1 / 14
1章-蓮
蓮ー1
しおりを挟む
*本作品は2006年1月~2月ごろ、WEBサイト・PRETENSESにて公開したものの再掲です。
◇登場人物◇
・脇田連(わきた れん) 旧姓は「坂本」。母子家庭で育つ。銀行員。
・脇田真由(わきた まゆ) 蓮の妹。
・坂本志乃(さかもと しの) 蓮と真由の母
・陰山千秋(かげやま ちあき) ホテル経営者の娘。蓮の婚約者。
・脇田律、戎 蓮と真由の腹違いの兄。
・脇田平八郎 蓮と真由の父。もと国会議員。
・風戸 平八郎の使用人。
++++++++++++++++++++++++++
2004年 12月
冷たい北風の吹きすさぶ高台の墓地で、脇田蓮(わきた れん)は無言のまま黒い御影の墓石を見つめていた。
郊外にある小さな寺。クリスマス気分に沸く街の喧騒から離れたこの境内にはひと気が無く、時折山門の外を行き交う車の騒音が聞こえてくるくらい。
学生時代は月命日には必ず母・志乃の墓参りをしていたのだが、この数年というもの仕事の忙しさを理由に、八月の命日以外はここを訪れることをしなくなった。妹の真由(まゆ)でさえそれは同じで、兄と妹が顔を合わせるのも今では年に一度だけとなった。
----何という親不孝な兄妹だろうか。
そう心に呟いて苦笑いする。
年月が過ぎたからといって、心の傷が癒えるわけではない。ただ痛みや悲しみに対する感覚が麻痺してしまうか、無意識に辛い思い出を忘却の彼方に押しやってしまうだけなのだ。何かの弾みにそれを思い出しては、身を切られるような痛みに襲われる。
あまりにも若すぎて無力だった自分。
たった一人の母を守ってやることもできなかった。そしてまた、自分の野心のために妹の真由の存在を忘れ、彼女の心の孤独にも気づいてやれなかった。その結果真由は身も心も傷つき、東京を離れ遠く白岬(しろさき)へと旅立った。
----母さん。
目の前の墓石の下に眠る母に向かって、蓮は小さく呟いた。
----もう二度と大切な人が傷つくのを見たくない。どんな手を使ってでも彼女を守りたい。
脳裏に千秋(ちあき)の笑顔が浮かぶ。長い年月、自分にとって希望の光りだった千秋。彼女がいたから蓮は必死で勉強し、世間に認められるような男になろうと努力した。その千秋は今、兄が起したスキャンダルのせいで傷つき怯え、自分のマンションに身を潜めている。
----俺に力を貸してくれ、母さん。
……彼女と彼女の家族が巻き込まれた災難をどうにか鎮める手立てを教えてくれ、母さん!
ため息を一つついて、蓮はその場にしゃがみこむ。用意してきた花を供え、線香に火をつける。目を閉じて墓前に手を合わせるうち、あの夏の出来事がゆっくりとまぶたの奥に蘇って来た。
◇登場人物◇
・脇田連(わきた れん) 旧姓は「坂本」。母子家庭で育つ。銀行員。
・脇田真由(わきた まゆ) 蓮の妹。
・坂本志乃(さかもと しの) 蓮と真由の母
・陰山千秋(かげやま ちあき) ホテル経営者の娘。蓮の婚約者。
・脇田律、戎 蓮と真由の腹違いの兄。
・脇田平八郎 蓮と真由の父。もと国会議員。
・風戸 平八郎の使用人。
++++++++++++++++++++++++++
2004年 12月
冷たい北風の吹きすさぶ高台の墓地で、脇田蓮(わきた れん)は無言のまま黒い御影の墓石を見つめていた。
郊外にある小さな寺。クリスマス気分に沸く街の喧騒から離れたこの境内にはひと気が無く、時折山門の外を行き交う車の騒音が聞こえてくるくらい。
学生時代は月命日には必ず母・志乃の墓参りをしていたのだが、この数年というもの仕事の忙しさを理由に、八月の命日以外はここを訪れることをしなくなった。妹の真由(まゆ)でさえそれは同じで、兄と妹が顔を合わせるのも今では年に一度だけとなった。
----何という親不孝な兄妹だろうか。
そう心に呟いて苦笑いする。
年月が過ぎたからといって、心の傷が癒えるわけではない。ただ痛みや悲しみに対する感覚が麻痺してしまうか、無意識に辛い思い出を忘却の彼方に押しやってしまうだけなのだ。何かの弾みにそれを思い出しては、身を切られるような痛みに襲われる。
あまりにも若すぎて無力だった自分。
たった一人の母を守ってやることもできなかった。そしてまた、自分の野心のために妹の真由の存在を忘れ、彼女の心の孤独にも気づいてやれなかった。その結果真由は身も心も傷つき、東京を離れ遠く白岬(しろさき)へと旅立った。
----母さん。
目の前の墓石の下に眠る母に向かって、蓮は小さく呟いた。
----もう二度と大切な人が傷つくのを見たくない。どんな手を使ってでも彼女を守りたい。
脳裏に千秋(ちあき)の笑顔が浮かぶ。長い年月、自分にとって希望の光りだった千秋。彼女がいたから蓮は必死で勉強し、世間に認められるような男になろうと努力した。その千秋は今、兄が起したスキャンダルのせいで傷つき怯え、自分のマンションに身を潜めている。
----俺に力を貸してくれ、母さん。
……彼女と彼女の家族が巻き込まれた災難をどうにか鎮める手立てを教えてくれ、母さん!
ため息を一つついて、蓮はその場にしゃがみこむ。用意してきた花を供え、線香に火をつける。目を閉じて墓前に手を合わせるうち、あの夏の出来事がゆっくりとまぶたの奥に蘇って来た。
0
あなたにおすすめの小説
嘘をつく唇に優しいキスを
松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。
桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。
だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。
麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。
そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
幸せの見つけ方〜幼馴染は御曹司〜
葉月 まい
恋愛
近すぎて遠い存在
一緒にいるのに 言えない言葉
すれ違い、通り過ぎる二人の想いは
いつか重なるのだろうか…
心に秘めた想いを
いつか伝えてもいいのだろうか…
遠回りする幼馴染二人の恋の行方は?
幼い頃からいつも一緒にいた
幼馴染の朱里と瑛。
瑛は自分の辛い境遇に巻き込むまいと、
朱里を遠ざけようとする。
そうとは知らず、朱里は寂しさを抱えて…
・*:.。. ♡ 登場人物 ♡.。.:*・
栗田 朱里(21歳)… 大学生
桐生 瑛(21歳)… 大学生
桐生ホールディングス 御曹司
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる