平凡な俺は魔法学校で、冷徹第二王子と秘密の恋をする

ゆなな

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強面騎士団長は宿敵だったはずなのに4章

甘い看病

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「じゃあ着替えようか。少しだけ起き上がれる?」
「ん……」
 アンドレアが少し身を起こしたところで、腰のあたりにふっくらとした羽毛の枕を押し込んだ。
 ローブの前の紐を解いて、用意してもらった清潔なお湯とタオルでゆっくりと彼の体を拭いていく。まだ少し熱っぽいようだが、これはもう火傷の熱ではなくパラリシスの副作用で自律神経が乱れ、体温調節が出来なくなっていることに由来しているのだろう。
 治癒魔法は原因の箇所がはっきりとしている時であればそこに直接働き掛けて、治癒することがたやすいが、自律神経など全身に由来していることが原因だと、ピンポイントで原因がわかりづらいためすぐに効果がでづらい。
 そのため小まめに汗を拭い、体を温めて休ませたり、薬草を飲ませたりするなど地道な治療と治癒魔法を併用していくこととなる。
 首筋から胸、それから引くほど綺麗に割れた腹筋。あまりに見事な肉体に感嘆のため息が出てしまいそうなほどだが、サランは『これは患者、これは患者』と心の中で呪文のように唱えながら拭いていった。患者ならば老若男女問わず、ただの治療対象以上には見えようもないというのに、こんなこと初めてだ。
「今日、随分待たせ上にこんなことになって……ごめん……」
 動揺を押し隠しながら体を拭っていくサランに、掠れた声でアンドレアが言った。
「仕方ないよ。アンドレアは僕との約束を守ろうと思ったから無理したって聞いた。怪我をした時点ですぐに僕のこと呼んでくれればよかったのに」
「仮面舞踏会のときも怪我を治してもらったっていうのに、また怪我なんて、かっこ悪いと思ったんだよ……だから騎士団の治癒師に治してもらってしれっと待ち合わせに行こうと思ってたのに、もっとかっこ悪いことになった……あのヤブ治癒師め……」
 恥ずかしそうに、拗ねたように言う彼は大きな逞しい体をしているくせに可愛らしかった。
「かっこ悪いなんて思わないよ。どっちの怪我も訓練の結果だろ。むしろカッコいいよ」
「カッコいいなんてさらって言うな。期待するだろ……」
「ふはは。なんだよそれ。あ、腕上げられる?」
 拗ねたように言うから、サランは思わず笑いながらアンドレアの体を拭った。
「あのさ……俺、ディナーすごく楽しみにしてた……」
「うん」
「サランは? サランは今夜の約束どう思ってた? 少しは楽しみだった?」
「うん」
「そっか……そうだよな……無理やり誘ったしな……え? もしかして今うんって言った⁉」
「うん。楽しみだったよ。美味しいもの食べるのも好きだし」
「ちぇっ……食い意地だけかよ……」
「……アンドレアと一緒にいるのも楽しいよ」
「じゃあディナーの後家まで送ったら、もしかしてキスくらいなら許してもらえた?」
「……そんなに簡単にキスしませんー」
 そんな際どい話をされて動揺を隠しながら彼の体を拭った。
 いつものシトラスの香りはうっすらとしかしないけれど、それが彼本来の香りと混ざるとなんだかサランの気持ちはいっそう落ち着かない。
「……新しいローブに替えよう。汗で濡れたものを着ていると、良くないから」
 そう言ってアンドレアの着ているローブを脱がそうとすると、彼が軽く腰を上げたり、腕を動かしてくれたので簡単に脱がすことができた。全て露になった彼の肉体は、シュツバルト神殿にある上裸の英雄の像よりも美しく鍛え上げられていて、サランは思わず息を呑んだ。
「さ……さっさと着ないと熱もっと上がっちゃうからね!!」
 そう言って彼の裸体を隠すように新しいローブをがばっと彼の体に掛けた。
「わ……なんだよ……さっさと着るよ。着りゃいいんだろ」
 ローブの着替えが終わると、ベッドにもう一度アンドレアを寝かせた。
 額や首筋に触れて体温を確かめると、やはりまだ熱い。
「そんなに高くはないけど、まだ熱はあるね。しっかり休まないと」
「……サランの手、気持ちいい……」
「ちょっと平熱低めなんだよね。そのせいかな」
「……そういうことじゃねーよ」
 首を傾げながら言ったサランに、アンドレアは苦笑した。
「薬草飲もうか。鎮静作用があるから、症状が楽になると思う」
 そう言って鎮静作用のある薬草から作った水薬の小瓶をアンドレアに渡した。
「苦い……?」
「少しだけだよ」
「じゃあ飲まない」
「……子供じゃないんだから……」
「わかったよ……」
 思いっきり呆れたような目を向けると、諦めたのかアンドレアはぐいっと水薬を飲んだ。
「うぇぇ……苦ぇ……」
「はい、口直しのお水」
 使用人魔法使いが部屋に用意しておいてくれた水をグラスに注いで渡すと、アンドレアは薬の苦さを流すように水を飲んだ。
「この薬を飲んで眠れば、起きた頃には頭痛も治まっているはずだよ」
 サランはそう言って、アンドレアをそっとベッドに寝かせる手伝いをした。
「おやすみ、アンドレア……うわっ」
 布団を胸元までしっかりあげてから、ポンポンと布団の上から軽く叩くと腕をぐいっと引かれてアンドレアの上に倒れ込んだ。
「少しじゃなかった……」
 胸の上に倒れ込んできたサランをぎゅっと抱きしめながらその耳元で囁くようにアンドレアが言った。
「な……何が?」
「薬。すっげぇ苦かった」
「あ……やっぱ苦かった? ごめんごめん。でもパラリスの副作用なら絶対楽になる薬だから」
 小さい子供の患者にするときのように、頭をよしよしと撫でる。
「そんなんで誤魔化されないからな……」
「はいはい。元気になったらちゃんと文句聞くから、今は寝ような……いい加減離して……っ」
 もう休んだほうがいいのに、アンドレアはサランを抱きしめて離してくれない。耳元で話すからくすぐったくて、やたらと心臓がうるさい。
 その時だった。
「助けてくれてありがとう、サラン」
「……っ」
 耳にさっきまでとは違う真摯な声が流し込まれ、ただでさえうるさい心臓が、どくり、とさらに大きな音を立てた。
「大人しく寝るよ。だからこれだけ許して……サラン、好きだ……」
「ひゃ……っ」
 いつもは強面の男が砂糖菓子のように甘い言葉を告げたあと、耳朶の柔らかいところにちゅ、と熱い唇を押し当てた。
 サランの心臓は爆発してしまいそうなほど高鳴ったのに、アンドレアは体が限界だったのかすぐに眠ってしまった。

 真っ赤になったサランはアンドレアの頰をつねってやったけど、サランの薬草で落ち着いたアンドレアは起きることはなかった。

    
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