ライフアフターポイント

織賀光希

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ライフアフターポイント

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死んでしまったよ。
本当に運がない。

「はぁーあ」
ため息した。

今までに、あまり不運がなかったから。
普通に、運よく進んできていたから。

一気に来たのかもしれない。
ドンと、いきなり来たのかもしれない。

「あーあ」
人生の余韻のなか。
色んなことを、振り返ってみた。

いっぱいいっぱい。
いっぱい、助けられて生きてきた。
誰かのおかげで。
軌道に乗った人生だった。

でも、誰のためになって来なかった。
役に立つことのあまりない。
そんな人生だった。





真っ白のなかにボクはいる。
本当に、白だけの世界だ。

ここはどこでもない場所。
そんな場所だろう。

名前も数字も付けられていない。
そんな、ふわりとした場所だろう。

ラフな格好の男がやって来た。
何もない場所に、誰かが来た。

ザ・ラフ男といった感じだ。
ジーパンに黒Tに、スニーカーで。

「ちょとすみません」
「ボクですか?」
「そうです。そこのボクです」

良い話なのか、悪い話なのか。
それさえ分からない。

僕は、世の中に貢献したのか。
そのジャンルのなかで言えば。
していないのだろう。

だとすると、悪い話か。
そうだな、悪い話だ。

「ライフアフターポイントというのがあります」
「あっ、はい」
「ライフアフターポイントというやつはね」

「どんなものなんですか?」
「ちょと難しくて」

「はあ」
「私にも分からないんだけれども」

「どういうやつですか?どういうやつですか?」
「ちょちょちょ。落ち着いてよ」

「すみません」
「いいよ。ちなみにIQギリ3ケタだから」
「そうなんですね。すごいですね」

「すごくないよ。平均くらいだから」
「そうなんですね」
「だから、慌てさせなければ大丈夫」
「はい」

「どういう、ものなんですか?」
「一夜づけしても駄目で」
「ほう」

「二夜づけしたくらいだよ」
「ほう」
「それくらい難しいやつだから」
「そうですか」

「そういうやつだから」
「分かりました」
「いいや。紙配るからそれ見て」
「はい」



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【平均寿命<84>】-【死亡年齢<23>】
=【基本値<61>】

【基本値<61>】×【人間貢献度<97>】
=【ライフアフターポイント<5917>】

◎あなたは、まわりの人間に貢献して
きました。だから、たくさんのライフ
アフターポイントを差し上げます。

◎あなたは、亡くなってもなお。誰か
に何かを与えたい。そう思っている人
間だと。私たちには、周知されていま
す。

◎このポイントを使い、残してきた誰
かにギフトを贈りませんか。次のよう
なものが、贈れます。

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●今までに当事者が、贈ってきたもの
の一例です。これらを参考に、ギフト
をお考えください。

《例》手紙郵送  ⇒ 2000LAP

《例》上質な恋  ⇒ 1000LAP

《例》大型契約  ⇒   450LAP

《例》運の欠片  ⇒   100LAP

《例》天気操作  ⇒  50LAP

《例》ゾロ目会計 ⇒    3LAP

※LAP  ⇒  ライフアフターポイント

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「手紙は、やはりポイントが高いですね?」
「まあ、その世界にないものを、贈るわけだからね」

「ここで書いたものって、普通は贈れないですからね」
「そうだね」

「普通のプレゼントも出来るんですか? ネックレスとか家電とか」
「現物贈答? できるよ」
「そうですか」

「ちなみに、現金は贈れないよ。でも、コード決済?」
「ああ、はい」

「それに、ポイントギフトとしてなら、贈れるみたいだよ」
「はあ」

人にまだ、与えることができる。
そのことに、たくさんの喜びを感じた。

与えてもらうこと。
それは望んでいない。
生まれたときだって。
死ぬときだって。
今だって。

ただ、与えたいんだ。
与えて与えて、与えまくりたいんだ。
意識がある限り。
何かを感じていられる限り。

白いこの場所からは、動けない。
でも、大丈夫だ。
人の幸せが、少し増えるだけで。
会えなくていいんだ。

ここから、ギフトを贈ってゆく。
まだ、誰かの力になれる。
ギフトのことを、必死に考えた。





「とりあえず、例で出てきたもの。すべてお願いします」
「はい、わかったよ。脳のそろばんで、計算しちゃうね」

「暗算、出来るんですね」
「ちょちょ。そろばん習ってた人は、誰でも出来るよ」
「失礼しました」

「あのねぇ。例のもの以外にも、出来るのにな」
「とりあえずなので」

「計算機持ってない?」
「暗算出来るんですよね?」
「話しながら、足す能力はなくてね」

「黙ってますから。計算してください」
「分かったよ。集中して足すよ」
「すみません。ゾロ目会計を、9回に増やせますか?」
「ああもうもう。いいとこだったのに」

「3627ライフアフターポイントですよね?」
「えっ、なんで。はやいな」
「僕も、そろばん習っていたんで」
「そうかい」

「電卓あるじゃないですか」
「2000+1000+450+100+50=3600で。3×9を足すと3627だね。正解!」





幼馴染みの女の子。
その子に、ギフトをしよう。

唯一の、女友達だから。
僕を弟だと思っている。
そう接してきている。

僕もお姉ちゃんみたい。
そう思っていた。

その子には、片想いの相手がいた。
それをずっと、相談されていた。

僕の知らない人だった。
まったく関わりない人だった。





ギフトの予定表が、出来上がったみたいだ。
さっそく、目を通した。



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①【天気操作】で、幼馴染み周辺に雨
を降らせる

②【運の欠片】で、傘のない幼馴染み
に、折り畳み傘を持っている片想い相
手と、偶然のように会わせる

③【ゾロ目会計】の777円を二人で寄
ったコンビニで出す

④【上質な恋】にそこから発展させる

⑤趣味でやっていたSNSがバズり【大
型契約】を芸能事務所とする

⑥全てが順調な幼馴染みに、あなたが
ファンとして書いた文章を【手紙郵送】
する

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「ゾロ目会計9回を、組み込むのムズかったのよ」
「すみません」
「後から、付け足しとくね」
「分かりました」

幼馴染みの、片想いを実らせられる。
ファンとして、想いを伝えられる。
完璧だ。

僕は幼馴染みに、手紙を書いた。
時折、涙を落としながら。
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