強面騎士団長と僕はケンカしてばかりだったのに、いつの間にか溺愛されていました

ゆなな

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4章

ふたりの時間2

 寝室から出ると先日一緒に朝食を摂った部屋だ。その部屋には大きな暖炉があった。
 アンドレアと共に暖炉の前に座り込んでユノのノートを開く。

「じゃあ僕から話してみるね。えーと『こんにちは。いつもへやをあたためてくれて ありがとうございます』」

『サランだね こんにちは さいきんよく このへやにきているね』

『はい。このいえの アンドレアと ともだちになったので』

「会話してる……!」

 アンドレアがサランと火の精のやり取りを見て目を見開いた。

「僕はユノの真似をして火の精とは今までに結構話したことあるからね」

「俺は返事をしてもらえなかった……少しゆらゆら揺れたかな?ってくらいで」

「火の精の人見知りかもしれないけど、確かに火の精の言葉を使ったのに無視はめずらしいから理由を聞いてみようか。えーと疑問文は……あった、このページだ。なになに……うんうん……さすがユノ。わかりやすいな……『アンドレアと おはなししてくださらなかったのは なぜですか』」

「おい……直球だな……」

 サランが火の精に尋ねると、アンドレアが肘で小突いた。

「うるさいな。だって回りくどい言い回しは難しいし、通じるように話せないよ。僕だって初心者なんだから……あ、火の精が揺れた……静かにして」

『アンドレアのことしってる こうげきまほうで ひのせいを けすから おこっている』

「……怒ってるって……」

「それは俺も聞き取れた……」

 火の精の言葉に、二人は呆然とした。

「……謝っておこうか?」

 少し沈黙の後、なんだか可哀想になってサランが言った。

「いや……炎を司る家に生まれたのに、火の精とはコミュニケーションできないものとして道具のように扱った俺が悪かったんだ……自分で謝る」

 アンドレアはしばらく無言でユノの革張りのノートを捲った。
 それから静かに息を吐いて暖炉の中の火の精をじっと見つめた。

『ほんとうに もうしわけなかった ひのせいを けすようなことは にどとしないと やくそくする』

 アンドレアはそれだけ絞り出すように言った。

「……アンドレア、新しい攻撃魔法についてアドバイスが欲しいことは言わなくてもいいの?」

「あぁ。酷いことをしておきながら、アドバイスが欲しいなんて言えねぇよ。今日はとにかく謝っておく。許してもらえないだろうから、ちゃんと火の精の言葉を勉強して、もっときちんとした謝罪が出来るようになったら、また話そうと思う」

 サランが尋ねると、アンドレアは真摯な声で言った。

「そっか……え……⁉ アンドレア! 待って! 火の精が何か言ってる!」

『……ひのせいといっしょにこうげきするときは ゆびからはなさないほうが いい』

 火の精が言った言葉は難しかったが、二人は急いでメモを取ってユノのノートを捲った。

『ありがとうございます……‼』

 ユノのノートを見て解読した後、アンドレアは火の精に感極まったように言った。

『ひかりのまほうつかい まもるために つかって ぼくたちもくらいせかいは きらい』

『かならず そうします!』

 アンドレアがそう言うと、火の精の揺らめきは止まった。

『ありがとう』

 揺らめきは止まったが、声は届くと思いサランも心を込めて言った。

「よかったね。アドバイスもらえて」

「あぁ。しかし、指から離さないように、とはどういうことなんだろうか……」

「確かに。ブーメランみたいにすると、手元に戻るときに難しいから手から離すなってことだよね。でも手から離さないで遠くにいる敵に攻撃を当てるってどういうことなんだろうね……アンドレア、攻撃魔法の種類とか歴史とか載ってる本ある?」 

「確か本棚の中にあったと思う」

 アンドレアはそう言うと暖炉の前から立ち上がって、部屋の片側の壁沿いにぎっしりと本が詰まっている本棚の前に立った。

「前から思ってたけどこの本棚すごくない? めっちゃ勉強熱心じゃん」

「親が跡取りとしてこのくらい勉強しろって勝手に作った本棚だ」

「ふはっそういうことか」

 サランも立ち上がり本棚の前に一緒に立って探しながら笑った。

「あ!! これは? 『炎の攻撃魔法全集』だって。それっぽくない? うわっ」

 サランはそう言って背伸びして上段の本に手を伸ばすと、体がぐらりと傾いた。

「おっと。高いのは俺が取るから言えよ」

 そう言って、アンドレアは難なくサランの体を受け止めた。先日馬の上から降ろされた時も思ったけれど、大きな掌で肩や腰を掴まれて簡単に支えられてしまうことは、サランは男としてなんだか面白くない。湯浴みの後の彼からは、爽やかにいつものシトラスがふんわり香る。

「僕、女の子じゃないからね」

「わかってる。サランがちゃんと女性をエスコートして踊っていたのも嫌ってほど見た。他の人と踊っているのを見るのは嫌だったけど、そんなサランもかっこよくて好きだと思った」

「あ……そう……」

 頬を膨らませて文句を言ったら、思っても見なかった方向から口説かれてサランは毒気を抜かれたように返事をした。アンドレアといると、調子が狂う。頬が赤くなっているのを見られたくなくて、サランは思わず俯いた。

「うわっ……ゴホっ……すごい埃だ……っ」

 アンドレアが『炎の攻撃魔法全集』という分厚い本を棚から取り出すと、埃が舞ってアンドレアがむせた。
 サランは顔を上げると、軽く指を振った。すると宙に舞った埃が一か所にまとまって部屋の隅のゴミ箱の中に落ちた。

「上手いもんだな……どうやったんだ?」

「簡単な清掃魔法だよ。指先に力を込めて、埃の方向にくるっと回すんだ。それでそのまま塊にしたら集中して移動させて、ゴミ箱のちょうど上のところで力を抜くと、ゴミ箱に落ちる。まだちょっと埃が舞ってるからやってみる?」

 サランがそう言うと、アンドレアは神妙な顔で頷いて、指を振った。

「っ難しいな……」

「大丈夫、初めてなのに上手だよ。そう、埃の塊が崩れないように集中して、そのままゴミ箱の上まで移動させて、落として」

「……外した……」

 アンドレアのまとめた埃はゴミ箱の少し横で爆発した。

「僕も初めてやった時こんなもんだったよ」

「幾つの時?」

「五歳になる前かな」

「そんなチビんときか……」

「僕はまぁその分攻撃魔法も防御魔法もあまり得意ではないからね」

 そんなやり取りをしながらサランはさっとアンドレアが零してしまった埃を魔法でまとめてゴミ箱に落とした。

「練習すればすぐにできるようになるよ。さ、その本見てみよう」

 綺麗に埃を取り払った古い本を持って二人はソファに座った。
 途中部屋にサラン二号が入ってきたので、サランの膝に乗せて二人は額を寄せ合うようにして本を捲った。

「ねぇ……もしかして……」

「あぁ、これっぽいな」

 古い本には、魔法使いの指先から細い鞭のような細い炎が放たれている絵とその攻撃魔法の使い方の説明が掲載されていた。
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