鼻歌、買います

織賀光希

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鼻歌、買います

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楽しくなると、すぐハミングしちゃう。

ルルルルル、とすぐ口ずさんじゃう。

気分まかせに。

何も考えることなく。





今日は、やさしいバラード系だ。

ひとりだと思って、ハミングしていた。

でも、近くに人がいた。

スーツを来た、芸能スカウト風の若い女性だ。

私に、芸能スカウトなんて来るはずがない。

だから、他の何かだろう。

「わたくし、ハイハイハイメロディーの綿橋と申します」

自己紹介の後に、名刺を渡して来た。

「今のメロディ一素晴らしかったです」

「あ、ありがとうございます」

「そのメロディー、買い取らせて貰いませんか?」

「い、いいですけど。もう二度と同じメロディ一は奏でられませんよ」

「心配いりません。私、絶対音感があるんですよ」

不思議なものに、つかまってしまった。

「値段によりますよ」

「では、五千円でどうですか?」

「はい。大丈夫です」

「ありがとうございます」

五千円は、ありがたい。

「あの、ちょっと、今録音しちゃうので、待っていてください」

「はい」

『♪フフフフフフン』

「はい、録れました。では、フルで使わせていただきます』

「録音の時は、『フフフ』で録るんですね?」

「はい。鼻歌が、ルルルのときも、ナナナのときも。わたくし達は、フフフで録らさせていただいております」

「他でも、こうやって、鼻歌を買い取っているんですか?」

「はい。結構いらっしゃいますよ、街中で美しい音色を響かせている人は」

「そうですか」
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