大好きだよ、だからさよならと言ったんだ

ゆなな

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高俊×尚

あなたをまもりたい2

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「高ちゃん、慣れてるってどういうことなんだろ……」
 結局車の中では付き人や新人マネージャーもいて何だか結人に聞き直すことは出来なかった。
 その後も結人と二人っきりになれる時間はないまま次の撮影も終わってしまった。まだ仕事がある結人と今日の仕事はそれで終わった尚は終にその質問は聞けないまま別れることになったのだ。
 付き人に自宅まで送ってもらっているその最中。
 尚のスマホが震えた。
「冴島社長だ。何だろう?」
 事務所を取りまとめる女社長である冴島から尚に直接電話がかかってくることなんて、殆どない。
(何か怒られることしたっけ? メンバー以外と遊んでもいないし、最近は仕事づくめだし……) 
 ドキドキしながら電話に出る。
『尚? 今どこ? 何してるの?』
 久しぶりに聞く冴島の声にドキドキと心臓が脈打つ。女手一つで事務所を大きくした冴島は尚から見たら本当に魔女のように見えて恐ろしいのだ。
「今撮影終わって帰宅の車です」
尚が答えると
『ちょうどよかったわ。事務所にそのまま来てくれない?社長室ね』
と冴島は言うと尚の返事も聞かずに通話を切った。
「えー……何だろう……こわ……」 
 通話の切れた電話の液晶をしばらく眺めて、そして
「すみません、社長から呼び出されちゃって。行き先事務所に変更してもらってもいいですか?」
と尚は付き人に言った。


*****
「失礼します。尚です」
 社長室の豪奢な扉をノックする。
「どうぞー」
 中から冴島の返事があったのを確認してから尚は室内に入った。
「早かったわね。尚は珈琲と紅茶、どちらが好みだったかしら?」
 出会った頃から変わらない、四十代ほどに見える冴島の実年齢はずっと上だと事務所の先輩達が言っていたのを聞いたことがある。 年齢不詳の、だが恐ろしい魔女のように美しくもある女が赤く塗られた唇を上げて笑うのが尚は恐ろしくて背中がぞくぞくした。
「どっちでも……」
「尚。どんな小さなことでも、即座にはっきりどちらかを選びなさい。そんなではこの世界ではやっていけないと知っているでしょう?」
 赤く濡れた唇がぴしゃり、と尚に言いつける。
「あ……すみません。 では珈琲をお願いします」
尚の返答を聞いた秘書が備え付けのキッチンに向かったのを見て冴島は再び口を開いた。
「すぐ謝るのも駄目よ。まぁ今日はお説教のために呼んだわけじゃないの」
 そう言って、女狐のような恐ろしい魔女のような女は鋭く尖った長い爪で尚の綺麗なラインを描く顎をそっと持ち上げた。
 ふわりと漂った香りは尚と結人がイメージキャラクターを務めたDinoyの香水のラストノート。
  キャンペーンの取材のとき結人が纏っていたその香りはとても芳しいもので、尚はなんだかドキドキしてしまった香りなのに、 冴島が身に纏うと鼻腔から毒素を流し込まれているようにキツく吐き気を催しそうになる。
「今日の午前中に貴方達が撮影したこの香水のCMの映像とっても可愛らしくてよかったわ」
「あ……もうご覧になったんですか……?」
 今日撮影したものにも目を通したというのか?不審に思った尚の心の声に答えるように冴島は続けた。
「お昼にね、Dinoyの真城社長がここにいらっしゃったの」
  真城の名前に嫌な予感がして、どくりと尚の心臓が高鳴った。
「そ……そうなんですね……」
 ひりひりと乾いた喉で返答する。
「貴方と結人、真城社長のパーティー断ったんですって?」
 予感が的中した。やはりパーティーの話だ。
「断ったわけではなくて、マネージャーを通して欲しいと言っただけです……っ」
「そうだったわね。でも、高俊を通すとあの子は貴方達をそういうパーティーには行かせないでしょう?」
「…… はい……」
 冴島の言葉に尚は頷いた。
「高俊は自分が犠牲になればいいと思っているのはわかってるかしら? 貴方達が目当てでも、高俊は綺麗な子だからあの子が行けば大抵の方が満足なさるわ。だから高俊を今回も行かせてもいいんだけど、Dinoyはやっぱり特別よね。香水以外にもテーマ音楽や時計のイメージキャラクターをAceに任せたいって考えて下さってるの。真城さんが出来れば『尚とお話ししたい』とご指名にわざわざ私のところにいらしたの。素敵なお仕事をいただいている感謝の気持ちを事務所としても出来る限り最大限で示したいのよ。だから、尚。今回は貴方がパーティーに出席してくれないかしら? 嫌なら高俊にまた行ってもらうしかないけれど」
 冴島の言葉に尚の頭は真っ白になった。
 自分がパーティーに行かされるからではない。
 高俊がいつも自分達の代わりに? 大抵のクライアントが高俊で満足するって……?
「あの……っ……それって高ちゃんはパーティーで一体何を?」
 必死の形相で聞いた尚に、冴島はその赤く塗られた唇をニィ、と歪めて
「尚もハタチ超えたんだからもう相手の求めてることがわからないわけじゃないわよね? まさか高俊にあんなことまでさせてきて守られるだけで気付かなかったんじゃないでしょうね?」
と言った。それはまるで鈍器で殴られたような衝撃だった。いくら尚でもあの男の嫌らしい目線含まれた意味ははっきりとわかっていた。
 嘘でしょ? 高ちゃん? ほんとなの……?
 いつだって矢面に立って守ってくれる彼はそんなことまでしていたというのか?
 いやだ、いやだ……!そんなことさせたくない。汚い大人達に高俊に触れてほしくない。
「高ちゃんには行かせないで…… っ」
 絞り出したような声で言った尚。
「そう、じゃあ尚が行ってくれるってことでいいのかしら?」
 冴島の問いに尚が頷くと
「言われたとおり、すぐに答えを選べてえらいわね、尚」
と冴島は物語に出てくる悪い魔女のように満足気に嗤った。
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