君想う、故に我あり

篠原怜

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1章-蓮

蓮ー1 

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*本作品は2006年1月~2月ごろ、WEBサイト・PRETENSESにて公開したものの再掲です。

◇登場人物◇
・脇田連(わきた れん) 旧姓は「坂本」。母子家庭で育つ。銀行員。
・脇田真由(わきた まゆ) 蓮の妹。
・坂本志乃(さかもと しの) 蓮と真由の母
・陰山千秋(かげやま ちあき) ホテル経営者の娘。蓮の婚約者。
・脇田律、戎  蓮と真由の腹違いの兄。
・脇田平八郎  蓮と真由の父。もと国会議員。
・風戸     平八郎の使用人。


++++++++++++++++++++++++++



2004年 12月

 冷たい北風の吹きすさぶ高台の墓地で、脇田蓮(わきた れん)は無言のまま黒い御影の墓石を見つめていた。
 郊外にある小さな寺。クリスマス気分に沸く街の喧騒から離れたこの境内にはひと気が無く、時折山門の外を行き交う車の騒音が聞こえてくるくらい。

 学生時代は月命日には必ず母・志乃の墓参りをしていたのだが、この数年というもの仕事の忙しさを理由に、八月の命日以外はここを訪れることをしなくなった。妹の真由(まゆ)でさえそれは同じで、兄と妹が顔を合わせるのも今では年に一度だけとなった。

----何という親不孝な兄妹だろうか。

 そう心に呟いて苦笑いする。
 年月が過ぎたからといって、心の傷が癒えるわけではない。ただ痛みや悲しみに対する感覚が麻痺してしまうか、無意識に辛い思い出を忘却の彼方に押しやってしまうだけなのだ。何かの弾みにそれを思い出しては、身を切られるような痛みに襲われる。

 あまりにも若すぎて無力だった自分。

 たった一人の母を守ってやることもできなかった。そしてまた、自分の野心のために妹の真由の存在を忘れ、彼女の心の孤独にも気づいてやれなかった。その結果真由は身も心も傷つき、東京を離れ遠く白岬(しろさき)へと旅立った。

----母さん。

 目の前の墓石の下に眠る母に向かって、蓮は小さく呟いた。

----もう二度と大切な人が傷つくのを見たくない。どんな手を使ってでも彼女を守りたい。

 脳裏に千秋(ちあき)の笑顔が浮かぶ。長い年月、自分にとって希望の光りだった千秋。彼女がいたから蓮は必死で勉強し、世間に認められるような男になろうと努力した。その千秋は今、兄が起したスキャンダルのせいで傷つき怯え、自分のマンションに身を潜めている。

----俺に力を貸してくれ、母さん。
……彼女と彼女の家族が巻き込まれた災難をどうにか鎮める手立てを教えてくれ、母さん!

 ため息を一つついて、蓮はその場にしゃがみこむ。用意してきた花を供え、線香に火をつける。目を閉じて墓前に手を合わせるうち、あの夏の出来事がゆっくりとまぶたの奥に蘇って来た。
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