かきまぜないで

ゆなな

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番外編SS

だめです……っこんなところで……仕事中ですよっ……あっ……(イラスト有り♡)

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「今、手空いてる人いたら誰か沢村先生捜しに行ってくれないかしら? 循環器の山本先生が至急連絡欲しいらしいんだけど」
 ナースステーションに看護師長の声が響いて、空かさず看護師1年目の花梨は手を上げた。
「はいはいはーい、私行ってきまーす」
 これは沢村と話す絶好のチャンスだ。沢村はいつも花梨に優しくしてくれるので、もしかしたらと花梨の期待も膨らんでしまう。
「じゃあ田中さんお願いね……あ、珍しく松浦先生も呼び出し用携帯 出ないのよね。一緒の可能性高いから連れて来てくれる?」
「はーい、松浦先生もですね」
「よろしくね。じゃよーく、気を付けて、ね」
 院内を探すだけなのに『気を付けて』を殊更強調されたのはどういうことだろう?花梨が首を傾げたくなったが、一刻も早く沢村を見付けるべくナースステーションを飛び出した。
 沢村が居そうなところを順に巡って院内を懸命に走り回ったのに結局消化器外科の医局の隣にある面談用の個室から沢村の声が聞こえた。
(やったぁ、やっと見つけた!)
「もーここにいたんですかっ沢村先生……え?…… 松浦先生?」
 ドアを半分くらい開けたところで花梨は小さく固まった。
 なぜなら、部屋の隅の壁に高弥を追い詰めるようにして立つ沢村を見つけたからだ。しかも逃げられないように壁に手を突いて囲っているような体勢だ。
(え……何? 松浦先生が沢村先生に叱られてる?)
「お前の髪ってさぁ、つやっつやだよなー」
 だが花梨が想像したシチュエーションとは言葉とは大分違う台詞が聞こえてきた。
 そう言った沢村の指先を見ると高弥の髪に絡まっていた。
「ちょっと、 沢村先生、仕事中です」
 高弥が迷惑そうな声を出すけれど
「しかもなんでこんな甘い匂いするわけ? 発情期でもねぇのに。俺使ってんのと同じシャンプーだよな?」
 沢村は一向に気にしない様子で高弥の髪の毛の中に鼻先を埋めた。
「俺が買ってきたシャンプー図々しく毎日使ってんだから同じシャンプーでしょ。つーか減りが早いんで少しは遠慮して使ってくださいよ」
(え? 毎日同じシャンプー? ルームシェアしてるの?)
 花梨の頭には疑問符がぽんぽんと飛んだ。花梨の掛けた声に二人は気付いていなかったが、二人の濃密な空気にもう一度声を掛けることが躊躇われて、部屋の入り口に立ち竦んだ。
「俺の匂いとなーんか違うんだよな。すげぇ甘い……」
 絡めた髪に鼻先を埋めて高弥の匂いを嗅ぐ沢村の声こそが、とろりとはちみつを交ぜたみたいに甘い。いつも花梨に掛けてくれる沢村の声も優しいが、そんなものとは比較にもならないどびきりの甘さ。
「ちょっとあんま髪弄んないで下さ……っぁ」
 何が起こったのか、高弥の語尾がどきりとするほど艶を帯びたので花梨の頭が理解に追い付かない。
「なに、お前髪の毛ちょっと引いただけでも感じるわけ?」
 くくっと笑う沢村の声は聞いたことないくらい楽しそうでとろっと甘い。
「 っ……んなわけないでしょうが……っや……」
「首のとこ、鳥肌立ってんじゃん。ぞくぞくしたんじゃねぇの?」
 いつものちょっとクールな笑い方とは違う心底楽しそうな笑い声。
「ぁっだめっ……ここ何処だと思って……ひっ」
 沢村の長い指先が高弥の青いスクラブの襟元から覗く白い首筋をなぞる。
「んっ……」
 それから更に長い指先は高弥のスクラブの上を悪戯に滑って、胸の上でぴたりと止まる。それから長い指先はナニかを軽く弾くような動きをして……
「ココ、もう立ってんじゃん。えっちぃな」
 沢村の声はまるでベッドの中で囁くようなやらしい声。
「やっ……どこ触って……んっ……だめです……っこんなところで……仕事中ですよっ……あっ……」
 止めさせようと抵抗するも片手に書類を挟んだバインダーを持っている高弥は抵抗も儘ならない様子だ。
 そんな高弥の様子に心底楽しそうに沢村は低く笑うと、高弥の口許にあるマクスの紐をくいっと下げた。
 高弥のマスクの下に隠されていた淡く色づくくちびるが覗いた。隠されていたものが強引に露にされるのは何とも淫靡に見える。
「んんっ……」
 沢村のくちびるが高弥のくちびるを塞いだ。軽く何度か押し当てた後。沢村の舌が高弥の咥内に入ったのがわかった。濡れた音がして、貪るように深くくちびるを合わせているのが端から見ていてもリアルに伝わる。
 くちゅくちゅ、と濡れた音が部屋の中に響く。
 こんなの見てはいけないと頭の奥で警鐘がなるけれど、普段は真面目な高弥の肌がスクラブから覗くギリギリまでピンクに染まっているところとか、  意地悪なことばかり言ってるのに、とろっとろの蜜みたいに甘い沢村の声やらに足がその場に張り付いてしまったように動けない。 
 花梨は思わず手に持っていたバインダーを落としてしまった。
 プラスチックがリノリウムの床にぶつかった乾いた音が大きく響く。
 すると、沢村は高弥のくちびるから自身のくちびるを離した。貪られてすっかり赤くなった高弥の濡れたくちびるを沢村は親指そっと拭う。それからゆっくりとした仕草で沢村は振り返った。すると、沢村の視線と花梨の視線がばっちりぶつかった。

「あー……見なかったフリな」
 振り返って花梨に向けた声は、高弥に向けていた甘い声とは全く違って氷のように冷淡だった。
「え……え?なに……?」
 くちびるを突然離した沢村に高弥は戸惑っている様子だが、沢村の姿しか見えていないようで、花梨がいることには気付けていないらしい。倒れこまないように沢村の胸にぎゅっと縋るのでいっぱいいっぱいの様子だ。先程までの高弥の姿から想像できないほど蕩けた表情。瞳はうるうると潤んで、艶かしく色付いた目元。
「何でもねぇよ。ほら、高弥ぁ。舌、出せよ……」
 吸ってやるよ……、と沢村は高弥の方に向き直ると再び腹の奥に響く甘い声を出す。
 その声に従うように開いた高弥のくちびるから、控えめに濃桃の濡れた舌がちらり覗いたかと思うと、獲物を差し出された獣のように沢村はそれに吸いついた。再びくちゅ……という音が響いたところで花梨は漸くその場から駆け出した。
 走って走って走って誰も居ない廊下の隅に辿り着くと、花梨は座り込んだ。
(やばい、なにこれ、めちゃめちゃドキドキする)
 田中花梨、二十三歳。夢はイケメンな医師と結婚すること。

 それなのに、どうやら新しい扉を開けてしまったようだ。 


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