誕生日ケーキ救済サービス

織賀光希

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誕生日ケーキ救済サービス

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♪ピンポピンポピンポピンポピンポン

「はい」

「誕生日ケーキ救済サービスです」

「お待ちしていました。どうぞ」

隠すつもりはない。

反省している。

でも、フーッと息を吐いた。

黄土色のツナギを着た業者さん。

靴を雑に脱ぎ、部屋に入ってきた。

「失礼します」

「あっ、こっちなんですけど」

手に持っているのは、よくある工具入れではない。

平べったい立方体ではない。

サイコロのような、全ての辺が真四角のボックスだった。

そのボックスの赤色が、目を突いた。

入ってきた業者さんを奥へと、誘導する。

「これです」

床にある、白いクリームで覆われたケーキを指差す。

まだ、美味しそうなホールケーキだ。

「ああ、大丈夫な方ですね。グシャッとしていないので」

「何%残りますかね?」

「これなら、床との接地面だけ、上手く削ればいいので」

業者さんが、電卓のような機械を出し、カチャカチャする。

「どうですか?」

「大体、97.8%はイケると思いますよ」

「そんなにですか?」

「はい」

希望が出てきた。

少しだけ、楽になった。



「事情を聞いてもいいですか?」

「はい」

呼吸をおいて、ゆっくりと口をひらいた。

「娘の誕生日なんです」

「そうでしたか」

業者さんは、言葉を弱める。

やさしい表情で、こちらを見ていた。

「シングルファーザーで、小さな工場で働いているもので。何にも、与えてあげられていなくて」

「手作りですよね。このケーキ」

「分かりますよね。少々、不格好だから」

「いえ、気持ちが込もっていると思ったからです」

真四角の赤いボックスに、手をかけた。

そこから、小さめのプラスチックの板のようなものを、取り出した。

「それで、救済するんですか?」

「あっ、はい」

その折り畳まれたプラスチックを、組み立て始めた。

「出来ました。この二枚のシートの僅かな隙間で、接地面を削り取り、綺麗な部分だけを、上のシートに乗せます」

「そうですか。娘がホールケーキを、ひとりでたくさん食べたいと言っていたので、助かります」

すばやく差し込むと、綺麗にプラスチックの板に乗った。

そして皿には、作ったときと変わらぬ姿が、再現できた。





「ありがとうございました」

「お困りの際は、またご利用ください」

「あっ、あの?」

「はい」

「膝にクリームついてますよ」

「あっ、どうも」

黄土色のツナギのポケットから、ティッシュを出す。

そして、膝をひと拭きして去っていった。


娘の笑顔は、完全に救済された。

心のモヤモヤも、完全に救済された。
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