍従と使用人が控えているはずだが、物音ひとつしない。
「汗を……」
「え……?」
「すみませんが、額の汗が目に入ってしまいそうなので、拭いてもらえませんか? 手が離せなくて」
「あ! はい! ただいま!!」
鬼気迫るサランを息を呑んで見守っていた使用人が我に返ったように、新しいタオルを持ってきてサランの汗を拭った。
「ありがとうございます。もうすぐ終わるので、お湯とアンドレアのローブの替えと、綺麗なタオルの用意もお願いできますか」
「……っ承知いたしました」
時が止まったように動けなくなっていた侍従もようやく動き出した。
「ふぅ……」
丁寧に深部の組織を治し終わると、サランは安堵の息を吐いた。
太ももの変色は治っているし、燃えるような熱さもない。
パラリシスのせいで、体温コントロールがうまくいかなくなっているようなので、発熱の症状はすぐには治まらないだろうが、それはこのあとケアをしっかりすれば大丈夫だろう。
「終わ……ったのか……?」
侍従の持ってきた新しいタオルでアンドレアの額の汗を拭っていると、彼の掠れた声が聞こえた。
「アンドレア、目が覚めた? 気分はどう?」
部分的にパラリシスを掛けたが、一応鎮静の魔法も掛けていたので、アンドレアの意識は術中はずっと朦朧としているようだった。
「頭いてぇ……」
「汗を搔いているから着替えたら、薬草を飲もうか。すみませんが着替えを手伝ってもらえませんか」
「サランがやって」
サランがそばに控えていた使用人魔法使いに着替えを頼もうとすると、アンドレアが言った。
「いやでも、アンドレアみたいな大男、僕一人で着替えさせられるかな……」
「俺も少しなら体動かせそうだから大丈夫だろ。怠いけれど、脚はもう痛くない」
「そっか。よかった。じゃあ大丈夫かな」
「サラン様、貴重なホリデーパーティの夜に治療をしてくださいまして、ありがとうございました。旦那様と奥様にご報告しておきますが、アンドレア様はこのままゆっくり休まれたほうがいいと思いますので、面会は明朝がよいともお伝えいたします。それでは私たちは退出しますので、何かありましたら寝室に備え付けのベルを鳴らしてください」
アンドレアとサランのやり取りを聞いた侍従はホッとしたような顔を見せたのち、アンドレアの希望を静かに汲み取り、使用人魔法使いと共に部屋から退出した。
使用人が傍に付き添い、氷嚢を変えたり汗を拭いている様子だった。
「アンドレア様の様子は変わりないです。酷く体が熱いので、お水を飲ませたいのですが、起き上がることもままならず……」
サランと侍従が寝室に入ると、使用人が助けを求めるように告げてきた。
「わかりました。早速診ますね」
アンドレアのいつもの様子からは考えられないくらい、ぐったりとして横たわっていた。
酷く汗をかいていた。
上掛けをめくって足の火傷の様子を確認する。
脚の手当てがしやすいように、前開きの長いローブを着用していてズボンは履いていないので、脚の様子はすぐに診ることができた。
侍従の話だと左の太ももの辺りだという。表面は治癒魔法のお陰か、爛れたりはしていないが、内側から赤黒く変色していた。病気に対する治癒魔法と違い、怪我の治癒魔法はダイレクトに原因に働きかけることができるので、一回の治療で根治しやすい。
しかし、アンドレアの患部が赤黒く変色しているのを見ると、治癒魔法で完治しているとは言えない様子だった。
「……っ熱い……」
サランがそっとアンドレアの脚に触れると、かなり熱を持っていることに驚いた。
「アンドレアがどんな訓練をしていたのか詳しく教えてください」
「これまで攻撃魔法で使っていたフレイムは相手にぶつけてしまうと、フレイムに宿っている火の精が消えてしまうということなので、フレイムを相手に当てても消えないようにコントロールし、ブーメランのようにフレイムを手元に戻す、という新しい魔法を試していたようなのです。しかし、フレイムが戻ってきた時手元に戻せず、かなりのスピードで太ももに当たってしまったようで、火傷を負ったようです」
サランが聞くと侍従が答えた。
「なるほど。ブーメランのようなフレイムがかなりのスピードで太ももに当たったということか。火傷は騎士団の治癒師が診断したよりも深かったのだとすると、発熱はパラリシスの副作用だけじゃなさそう」
サランはすぐに手に取れるところにいくつか薬草を取り出してから、アンドレアの顔を覗き込んだ。
「アンドレア、僕だよ。わかる?」
「……サ……ラン?」
「そう、サランだよ。今から僕が治すからね。痛いことも苦しいこともしないから楽にしてて」
そう言って、汗で濡れたアンドレアの額をそっと撫でると、アンドレアは安心したように目を瞑った。
アンドレアがサランに任せてくれたのを確認してから慎重にパラリシスを掛けた。騎士団の治癒師も使っているということなので、できるだけ太ももの患部にだけかかる様に気を付けた。
「……よし。かかったかな……」
そっと太ももに触れて、そこの感覚だけ上手に無くせたことに安堵しながら、慎重に太もも深くに治癒魔法を掛けていく。奥深くの組織の様子を探りながら慎重に魔法を掛けていく。やはり、騎士団の治癒師は表面部分の火傷の治療のみしか行っておらず、深部の治療を行っていないようだった。このまま放っておくと、時間が経過するごとに悪化の一途を辿る。
サランは集中して熱によって破壊された深部の組織の回復を行った。
非常に繊細な作業で、額に汗が流れる。
寝室には彼の侍従と使用人が控えているはずだが、物音ひとつしない。
「汗を……」
「え……?」
「すみませんが、額の汗が目に入ってしまいそうなので、拭いてもらえませんか? 手が離せなくて」
「あ! はい! ただいま!!」
鬼気迫るサランを息を呑んで見守っていた使用人が我に返ったように、新しいタオルを持ってきてサランの汗を拭った。
「ありがとうございます。もうすぐ終わるので、お湯とアンドレアのローブの替えと、綺麗なタオルの用意もお願いできますか」
「……っ承知いたしました」
時が止まったように動けなくなっていた侍従もようやく動き出した。
「ふぅ……」
丁寧に深部の組織を治し終わると、サランは安堵の息を吐いた。
太ももの変色は治っているし、燃えるような熱さもない。
パラリシスのせいで、体温コントロールがうまくいかなくなっているようなので、発熱の症状はすぐには治まらないだろうが、それはこのあとケアをしっかりすれば大丈夫だろう。
「終わ……ったのか……?」
侍従の持ってきた新しいタオルでアンドレアの額の汗を拭っていると、彼の掠れた声が聞こえた。
「アンドレア、目が覚めた? 気分はどう?」
部分的にパラリシスを掛けたが、一応鎮静の魔法も掛けていたので、アンドレアの意識は術中はずっと朦朧としているようだった。
「頭いてぇ……」
「汗を搔いているから着替えたら、薬草を飲もうか。すみませんが着替えを手伝ってもらえませんか」
「サランがやって」
サランがそばに控えていた使用人魔法使いに着替えを頼もうとすると、アンドレアが言った。
「いやでも、アンドレアみたいな大男、僕一人で着替えさせられるかな……」
「俺も少しなら体動かせそうだから大丈夫だろ。怠いけれど、脚はもう痛くない」
「そっか。よかった。じゃあ大丈夫かな」
「サラン様、貴重なホリデーパーティの夜に治療をしてくださいまして、ありがとうございました。旦那様と奥様にご報告しておきますが、アンドレア様はこのままゆっくり休まれたほうがいいと思いますので、面会は明朝がよいともお伝えいたします。それでは私たちは退出しますので、何かありましたら寝室に備え付けのベルを鳴らしてください」
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