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背表紙探偵 瀬野夢幸
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初めてだ。女性の家は。近所のおばあさんの家はある。厳密にいうと違う。初めてじゃない。でも、初めてにしておく。
鼓動が半端ない。周囲に丸聞こえするくらいの、バクバク。視界もボヤけている。目にオブラート直接貼られたんか?みたいな感じ。今、踏んでるのがアスファルトかってくらい。
「ゆめくん?」
女性にしては、カッコいい声。男性にしたら、カワイイ声。そんな声だった。初対面から変わっていない。
まだ、カップラーメンの待ち時間以下の会話しかしてない。会話ではない。言葉のやり取りか。文字の行ったり来たりか。
「ありさちゃん」
突然招かれた。ポテチが主食だと言っただけだ。それだけで招かれた。独り暮らしの女子宅に。
料理は作れない。お菓子が好き。栄養が心配。それの成りの果て。ポテチ袋を開けるのも、かなり苦労はする。食に見放された男だ。
「こっちです」
白い家だ。大きめの家だ。窓が丸い家だ。モアイみたいな家だ。モアイではない。ロボッ卜に近いかもしれない。ホワイトロボだ。
特に興味ない。家はどんな歪んでいてもいい。人住んでる?みたいな家でも別にいい。
怪獣映画で、怪獣がビルなどをなぎ倒しているとき。見えないところで踏み潰されてしまう。そんな家でもいい。
「無駄に、玄関広いんだよね」
いい香りがする。無理矢理、靴の悪臭を殺そうとしてない香り。鼻がペコンとへこむくらい、勢いよく吸い込んだとする。それでも、眉間に痛感がないくらいのいい香りだ。
まあ香りもいい。鳴咽しなければいい。興味ない。建物趣味も、香水趣味もない。ただの物語男だから。
「お仕事は、ノべルノべラ一でしたよね」
ノベルノべラ一とは、小説を色々な角度から述べる。それだけの仕事。小説の紹介動画を、アップしたりもする。
コラムを書くことも多い。本名が古村だから、コラム古村として、活動している。そんな未来が見えなくもない。
出会ったのは、お店だった。如何わしくないお店。店員と客の関係ではなく。客と客の関係だ。カウンタ一というヤツ。そこの、隣り合ったイスに、たまたま座った人と人。
【ラーメン、食べ慣れてないんですか?】
【ポテチが主食で、今日が月1回のラーメンの日で】
【だから、ぽてっとしているんですね】
【えっ?】
【冗談ですよ。酢とか醤油とか、調味料の手前で、手を蝶々のように、ヒラヒラさせ過ぎているのが気になって。たぶん、ラーメン屋さん慣れてないんだろうなって】
【慣れてないんですよ。おかしいですかね。ポテチが主食なのは?】
【普通ですよ。私は、サラダが主食ですから】
【ヘルシ一ですね】
【おせんべいのサラダですけど】
【サラダ味かぁ】
【でも、おかずで、いっぱい野菜食べているから。炭水化物を、おせんべいで取る系女子だから】
【そうなんですね】
【栄養大丈夫?私が作ってあげるよ】
そこから、仲良くなった。その流れで、連絡先を交換して、家行く約束をし
た。栄養ある料理を、体内に入れる約束。それで、ここにいる。
栄養はええよう、というダジャレを言われたって。何を言われたって。本棚の方が気になる。
この世にある、最も正義のあるものって、本棚にある本だなあ。そう思っている。
いい本を読んでいれば、いい人。読んでいる本を縦軸に、女性を判断していた。名字に『本』という漢字が入っている女性だと、興味が1.1倍になる。
それくらいの本好きだ。会話はまだ少ない。女性も特に、喋りかけてこない。何か作業をしている。
引き出しを開けて、別の引き出しに入れる。それをしているだけで、片付けた気になる輩。そんな感じでは全くないが、その輩を思い浮かべていたら、錯覚が表れた。
その女性も、無意味引き出し移動を、しているように見えた。本棚があると、気付いたときから、浮かれている。
「じゃあ、栄養作ってくるね」
「栄養ある料理ね。うん」
「じゃあ、行ってくるね」
「あっ、本棚の本を見てもいい?」
「興味程度に探って探って、散らかしてくれて構わないから」
「ありがとう」
女性がいなくなってすぐ、視線を本棚に向けた。
●一段目の左●
┏━┳━┳━┳━┓
┃私┃引┃煎┃ビ┃
┃の┃き┃餅┃タ┃
┃右┃出┃と┃ミ┃
┃心┃し┃お┃ン┃
┃室┃中┃か┃ビ┃
┃に┃身┃き┃ビ┃
┃何┃移┃の┃ン┃
┃か┃し┃図┃ビ┃
┃い┃健┃鑑┃ン┃
┃る┃康┃ ┃ビ┃
┃ ┃法┃ ┃ン┃
┻━┻━┻━┻━┻
●二段目の右●
┏━┳━┳━┳━┓
┃よ┃う┃こ┃そ┃
┃な┃し┃い┃ん┃
┃よ┃の┃す┃は┃
┃な┃胃┃れ┃得┃
┃朝┃袋┃ば┃へ┃
┃を┃の┃仔┃の┃
┃思┃ひ┃犬┃近┃
┃ふ┃み┃ ┃道┃
┃ ┃つ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┻━┻━┻━┻━┻
頭文字が、ようこそになっている。僕も、ついついやってしまうけど。
玄関前にいたとき、一瞬だけ女性が、目の前から消えたときがあった。その時に変えたのだろう。
縦読みとか、普段からやっていそうだ。でもSNSとかで、匂わせをやる夕イプではないだろう。
そんなことより、変だ。作者の人に、センスを感じる。変わった趣味だ。なぜか、『ビタミンビビンビンビン』が読みたくて仕方ない。
ジャンルは何か、分からない。健康の本なのかな。小説って場合もある。背表紙の雰囲気からして、小説かな。
もしかして、背表紙買いしてないか。そっか、みんながするのはジャケット買いか。よし、背表紙から、女性の性格を読み解こう。
『私の右心室に何かいる』
『引き出し中身移し健康法』
『うしの胃袋のひみつ』
これらの本から、入れ物的なものへの興味がうかがえる。何にもない空間や、空白が好きなのかもしれない。
見えない場所を見たい、知りたいという心理もあるのだろう。まだ、女性の職業を知らない。
背表紙から推測するに、女性は車好きだろう。車くらいの、やや狭い空間が好きなのだろう。
趣味は、カーレースとかだろう。宇宙服みたいなものに、包まれたい願望もあるだろう。でも、職業は別物だと思う。
なぜか、『ビタミンビビンビンビン』が気になって仕方ない。リズムがいい。もしかすると、この本を書いたのは、本人かもしれない。
一段目の左から四番目は、エースだ。野球でいうと、四番打者で、ホームランバッターだろう。
そこに、他の本と毛色の違うものを置くということは、自分の作品だろう。となると、作家か。職業は、作家
か。
背表紙のあの【ようこそ】の横読みも、作家らしい。図鑑、健康法、ビタミンビビンビンビンなど、幅が広い。これは、小説家が、女性の職業の有力候補だ。
女性が引き出しで作業をしているとき、あの輩が思い浮かんだ。それは、引き出しを開けて、その中のものを、別の引き出しに入れる。それをしているだけの輩。
その人は友達だが、もしかすると、ここにある本を読んだのかもしれない。この『引き出し中身移し健康法』を読んだのかもしれない。
ここで、『引き出し中身移し健康法』も女性が書いたのかも知れないという、可能性が出た。女性はあの輩以上に慣れた手つきで、引き出し中身移しをしていた。
編み出した人にしか、あれはできない。背表紙に、名前が書いていないのが残念だ。
書いてあれば、分かるのに。でも、自称背表紙探偵としては、本を開き、それを知ることは、いけないこと。
また気づいてしまった。初めての会話時に【私はサラダが主食です。おせんべいのサラダ味ですけど】みたいなことを言っていた。
【煎餅とおかきの図鑑】も棚にあった。自分で、ここにある全ての本を、書いたんじゃないかと思うくらいだった。
ありさちゃんが戻ってきた。栄養ある料理が、出来たらしい。栄養があると聞いて、思い浮かぶものは、コーンフレークくらいしかだ。
「あっ、ちょっと聞いていい?」
「うん。いいよ」
「ここの本って、ありさちゃんが全部書いたやつでしょ?」
「そうだよ」
「もしかして、小説家さん?」
「違うよ。ラーメン屋さんの傍らで、小説をやっているだけだよ」
「そっか」
「色んな栄養あるものを、煮出したスープのラーメン、冷めちゃうよ」
「うん」
背表紙探偵としては、まだまだ半人前だ。
鼓動が半端ない。周囲に丸聞こえするくらいの、バクバク。視界もボヤけている。目にオブラート直接貼られたんか?みたいな感じ。今、踏んでるのがアスファルトかってくらい。
「ゆめくん?」
女性にしては、カッコいい声。男性にしたら、カワイイ声。そんな声だった。初対面から変わっていない。
まだ、カップラーメンの待ち時間以下の会話しかしてない。会話ではない。言葉のやり取りか。文字の行ったり来たりか。
「ありさちゃん」
突然招かれた。ポテチが主食だと言っただけだ。それだけで招かれた。独り暮らしの女子宅に。
料理は作れない。お菓子が好き。栄養が心配。それの成りの果て。ポテチ袋を開けるのも、かなり苦労はする。食に見放された男だ。
「こっちです」
白い家だ。大きめの家だ。窓が丸い家だ。モアイみたいな家だ。モアイではない。ロボッ卜に近いかもしれない。ホワイトロボだ。
特に興味ない。家はどんな歪んでいてもいい。人住んでる?みたいな家でも別にいい。
怪獣映画で、怪獣がビルなどをなぎ倒しているとき。見えないところで踏み潰されてしまう。そんな家でもいい。
「無駄に、玄関広いんだよね」
いい香りがする。無理矢理、靴の悪臭を殺そうとしてない香り。鼻がペコンとへこむくらい、勢いよく吸い込んだとする。それでも、眉間に痛感がないくらいのいい香りだ。
まあ香りもいい。鳴咽しなければいい。興味ない。建物趣味も、香水趣味もない。ただの物語男だから。
「お仕事は、ノべルノべラ一でしたよね」
ノベルノべラ一とは、小説を色々な角度から述べる。それだけの仕事。小説の紹介動画を、アップしたりもする。
コラムを書くことも多い。本名が古村だから、コラム古村として、活動している。そんな未来が見えなくもない。
出会ったのは、お店だった。如何わしくないお店。店員と客の関係ではなく。客と客の関係だ。カウンタ一というヤツ。そこの、隣り合ったイスに、たまたま座った人と人。
【ラーメン、食べ慣れてないんですか?】
【ポテチが主食で、今日が月1回のラーメンの日で】
【だから、ぽてっとしているんですね】
【えっ?】
【冗談ですよ。酢とか醤油とか、調味料の手前で、手を蝶々のように、ヒラヒラさせ過ぎているのが気になって。たぶん、ラーメン屋さん慣れてないんだろうなって】
【慣れてないんですよ。おかしいですかね。ポテチが主食なのは?】
【普通ですよ。私は、サラダが主食ですから】
【ヘルシ一ですね】
【おせんべいのサラダですけど】
【サラダ味かぁ】
【でも、おかずで、いっぱい野菜食べているから。炭水化物を、おせんべいで取る系女子だから】
【そうなんですね】
【栄養大丈夫?私が作ってあげるよ】
そこから、仲良くなった。その流れで、連絡先を交換して、家行く約束をし
た。栄養ある料理を、体内に入れる約束。それで、ここにいる。
栄養はええよう、というダジャレを言われたって。何を言われたって。本棚の方が気になる。
この世にある、最も正義のあるものって、本棚にある本だなあ。そう思っている。
いい本を読んでいれば、いい人。読んでいる本を縦軸に、女性を判断していた。名字に『本』という漢字が入っている女性だと、興味が1.1倍になる。
それくらいの本好きだ。会話はまだ少ない。女性も特に、喋りかけてこない。何か作業をしている。
引き出しを開けて、別の引き出しに入れる。それをしているだけで、片付けた気になる輩。そんな感じでは全くないが、その輩を思い浮かべていたら、錯覚が表れた。
その女性も、無意味引き出し移動を、しているように見えた。本棚があると、気付いたときから、浮かれている。
「じゃあ、栄養作ってくるね」
「栄養ある料理ね。うん」
「じゃあ、行ってくるね」
「あっ、本棚の本を見てもいい?」
「興味程度に探って探って、散らかしてくれて構わないから」
「ありがとう」
女性がいなくなってすぐ、視線を本棚に向けた。
●一段目の左●
┏━┳━┳━┳━┓
┃私┃引┃煎┃ビ┃
┃の┃き┃餅┃タ┃
┃右┃出┃と┃ミ┃
┃心┃し┃お┃ン┃
┃室┃中┃か┃ビ┃
┃に┃身┃き┃ビ┃
┃何┃移┃の┃ン┃
┃か┃し┃図┃ビ┃
┃い┃健┃鑑┃ン┃
┃る┃康┃ ┃ビ┃
┃ ┃法┃ ┃ン┃
┻━┻━┻━┻━┻
●二段目の右●
┏━┳━┳━┳━┓
┃よ┃う┃こ┃そ┃
┃な┃し┃い┃ん┃
┃よ┃の┃す┃は┃
┃な┃胃┃れ┃得┃
┃朝┃袋┃ば┃へ┃
┃を┃の┃仔┃の┃
┃思┃ひ┃犬┃近┃
┃ふ┃み┃ ┃道┃
┃ ┃つ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┃ ┃ ┃ ┃ ┃
┻━┻━┻━┻━┻
頭文字が、ようこそになっている。僕も、ついついやってしまうけど。
玄関前にいたとき、一瞬だけ女性が、目の前から消えたときがあった。その時に変えたのだろう。
縦読みとか、普段からやっていそうだ。でもSNSとかで、匂わせをやる夕イプではないだろう。
そんなことより、変だ。作者の人に、センスを感じる。変わった趣味だ。なぜか、『ビタミンビビンビンビン』が読みたくて仕方ない。
ジャンルは何か、分からない。健康の本なのかな。小説って場合もある。背表紙の雰囲気からして、小説かな。
もしかして、背表紙買いしてないか。そっか、みんながするのはジャケット買いか。よし、背表紙から、女性の性格を読み解こう。
『私の右心室に何かいる』
『引き出し中身移し健康法』
『うしの胃袋のひみつ』
これらの本から、入れ物的なものへの興味がうかがえる。何にもない空間や、空白が好きなのかもしれない。
見えない場所を見たい、知りたいという心理もあるのだろう。まだ、女性の職業を知らない。
背表紙から推測するに、女性は車好きだろう。車くらいの、やや狭い空間が好きなのだろう。
趣味は、カーレースとかだろう。宇宙服みたいなものに、包まれたい願望もあるだろう。でも、職業は別物だと思う。
なぜか、『ビタミンビビンビンビン』が気になって仕方ない。リズムがいい。もしかすると、この本を書いたのは、本人かもしれない。
一段目の左から四番目は、エースだ。野球でいうと、四番打者で、ホームランバッターだろう。
そこに、他の本と毛色の違うものを置くということは、自分の作品だろう。となると、作家か。職業は、作家
か。
背表紙のあの【ようこそ】の横読みも、作家らしい。図鑑、健康法、ビタミンビビンビンビンなど、幅が広い。これは、小説家が、女性の職業の有力候補だ。
女性が引き出しで作業をしているとき、あの輩が思い浮かんだ。それは、引き出しを開けて、その中のものを、別の引き出しに入れる。それをしているだけの輩。
その人は友達だが、もしかすると、ここにある本を読んだのかもしれない。この『引き出し中身移し健康法』を読んだのかもしれない。
ここで、『引き出し中身移し健康法』も女性が書いたのかも知れないという、可能性が出た。女性はあの輩以上に慣れた手つきで、引き出し中身移しをしていた。
編み出した人にしか、あれはできない。背表紙に、名前が書いていないのが残念だ。
書いてあれば、分かるのに。でも、自称背表紙探偵としては、本を開き、それを知ることは、いけないこと。
また気づいてしまった。初めての会話時に【私はサラダが主食です。おせんべいのサラダ味ですけど】みたいなことを言っていた。
【煎餅とおかきの図鑑】も棚にあった。自分で、ここにある全ての本を、書いたんじゃないかと思うくらいだった。
ありさちゃんが戻ってきた。栄養ある料理が、出来たらしい。栄養があると聞いて、思い浮かぶものは、コーンフレークくらいしかだ。
「あっ、ちょっと聞いていい?」
「うん。いいよ」
「ここの本って、ありさちゃんが全部書いたやつでしょ?」
「そうだよ」
「もしかして、小説家さん?」
「違うよ。ラーメン屋さんの傍らで、小説をやっているだけだよ」
「そっか」
「色んな栄養あるものを、煮出したスープのラーメン、冷めちゃうよ」
「うん」
背表紙探偵としては、まだまだ半人前だ。
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