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大好きだよ、だからさよならと言ったんだ
20話
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「別れよう、征弥」
この言葉を結人が口にしたのは、一週間後だった。都合良く征弥は地方に一週間ロケに出ていたのだ。お陰で気持ちを整理する時間が出来た。
高俊に楽屋で二人きりになれる時間を作って貰って、結人は言った。
こころは覚悟を決めていたから、痛くない顔が出来たと思う。
「は………?ごめん、何て言った?」
征弥の美しい顔が、少し歪められて固まった。
(こんな顔まで堪らなく格好いいと思うなんて、重症だな)
「別れようって言ったんだ」
「ちょ……待って、俺何かしたか?ごめん。怒らせたなら謝るから」
いつも喧嘩した後の仲直りをするときのように、征弥の腕が結人に伸ばされる。
いつもなら、あの腕の中に納まる誘惑に勝てなくて。どんなに怒っていても、あの腕の温かさの中で征弥の匂いを感じてしまうと許してしまう。今だって、あの腕の中が恋しくて恋しくて仕方ない。でも結人はその腕からするりと逃れた。
「征弥は何も悪いところなんてないよ。でも俺、他に好きな人が出来たんだ」
征弥はそのまま時が止まってしまったかのように固まってしまった。
結人のこころが形有る躯の器官であったなら、きっと止め処なく血が流れていただろう。声が震えないように、痛みに堪えられず涙を溢さぬように。
(出来ないわけない。俺だって、色んな役を演じてきた。震えるな)
征弥の顔が歪んだ。そんな顔まで、美しい男だった。
「そういう冗談、止めろよ」
地を這うように低い征弥の声。
「俺が冗談でこんなこと言うと思うか?」
自嘲するように、結人が笑う。
「そうだな。それじゃ、この前の記事のことで、事務所から何か言われたんだろう?」
あっという間に真実を見抜かれてしまう。
でも、だめだ。
「違う。何も言われてない。好きな人が他に出来ただけだ」
「嘘だ。お前なら俺のために身を引くと思って事務所に別れろって言われたんだろう?結人、俺は別に芸能界で大成なんてしなくて構わないんだ。結人が居てくれたら他の何もかも、いらない。夢だって叶わなくていい。別れるくらいならこんな世界やめたっていいんだ。だから別れるなんて、言わないでくれ」
実はまだこの言葉を聞くまで、心の奥底ではぐらぐらに揺れていた気持ちだったが、征弥の言葉を聞いたときに、結人は決意を固くした。
もう、一緒に居てはいけないのだと。
類い稀なる才能も結人は愛していた。それを潰すのが他ならぬ結人だなんて、そんなの、耐えられなかった……
「違うって言ってるだろ。年下のお守りなんてもう疲れたんだよ。お前のために折角入ったこの世界止めるなんて冗談じゃない。お願いだから別れてくれ」
なるべく抑揚を付けないように、淡々と言った。
「嘘だ。じゃあ、俺の目を見て言えよ!」
結人は正面から征弥を見つめた。
大好きだよ、征弥。誰よりも。
だから、さよならを言えるんだ。
「もうお前のことなんて好きじゃない。さよなら、征弥」
「結人……っ」
激昂した征弥があっという間に距離を縮めて結人の腕を掴む。掴まれたところが燃えそうに熱くて結人は泣きたかった。
楽屋の扉のすぐ前で控えていた高俊と付き人が騒ぎを察し、中に飛び込んできた。
「仕事もプライベートも……っお前以外俺の隣を任せられるやつなんて、居ないんだよっ行くな、結人っ」
取り押さえられる征弥を振り返らずに飛び出した。
征弥が合鍵を持っているので、もう共に暮らす部屋には帰れなかった。征弥が居ない間に荷物を全て運び出して新しい部屋に結人は移り住んでいた。部屋に戻ると結人は崩れ落ちた。
そういえば、溢れるほどに征弥から注がれた愛してるの言葉だったが、結人は一度も好きだとか愛してるだとかを征弥に言ったことがなかった。
「沢山言っておけば、よかった」
思わず呟いた。きっともう口にすることは許されない。涙の膜が瞳に張ったけれど、泣いてはいけなかった。
明日も征弥と仕事で会う。泣き晴らした顔を見られたら、征弥を愛しているのだと、気付かれてしまうから。
この言葉を結人が口にしたのは、一週間後だった。都合良く征弥は地方に一週間ロケに出ていたのだ。お陰で気持ちを整理する時間が出来た。
高俊に楽屋で二人きりになれる時間を作って貰って、結人は言った。
こころは覚悟を決めていたから、痛くない顔が出来たと思う。
「は………?ごめん、何て言った?」
征弥の美しい顔が、少し歪められて固まった。
(こんな顔まで堪らなく格好いいと思うなんて、重症だな)
「別れようって言ったんだ」
「ちょ……待って、俺何かしたか?ごめん。怒らせたなら謝るから」
いつも喧嘩した後の仲直りをするときのように、征弥の腕が結人に伸ばされる。
いつもなら、あの腕の中に納まる誘惑に勝てなくて。どんなに怒っていても、あの腕の温かさの中で征弥の匂いを感じてしまうと許してしまう。今だって、あの腕の中が恋しくて恋しくて仕方ない。でも結人はその腕からするりと逃れた。
「征弥は何も悪いところなんてないよ。でも俺、他に好きな人が出来たんだ」
征弥はそのまま時が止まってしまったかのように固まってしまった。
結人のこころが形有る躯の器官であったなら、きっと止め処なく血が流れていただろう。声が震えないように、痛みに堪えられず涙を溢さぬように。
(出来ないわけない。俺だって、色んな役を演じてきた。震えるな)
征弥の顔が歪んだ。そんな顔まで、美しい男だった。
「そういう冗談、止めろよ」
地を這うように低い征弥の声。
「俺が冗談でこんなこと言うと思うか?」
自嘲するように、結人が笑う。
「そうだな。それじゃ、この前の記事のことで、事務所から何か言われたんだろう?」
あっという間に真実を見抜かれてしまう。
でも、だめだ。
「違う。何も言われてない。好きな人が他に出来ただけだ」
「嘘だ。お前なら俺のために身を引くと思って事務所に別れろって言われたんだろう?結人、俺は別に芸能界で大成なんてしなくて構わないんだ。結人が居てくれたら他の何もかも、いらない。夢だって叶わなくていい。別れるくらいならこんな世界やめたっていいんだ。だから別れるなんて、言わないでくれ」
実はまだこの言葉を聞くまで、心の奥底ではぐらぐらに揺れていた気持ちだったが、征弥の言葉を聞いたときに、結人は決意を固くした。
もう、一緒に居てはいけないのだと。
類い稀なる才能も結人は愛していた。それを潰すのが他ならぬ結人だなんて、そんなの、耐えられなかった……
「違うって言ってるだろ。年下のお守りなんてもう疲れたんだよ。お前のために折角入ったこの世界止めるなんて冗談じゃない。お願いだから別れてくれ」
なるべく抑揚を付けないように、淡々と言った。
「嘘だ。じゃあ、俺の目を見て言えよ!」
結人は正面から征弥を見つめた。
大好きだよ、征弥。誰よりも。
だから、さよならを言えるんだ。
「もうお前のことなんて好きじゃない。さよなら、征弥」
「結人……っ」
激昂した征弥があっという間に距離を縮めて結人の腕を掴む。掴まれたところが燃えそうに熱くて結人は泣きたかった。
楽屋の扉のすぐ前で控えていた高俊と付き人が騒ぎを察し、中に飛び込んできた。
「仕事もプライベートも……っお前以外俺の隣を任せられるやつなんて、居ないんだよっ行くな、結人っ」
取り押さえられる征弥を振り返らずに飛び出した。
征弥が合鍵を持っているので、もう共に暮らす部屋には帰れなかった。征弥が居ない間に荷物を全て運び出して新しい部屋に結人は移り住んでいた。部屋に戻ると結人は崩れ落ちた。
そういえば、溢れるほどに征弥から注がれた愛してるの言葉だったが、結人は一度も好きだとか愛してるだとかを征弥に言ったことがなかった。
「沢山言っておけば、よかった」
思わず呟いた。きっともう口にすることは許されない。涙の膜が瞳に張ったけれど、泣いてはいけなかった。
明日も征弥と仕事で会う。泣き晴らした顔を見られたら、征弥を愛しているのだと、気付かれてしまうから。
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